2008-10-25

10万本のコスモスと十三重石塔の『般若寺』

般若寺(コスモス寺)

しばらくドタバタしていたため行く機会が無かった、初秋の奈良の風物詩『般若寺』のコスモスを見てきました。とても小さなお寺ですが、境内一面のコスモスは見事で、それに合わせて秘仏のご開帳などもされていたため、それなりに楽しんで帰って来ました。


「花のお寺」「コスモス寺」の般若寺

まずは簡単にその歴史のおさらいから。

寺伝によると629年高句麗の僧慧灌がこの地に寺を建て文殊菩薩像を安置したのに始まり、その後天平7年(735)聖武天皇の時、平城京の鬼門鎮護のため堂塔を造営されたと伝えられています。京都から奈良への要路にあたるため、治承の兵火で戦火をこうむりましたが、西大寺の叡尊上人により文殊の霊場として復興され、庶民救済の文殊会を盛んに開くようになりました。

「奈良市観光情報センター」より引用

創建時のことは資料に残っていないようですが、奈良と京都を結ぶ街道沿いの奈良坂の頂上付近にあるため、軍事的な要衝としても何度も戦禍に巻き込まれてきました。1180年の平重衡による南都焼き討ち、1567年の松永久秀の兵火などでは、東大寺・興福寺とともに大きな被害を受けてきたそうです。

お寺には鎌倉時代の伽藍の様子が絵に描かれていましたが、今からは想像もつかないような大伽藍を持っていたことが分かります。

今では、すっかり規模も小さくなってしまいましたが、関西花の寺二十五霊場の17番札所に名を連ねる「花の寺」として知られるようになりました。特に「コスモス寺」として有名で、早咲きから遅咲きまでの各種コスモスは、その数「約10万本」!9月中旬~10月下旬ごろまで楽しめます。

ちなみに、お邪魔したのは盛りが終わるギリギリの辺りで、コスモスもだいぶ伸びきってしまっていました。もう少し早い時期に来ていたらもっとキレイだったと思います。


般若寺-01

奈良市の北部に位置する『般若寺』。東大寺の転害門の通りを北上した、奈良坂と呼ばれる登り坂の上にあり、奈良と京都を結ぶ道の要衝として、何度も戦火に巻き込まれてきました。今では「コスモス寺」として知られる小さなお寺です


般若寺のシンボル「十三重石宝塔」

般若寺のシンボルとなっているのが「十三重石宝塔(重文)」でしょう。高さ14.2メートルの十三重の石塔で、鎌倉時代のもの。これだけの大きな石塔は日本では珍しく、木造建築物を見慣れた目には、どこか不思議な印象があります。

しかし、やはり般若寺といえば「十三重石塔とコスモス」の構図が有名ですから、この時期には多数の観光客が押し寄せてきていました。

ちなみに、この塔の初層には、四面に薬師如来・釈迦如来・阿弥陀如来・弥勒菩薩が掘ってあるそうです(実際にはあまりよく見えません)。この東向きの面の薬師如来が、西国薬師四十九霊場のお薬師さんなのだとか。


般若寺(十三重石塔)-02

般若寺のシンボル「十三重石宝塔(重文)」とコスモス。9月末ごろから咲き始めたコスモスは、11月末になっても、まだほぼ満開に近い状態でした。背が伸びてくるのか、大人の身長ほどもあって、決して可憐だとは言えませんが。。。。

般若寺(十三重石塔)-03
十三重石宝塔(高さ14.2メートル)とコスモスの花。この被写体が最も般若寺らしい一枚でしょう

般若寺(十三重石塔)-04
十三重石塔とコスモス。幾多の戦乱に巻き込まれた般若寺ですが、この塔の昭和の大修理の際に、5重軸石から阿弥陀如来像が発見されたのだそうです。廃仏毀釈の時代に倒されたりと、この塔もいくつもの災難を乗り越えてきています

