2014-04-25

じっくり眺める天竺様『東大寺大仏殿』<建築編>@奈良市

じっくり眺める天竺様『東大寺大仏殿』<建築編>@奈良市

奈良の大仏さまがおわす『東大寺』。そのお住いである、世界最大級の木造建築『大仏殿』(国宝)も、中国・宋の技術を取り入れた「大仏様(または天竺様)」という、独特の建築様式の素晴らしい建物です。頭上は高く抜けていて、柱と梁と貫の交差が延々と続くような不思議な感覚が味わえます。その魅力を簡単にまとめてみました。


大仏殿は3代目。天平時代は横幅1.5倍!

奈良市の華厳宗大本山『東大寺』。有名な「奈良の大仏さま」(国宝・銅造盧舎那仏坐像)がおわすお寺として有名で、修学旅行などでお参りしてその大きさに驚かれた方も多いでしょう。

奈良の大仏さまにお詣りする際には、ぜひそのお住まいである、世界最大級の木造建築『大仏殿』(国宝)にも注目してみてください。


●大仏さまの開眼供養が752年。東大寺大仏殿はその後の758年

●1181年、平重盛の南都焼討ちで焼失。重源上人が再建のために奔走し、後白河法皇や源頼朝の支援を集め、1185年に大仏開眼法要が、1190年に再建された大仏殿の落慶法要が営まれた

●1567年、三好・松永の戦い(東大寺大仏殿の戦い)により、大仏殿はまたも焼失。仮堂も台風で倒壊し、しばらく大仏さまは雨ざらしの状態に。公慶上人の尽力により、徳川綱吉やその母・桂昌院などの寄進が集まり、1691年に大仏さまの修理が完成。1709年に大仏殿も再建された

つまり、現在の大仏殿は3代目で、江戸時代のものとなります。この時、高さ・奥行きは創建当時のサイズのままですが、間口(横幅)は、「11間(約86m)」→「7間(約57m)」へと、ほぼ3分の2に狭まりました。

これは、江戸時代にはすでに大仏殿に使用できるような巨木が手に入らなかった、というのが最大の理由だったそうです。

あれだけ大きな建築物ですが、天平時代には今の「1.5倍(!)」も幅があったというのですから驚きますね。大仏殿の前に立ったら、創建当時のサイズを想像してみてください!


東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-01

東大寺の金堂にあたる、国宝の木造建築物『大仏殿』。外観からは2階建てのように見えますが、下の屋根はいわゆる「裳階(もこし)」と呼ばれるもので、巨大な単層の建築です。下層の屋根の中央にあるアーチ型の屋根は「唐破風(からはふ)」といいます

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-24
東大寺大仏殿を正面から見たところ。現在の横幅は「7間(約57m)」ですが、創建当時は「11間(約86m)」と、現在の1.5倍でした。柱の間を数えると7つありますが、これが左右に2つずつ広がると考えるとイメージしやすいかもしれません


唐破風下の「観相窓」。年越しに開扉します

中央の「唐破風」の下に注目してみると、小さな扉がついています。ここは「観相窓(かんそうまど)」と呼ばれ、遠くから大仏さまのお顔が拝見できるようになっています。

観相窓が開くのは、毎年の大晦日~元旦にかけて。奈良の各種イベントに合わせて開扉されることもありますので、ぜひ貴重でありがたいお姿をお参りしてみてください。


東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-04

大仏殿の巨大な「唐破風」。これだけで幅約16mほどあります。屋根の庇(ひさし)をより高く、より前に出すために、いろんな建築的な工夫が凝らされています。じっと見ているだけでも美しいですね

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-05
中央に閉じられている扉が「観相窓(かんそうまど)」。扉が4枚あります。ここが大晦日~元旦にかけて開きます

『しあわせ回廊 なら瑠璃絵 2014』-01
毎冬の恒例イベントとなった『しあわせ回廊 なら瑠璃絵』(紹介記事)2014年版の時に、観相窓が特別に開扉されていました

『しあわせ回廊 なら瑠璃絵 2014』-02
アップで。こう見ると扉が2枚しかないように見えますが、どんな造りなんでしょうね?

