2014-05-03

重文・十一面観音像のおわす無住寺『置恩寺』@葛城市寺口

重文・十一面観音像のおわす無住寺『置恩寺』@葛城市寺口

葛城山の山裾に建つ、葛城市寺口の『置恩寺(ちおんじ)』は、平安時代中期の国重文「十一面観音立像」を祀っています。檀家もなく無住のお寺ですが、区長さんを中心に寺口地区の皆さんで管理なさっています。優雅な表情の、見事なプロポーションの美しい観音様とお会いできました!(※拝観には事前予約が必要です)


行基の開基と伝わる、布施氏の氏寺

葛城市寺口の『置恩寺』は、奈良時代の初期、神亀年間(724~729年)に、第42代「文武天皇」の勅願により、高僧・行基が開基したという寺伝のある古刹です。

奈良時代末~平安時代初めに「置染(おきぞめ)氏」の氏寺として建立され、中世にはこの地を支配した「布施(ふせ)氏」の氏寺となりました。室町時代まで大伽藍を配していましたが、近くにある「二塚古墳」に築かれた二塚城が元亀年間(1570~1573年)に落城した際に、その兵火が及び、本堂を残して焼失してしまいました。

現在は、高野山真言宗の寺院となっていますが、無住で檀家も無い状態だとか。毎年4月23日、同じ葛城市の「當麻寺 中之坊」から僧侶が来て、「薬師お会式」の法要を営むのだそうです。

収蔵庫には、国重文の「十一面観音立像」が安置されていますが、ご住職がいらっしゃらないため、現在は地区区長さんを中心に、寺口地区の皆さんで管理なさっています。

拝観をご希望の方は、まずは「葛城市商工観光課(0745-48-2811)」に電話して、日時の希望などをお伝えして、管理なさっている区長さんへ連絡を入れてもらってください。


置恩寺@葛城市寺口-01

葛城市寺口にある『置恩寺(ちおんじ)』は、葛城山系の山裾のかなり高い位置にあります。県道254号線から山側へ車で5分ちょっと。道幅が細いので運転にはご注意を。写真はお寺の裏手ですが、ここに車が何台分か停められるスペースがありました

置恩寺@葛城市寺口-02
置恩寺付近から奈良盆地を見下ろしたところ。曇り空のため、あまり見晴らした感はありませんが、大和三山などもきれいに見えます

置恩寺@葛城市寺口-03
『置恩寺』の境内。手前が本堂で、中にはご本尊・薬師如来坐像が祀られているとか。奥が(おそらく)現在は収蔵庫に安置されている十一面観音像を祀っていた観音堂でしょう。ずっと無住の状態が続いているようで、建物の老朽化が目立ちます

置恩寺@葛城市寺口-04
境内に立つ収蔵庫。通常は開いていませんので、拝観希望の方は事前予約が必要です

置恩寺@葛城市寺口-05
置恩寺・収蔵庫の内部。等身大の十一面観音さまを中心に、かなりユニークな仏さまもいらっしゃいました。きれいなお花が飾ってあって、仏さまが地域の方々から大切にされているのが伝わってくるようです


等身大の美仏!国重文・十一面観音立像

収蔵庫に安置されている「十一面観音立像」(重文)は、平安時代中頃(11世紀はじめ)の造像で、像高172.0cmと等身大の尊像です。

かなり立派なサイズなんですが、間近に拝見すると威圧感のようなものは感じられません。天井の高い宝物庫の中心にいらっしゃることも理由の一つですが、おろした手が極端に長くもなく人間のようなプロポーションであること、全身から穏やかな雰囲気がにじみ出ていることなどから受ける印象かもしれません。

左足に重心をのせ、右足の膝を軽く前に出していて、リラックスした感じが伝わってくるようです。表情もとても穏やかで、衆中を包み込む慈悲があふれていますね。立ったり座ったりしながら、じっと拝見できました。

失礼な言い方ですが、それほど有名でもない無住のお寺の収蔵庫に、これだけの美しい仏さまがいらっしゃるのが、さすがは奈良ですね!本当にすごいことだと思います。


置恩寺@葛城市寺口-06

「国指定 重要文化財 十一面観音立像(像高172.0cm)

檜(ひのき)の一木造リ。頭部・体部・左右の上ハク(※肩から肘まで)部まで一本の木から掘出し、両手前ハク、両足先、頭上の化仏(いずれも後補)をはぎつけ、像内は刳っていません。眉のわん曲が大きく、鼻筋が細く、微笑をたたえる唇の顔だちは、優しく上品で、重心をわずかに左足にのせ、右足の力をぬいて立つプロポーションは、比較的均整がとれています。平安時代の中ごろに造られたものと推定されます。」