般若寺(十三重石塔)-05
般若寺は、西国薬師四十九霊場の「3番札所」です。ご本尊は獅子に乗った「文殊菩薩像」ですし、どこにお薬師さんが・・・と思ったら、この十三重石塔の初層の岩に薬師如来が刻み込んであるのだそうです

般若寺(十三重石塔)-06
岩に彫ってあるためかなり見づらいですが、薬師如来の姿が見えます。画像にするとほとんど分からないかも・・・(ちなみにご本尊の薬師如来立像は、奈良国立博物館へ寄託されている金銅仏だそうです)


境内の10万本(!)のコスモスが圧巻!

本堂は1667年に再建された簡素なもの。ご本尊の「文殊菩薩(重文)」は、ご存知のように「知恵の仏様」で、勇ましい表情の獅子に乗っています。本来は「普賢菩薩(象に乗ってます)」さんとのコンビで釈迦如来の脇侍としていらっしゃるものなんですが、コチラは文殊さま単独でした。

長い間「秘仏」として公開されていなかった仏像だけに、まだ彩色も残っていて、とても印象的な仏さまです。

なお、この文殊さまの前には、人の動きを感知して点灯するライトが置いてあり、お厨子の中の姿もかなりハッキリと見えます。常時ライトを照らしていたのでは痛んでしまいますし、かと言って薄暗いままでは細部までよく見ることが出来ません。さすがに参拝客が引っ切り無しに押し寄せる大寺院では真似できないとは思いますが、他のお寺でも取り入れて欲しいシステムだと思います。

あと、般若寺には多数の「観音石仏」があり、これもなかなか風情があります。個人的な好みなどもあると思いますが、「石仏とコスモス」ってよく合いますよね。

コスモスは、明治期に日本に持ち込まれた外来種ですので、昔からこんな風景が見られたワケではありません。でも、花に関する知識が皆無の私にすら、どことなく心落ち着くような、物悲しいような気持ちにさせてくれるのですから、不思議なものですね。


般若寺(本堂)-07

般若寺の本堂と一面のコスモス。戦国時代に焼け落ちたものを、1667年に再建したもの。本堂の作り自体はそれほど派手なものではありません。ご本尊は「文殊菩薩(重文)」で、慶派の仏師・康俊、康成の、1324年の作。とても美しい仏像さんでした

般若寺(本堂)-08
般若寺の「本堂(県文化財)」。手前にあるのは、上に不動明王がある大きな岩です

般若寺(本堂)-09
本堂の脇には、多数の観音石仏が。これは元禄時代のもので、西国三十三所の観音仏を表しているのだとか。昭和初期の十三重石塔の写真を見ると、この石仏たちは石塔を取り囲むように配置されていました

般若寺(観音石仏)-10
般若寺の観音石仏たちとコスモスの花。とてもいい風情ですね

般若寺(秋桜)-11
本堂から眺めた境内(手前のカップルは無関係!)。それほど広いお寺ではありませんが、本当に一面がコスモス!まだ画面の右手にもずっとコスモスが続きます。ここまで徹底していると潔いですね


国宝の「楼門」は、やや残念です・・・

般若寺には、一つだけ国宝に指定されている建築物があります。それが「楼門」です。

ただし、その門から境内に入ることはできませんし、狭い道路を挟んですぐにアパート(ちなみに、名前は「コスモスハイツ」)が建っているという、かなり風情に欠ける印象の門なのです。鎌倉時代から残っている素晴しいものなんですが、何度見ても「もったいない」という印象を受けてしまいますね。

境内の中から見るだけでは、門の裏側の地味な面が見えるだけですので、ぜひお忘れなく、道路側に出て外からも眺めてみてください。楼門越しに見る十三重石塔もなかなか見事な眺めですから!