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-06
観相窓の上の、大きな梁(はり)を支えるパーツ「蟇股(かえるまた)」の中央には、堂々とした獅子がいます。大仏さまの頭よりも高いところにいますから、普段はなかなか気づきませんね


屋根を支える「六手先」の斗きょうが特徴

3度の再建を経た東大寺大仏殿ですが、建築様式としては、鎌倉時代に流行った「大仏様(だいぶつよう)」(Wikipedia)、または「天竺様(てんじくよう)」という手法を用いています。

平氏の南都焼討で焼失した東大寺の再建の際に、先頭に立ったのが東大寺僧・重源上人でした。重源は中国大陸の「宋」の国にわたった経験もあり、それまでの寺院建築「和様(わよう)」ではなく、当時の宋の最先端のスタイルを導入したと言われています。江戸の再建の際にも、大仏様は活かされました。

大仏殿の前に立って軒下を見上げてみると、軒を支える複雑な「斗きょう」が目につきます。

他の寺院建築でも見かけるパーツですが、東大寺大仏殿、そして南大門だけに使用された「六手先(むてさき)」という組み方です。「挿肘木」という部材で、6段階にもわたって前へ前へと伸ばすという、とてもシンプルながら力強い手法ですね。

その他、●天井はなく屋根裏の木も見える、●柱の間に水平方向に通す「貫(ぬき)」を多用する、といった特徴もあります。


東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-02

大仏殿の軒を見上げたところ。複雑で美しいですね

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-03
軒を支えるパーツ(斗きょう)が6段階にわたって前方へ出る「六手先」という手法です。東大寺でしか見られない豪華なもので、横方向ではなく、前側だけに伸びるのが大仏様の特徴です。奈良の古刹では「三手先」くらいのものが見られます


柱・梁・貫が幾重にも交差する様子が見事!

東大寺大仏殿の中に入ってみても、他のお堂には見られない特徴的な建築様式が多数見られます。

難しいことは知らなくても、頭上が高い吹き抜けのようになっていて、縦方向の柱、横方向の梁と貫が幾重にも交差する様子は、構造的にとても美しいんですよね。他の寺院では見られない貴重な建築ですから、ぜひ注目してみてください。


東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-08

奈良の大仏さまこと「銅造盧舎那仏坐像」。その大きなお姿に目が行きがちですが、その頭上に注目すると、格子が美しい「格天井(ごうてんじょう)」になっています。その横の柱部分を注目してみると……

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-18
柱の間を水平方向に「貫(ぬき)」が通っていて、その終端が柱から飛び出しているのが見えます。これは「木鼻(きばな)」というパーツです。後の時代になると、この部分に細やかな彫刻を施し、象や獅子の形にしたりしました。大仏殿では少し雲型に近づいている程度で、まだシンプルですね

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-12
外観からは2階建てのように見える大仏殿ですが、堂内から見ると単層なのが分かります。下の屋根(裳階)の部分は低くなっていて、それが大仏さまの大きさに合わせるように、3段階に狭まっています。建物の強度と高さを両立させるための工夫です

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-10
柱と梁と貫が交錯した、構造的で美しい空間です。柱を見ると、金属の輪っか(銅輪)がかけられています。江戸時代の再建の際に、すでにこのサイズの木材が調達できなくなっていたため、芯となる槻(つき)を檜板で囲い、鉄釘と銅輪で締めて柱としたのだそうです

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-11
見上げてみると、そのとんでもない高さが実感できます

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-13
大仏さまの光背を後ろ側から。貫が斜めに出ていたりするところも見られますので、大仏さまの背後も見どころがいっぱいです!

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-14

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-15

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-16

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-19
ちなみに、大仏殿の一角には、こんな急な階段がついています。化粧屋根の裏側に出られるのでしょうか?いつか登ってみたいです!


「大仏様」は東大寺南大門でも見られます

参考までに、「大仏様」の建築様式が見られる建物をご紹介しておきます。

まずは、もちろん東大寺『南大門』でしょう。1203年に重源上人が再建した当時のものがそのまま残っている、とても貴重なものです。

また、兵庫県小野市の『浄土寺』(紹介記事)の本堂「浄土堂」(国宝)も、貴重な大仏様を伝える建築です。

ここは、鎌倉時代の東大寺復興の拠点として作られた、全国7ヶ所の「東大寺別所」の一つ。東大寺との繋がりが深かったため、建築様式は大仏様で、しかもご本尊は慶派を代表する大仏師・快慶の国宝「阿弥陀三尊像」です!地方にありながら最先端の文化を取り入れたお寺だったのです。とても素晴らしいお寺ですので、ぜひお詣りしてみてください!