置恩寺@葛城市寺口-07
置恩寺の国重文「十一面観音立像」。古い時代の十一面観音像は、手が極端に長いものも多いのですが、人間っぽいバランスです

置恩寺@葛城市寺口-08
見上げたところ。割れを防いだり軽量化する目的で、像内の見えない部分を刳る「内刳(うちぐり)」を施していないとか。かなり重い像でしょう。葛城山のエリアも何度か戦禍に巻き込まれていますが、よく焼かれもせずに残ったものだと感心してしまいます

置恩寺@葛城市寺口-09
表情も穏やかです。衣紋などの表現はシンプルですが、優美さを感じさせます

置恩寺@葛城市寺口-11
頭上に乗った「化仏(けぶつ)」は、後の時代に作りなおされたもの。かなり大きめで、滋賀の渡岸寺観音堂・十一面観音像を連想しそうです。シンプルな光背とのバランスもいいですね!

置恩寺@葛城市寺口-12
収蔵庫にかかっていた、文化財の指定書。向かって右の板が、大正11年(1922年)7月15日に旧国宝に指定された時のもの。住所も昔の新庄村になっています。左が、昭和25年(1950年)8月29日の「重要文化財指定書」。歴史を感じますね


不思議な大黒さま、騎馬した勝軍地蔵も

置恩寺@葛城市寺口-13
十一面観音像の向かって右手には、不思議な印象の大黒様と、馬に乗った仏さまが

置恩寺@葛城市寺口-14
手前にいらっしゃるのが「大黒天立像」。詳細は一切不明ですが、それほど古いものではないでしょう。大黒天さんらしく小槌と袋を持っていますが、横から見ると袋が薄い!さらに紫の布製の袋が上からかけられているといて、ちょっと不思議な感じでした(笑)

置恩寺@葛城市寺口-15
奥にいらっしゃるのは、お姿は韋駄天像のようですが、馬に乗っていらっしゃいました。調べてみたら「勝軍地蔵(しょうぐんじぞう)」でした。京都・愛宕神社を中心にした火伏せの信仰がもとで、甲冑を身につけています。戦いに勝ち願いをこめて、鎌倉時代以降に武家に信仰されたお地蔵さまだとか

置恩寺@葛城市寺口-17
勝軍地蔵は、優しいお顔のお馬さんに乗っています

置恩寺@葛城市寺口-16
よく見ると文様もきれいに遺っています。勝軍地蔵は武器を手にしたものも多いそうですが、こちらは錫杖に宝珠と、お地蔵さまらしいセットでした


三面六臂の迫力ある「三宝荒神」も

置恩寺@葛城市寺口-18
十一面観音像の向かって左手には、「三宝荒神」(Wikipedia)像が。仏教・神道・密教・山岳信仰などが混交して表れた仏で、不浄を除くとされることから、火と竈の神として信仰されてきました。三面六臂(お顔が3面、手が6本)で、見た目は明王像のよう。体の赤も、金色の文様もよく遺っています

置恩寺@葛城市寺口-19
目は玉眼入り。迫力の表情ですね

置恩寺@葛城市寺口-20
別角度から

置恩寺@葛城市寺口-22
十一面観音像の背後には、牛に乗った大威徳明王像や、小さめの観音さま(おそらく西国三十三所のご本尊たち)などがいらっしゃいました



■安養院 置恩寺

HP: 参考サイト(葛城市)
住所: 奈良県葛城市寺口706
電話: 商工観光課(0745-48-2811)
宗派: 真言宗
本尊: 薬師如来
創建: 奈良時代初期(伝)
開基: 行基(伝)
拝観料: 志納
駐車場: 周辺に停められます
アクセス: 近鉄御所線「近鉄新庄駅」より、徒歩約40分

※拝観をご希望の方は、事前に電話予約が必要です。まずは「葛城市商工観光課(0745-48-2811)」に電話して、日時の希望などをお伝えして、管理なさっている区長さんへ連絡を入れてもらいましょう


■参考にさせていただきました

置恩寺の薬師お会式 - 葛城市
置恩寺(奈良県葛城市)―絶妙なバランスで立つ凛々しき観音 祇是未在
置恩寺 鼻筋の細い美しい十一面観音立像 | 念彼観音力 ―タイガースカフェの仏像・巡礼ブログ―
...ストイックに仏像...|奈良/置恩寺『葛城の十一面観音が凄い!』
奈良県 ・ 置恩寺「色気の十一面の巻」 : ひたすら仏像拝観






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