般若寺(楼門)-15

般若寺の「楼門(国宝)」。コスモスの時期に境内から見るとかなり華やかですね。しかし、楼門のすぐ向こうは道路で、すぐ向かいにアパートが建っているのが悲しいところ・・・

般若寺(楼門)-16
道路側から見た「楼門」。入母屋造の2階建の門で、鎌倉時代のもの。数々の戦禍を生き残ってきた、楼門としては日本最古のものだそうです

般若寺(楼門)-17
楼門ごしに眺めた十三重石塔。コスモスの時期はやはり絵になりますね

その他の見どころなど

それ以外には、鎌倉時代の「経蔵(重文)」や、日本最大最古の「笠塔婆(重文)」などがあります。しかし、いずれもそれほど派手なものではありませんので、他の奈良市内のお寺と比べて、小じんまりした印象を受けてしまいます。

やはり般若寺には、お花の時期に来るのがベターでしょう。
春の「山吹」、梅雨の「アジサイ」、秋の「コスモス」などが見られるそうですので、この時期に参拝してみてください。


般若寺-0

般若寺の「経蔵(重文)」。鎌倉時代から残る数少ない遺構です

般若寺-0
鎌倉時代の、日本最大最古の「笠塔婆(重文)」。十三重石塔を建てた伊行末の息子・伊行吉によって建てられたものだそうです

般若寺-12
本堂前のお地蔵さんと手水

般若寺-13
平和の火をともし続けるオブジェ。広島の原爆の火が分火されたもので、反戦の願いをこめて灯されています

般若寺-14
やや地味目な「鐘楼」


秘仏の阿弥陀さんも拝見できました

なお、この日は、本堂の北側にある小さなお堂「宝蔵堂」で、秘仏の「阿弥陀如来像(重文)」なども公開されていました。

こちらは像高40cmほどの小さな仏像ですが、十三重石塔の中に納められていたものが、1964年の大修理の際に800年ぶりに発見されたものなのだとか。さらに、その台座部分からは、像高10cm程度の地蔵・大日如来・十一面観音」の三像も出てきたそうです。

今回、全て拝見できましたが、小さな小さな仏像さんたちは、心のこもった精巧なフィギュアみたいでいいですよね。自宅に欲しくなってしまうくらい、とっても魅力的でした(笑)


般若寺(宝蔵堂)-18

「宝蔵堂」前の門。この日は白鳳時代の秘仏が公開されていました(拝観料@200円)

般若寺(宝蔵堂)-19
「宝蔵堂」の入り口。昭和40年の建築物だそうで、それほど広いものではありません。中には、秘仏の他にも、十三重石塔の先代の相輪(石銅製です)などが展示されていました

般若寺(宝蔵堂)-20
メインは、昭和の大修理の際に、十三重石宝塔の五重目から見つかった秘仏「阿弥陀如来像(重文)」。全体に比べて両手がかなり大きめの仏様でした。また、さらに台座部分からは、3体の小さな小さな胎内仏が見つかっているのも面白いですね。全てジックリと拝見できました

般若寺-21
般若寺の境内で見かけた花(アサガオ系?)

※くっくさんのコメントから教えていただいたところによると、どうやら「シコンノボタン(紫紺野牡丹)」という花のようです。情報ありがとうございました!

般若寺-ご朱印
般若寺でいただいたご朱印。とても力強い字で、かなりカッコイイです!



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■般若寺(法性山)

HP: http://www.hannyaji.com/
住所: 奈良県奈良市般若寺町221
電話: 0742-22-6287
宗派: 真言律宗
本尊: 文殊菩薩(重要文化財)
創建: 629年(伝)
開基: 慧灌(伝)
拝観料: 500円
拝観時間: 9:00 - 17:00
駐車場: あり(拝観者は無料)
アクセス: JR・近鉄「奈良駅」下車。青山住宅行バス「般若寺」下車、徒歩5分

※関西花の寺二十五霊場「17番」札所
※西国薬師四十九霊場「3番」札所






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