東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-20

大仏様(天竺様)の建築様式を、もっともよく伝えるのが東大寺『南大門』です。慶派仏師が集結して作り上げた国宝の巨像「木造金剛力士立像」が護る門ですね。軒の下あたりをみると、他の和風建築とはかなり違った特徴が見られます

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-22
大仏殿と同様に、「挿肘木」という部材を6つも重ねて前に出す「六手先(むてさき)」という手法を用いています。その間を補強するように、水平方向の貫が通っているのも特徴ですね

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-21
南大門の四隅は、3つの六手先の斗きょうを用いています。軒の裏側の棒(垂木)が、短く切って長さを調節したりせず、放射状(隅扇垂木)に配置されているのも特徴です

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-23
天井板はありませんから、柱と貫の連続がずっと見られます。見上げていると目がくらむような不思議な光景なんですよね

東大寺大仏殿<建築編>@奈良市-25
兵庫県小野市の『浄土寺』浄土堂も、大仏様が観られる貴重な建物です。外からはそれほど特殊な印象はありませんが、内部に入るとまさに大仏様という貫の連続で、その中央に巨大な快慶作・阿弥陀三尊像がいらっしゃいます


大仏殿といえば「柱くぐり」でしょう

大仏殿の名物ともいえる「柱くぐり」。この日も結構な行列になっていました。この穴の大きさは「高さ30cm・幅37cm・長さ120cm」で、大仏さまの鼻の穴と同じサイズだと言われたりします。この柱は、大仏殿の鬼門(北東)に当たる部分にあるため、穴を開けて気の流れを良くする、ある種の厄除けのような効果を狙って開けられています。

大仏殿の柱の穴をくぐれば、無病息災のご利益があるとも言われています。お子さんたちはスイスイとくぐっていきますが、大人の方がチャレンジするには勇気がいるでしょう。

私は、身長170cm弱・中肉中背の男ですが、それほど無様にもならずに通り抜けられました。コツは「肩を斜めに入れること」です。ぜひチャレンジしてみてください!


東大寺大仏殿<仏像編>@奈良市-37

この日も大人気だった「大仏殿の柱くぐり」。この一角はテーマパークのようになっていますね。この柱の穴をくぐれば無病息災で過ごせるといいます

東大寺大仏殿<仏像編>@奈良市-38
皆さん、記念撮影しながらくぐるので、それなりに時間がかかります。大人でも十分にくぐれますので、ぜひチャレンジしてみてください!


石畳に擬宝珠、古の東大寺の復元模型など

東大寺大仏殿<仏像編>@奈良市-07
大仏殿前の石畳は、インドから日本までの仏教伝来のルートを表していて、中央からインド産・中国産・韓国産・日本産の石を使用しているのだそうです

東大寺大仏殿<仏像編>@奈良市-10
大仏殿前の擬宝珠(ぎぼし)。よく見てみると、奉納した方々のお名前や時期が刻んであります。大仏殿の一部にずっとその名前を残せるなんて、すごいことですよね!

東大寺大仏殿<仏像編>@奈良市-34
大仏殿の北西側には、かつての東大寺の姿を忠実に再現した模型が置かれています。東西に七重塔がそびえ、大仏殿も今よりも大きかったのですから、その姿はどれだけ見事だったことか。その威容を想像してみてください



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■東大寺

HP: http://www.todaiji.or.jp/
住所: 奈良県奈良市雑司町406-1
電話: 0742-22-5511
宗派: 華厳宗大本山
本尊: 盧舎那仏(国宝)
創建: 8世紀前半
開基: 聖武天皇
拝観料: 大仏殿-500円、法華堂-500円、戒壇院-500円など
拝観時間: 8:00 - 17:00(季節・施設による)
駐車場: 近隣に有料駐車場あり(一日1,000円程度)
アクセス: JR奈良駅・近鉄奈良駅より、市内循環バス「春日大社大仏殿前」下車、徒歩5分

※実際にお詣りしたの「2014年3月28日」でした


■参考にさせていただきました

奈良の名刹寺院の紹介・仏教文化財の解説など「斗きょう・蟇股・木鼻」
奈良の名刹寺院の紹介・仏教文化財の解説など「寺院建築-大仏様」
東大寺 - Wikipedia
東大寺盧舎那仏像 - Wikipedia
大仏様 - Wikipedia


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