2011-11-23

霊木の阿弥陀「放光樟像」がおわす『世尊寺』@大淀町

霊木の阿弥陀「放光樟像」がおわす『世尊寺』@大淀町

吉野郡大淀町にある『世尊寺(せそんじ)』へお詣りしてきました。国指定の史跡「比曽寺跡(ひそでらあと)」に建つお寺で、古くは吉野詣の参詣地として栄えたそうです。また、日本最古という伝承を持つ微笑の阿弥陀さまもいらっしゃって、とても静かで落ち着く雰囲気でした。


創建は7世紀。吉野詣の古道に位置する古刹

吉野郡大淀町にある、曹洞宗寺院『世尊寺(せそんじ)』は、山号は「霊鷲山(れいしゅうざん)」といいます。この地は、「比曽寺跡(ひそでらあと)」として国指定の史跡となっており、聖徳太子建立の48ヶ寺の一つと伝えられる比曽寺(または、比蘇寺、吉野寺、現光寺、栗天奉寺とも)があったとされます。

遺された瓦や伽藍配置などから、飛鳥時代の7世紀後半には寺院が存在していたとされ、古代から中世にかけては、壷阪寺から比曽寺を経て金峯山寺へ詣でる「吉野詣」の古道に位置し、宇多上皇や藤原道長などが訪れるなど、大いに栄えました。当時は、法興寺(飛鳥寺)・四天王寺・法隆寺とともに「四大寺院」とされたそうです。

その後、叡尊(えいそん)などの力もあり、衰退と復興を繰り返し、江戸時代には曹洞宗の禅宗寺院、霊鷲山世尊寺として復興しました。

聖徳太子が、父・用明天皇のために同地に建立したとされる「東塔」は、1594年に豊臣秀吉によって伏見城に移築され、さらに1601年に滋賀・三井寺へ移さ、今なお現存しています。


世尊寺@大淀町-01

吉野郡大淀町にある、聖徳太子創建の寺と伝わる古刹『世尊寺(せそんじ)』。この土地は、国指定の史跡「比曽寺跡」でもあり、門前にはそれを記した石碑が建っています。なお、現在は奈良県内には数少ない禅宗寺院(曹洞宗)になっています

世尊寺@大淀町-02
山門をくぐったところ。境内は広く、隣接して大きな参拝者用の無料駐車場もあります。正面に見えるのが「中門」で、その手前には東塔跡・西塔跡があります

世尊寺@大淀町-03
中門前にある「東塔跡」。「寺伝によると、聖徳太子が御父31代用明天皇のために建立され、その後、鎌倉時代に改築されたことが礎石の一部によって知ることができます。やがて文禄3年(1597年)豊臣秀吉によって伏見城に移されました。さらに4年後、慶長6年(1601年)徳川家康によって大津の三井寺へ移築され、現在、国の重要文化財として残っています」

世尊寺@大淀町-04
東塔跡の礎石。きれいにそのまま残っています。これに並んで「西塔跡」があります。こちらは、飛鳥時代に推古天皇が、夫の微達天皇のために建立したもので、戦乱によって焼失。現在は13個の礎石が残っています

三井寺(園城寺)@大津市-16
<参考画像>以前、滋賀県大津市の「三井寺」へお詣りに行った時に撮影した、世尊寺から移築された「三重塔(重文)」。唐院と呼ばれる一角にあり、今でも美しい姿を眺めることができます。この塔がここに建っていたかと思うと面白いですね


かつては「薬師寺式」大伽藍がありました

世尊寺は、正面の「本堂」を挟んで、向かって左手に「太子堂」、右手に庫裡・鐘楼などが、簡素な回廊で繋がっています(一部回廊が途切れているところは「大疑堂跡」だとか)。

今でこそひっそりとしていますが、当時は金堂・講堂・東西の塔を持つ「薬師寺式伽藍」の大寺院だったようです。痕跡はありませんが、中門をくぐってすぐのところは「金堂跡」だったりしますので、その時の様子を想像しながら歩くと面白いですね。


世尊寺@大淀町-05

中門をくぐったところ。向かって右手が「本堂(講堂跡)」、左手が「太子堂」になります。画面の右外の「庫裡」も含めて、一部を除いて簡素な回廊で繋がっている面白い形式でした。ちなみに、画像の手前側の何もない部分も、比曽寺の金堂跡になります

世尊寺@大淀町-06
世尊寺の「本堂」。簡素な作りの仏堂ですが、中には大きな御本尊「阿弥陀如来坐像」などがいらっしゃいます

世尊寺@大淀町-07
「史蹟 比曽寺跡」の説明看板。お寺の歴史や御本尊の伝来など、とても丁寧に解説してあります

世尊寺@大淀町-10
本堂と回廊で繋がっている「世尊寺太子堂」。聖徳太子十六才孝養像を祀っていたお堂で、18世紀前期頃の建築と考えられているそうです。「仏壇部を角屋として突出させる形式は、県内でもあまり例を見ないものであり興味深い建築といえる」とありました

世尊寺@大淀町-12
回廊と繋がった庫裡と鐘楼。ちょうど紅葉シーズンで銀杏が見事に色づいていました


樟(クス)の霊木から彫られた阿弥陀さま

世尊寺の御本尊「阿弥陀如来坐像」さまは、大阪湾の海中に光り輝いていた樟(クス)の大木から作られたとされているため、別名を「放光樟像」と言います。この伝承では、6世紀中頃の像ということになるでしょう。

また、平安時代に著された「日本霊異記」には、霊木から造った仏像が飛鳥の豊浦寺に祀られた後、物部氏・蘇我氏の間で崇仏廃仏論争が起こり、戦火によりお堂は焼失しましたが、仏像は世尊寺へ安置されたとあるそうです。



 日本書紀の第十九の巻に、欽明天皇十四年(553)「夏五月、茅渟(ちぬ)の海(大阪湾)の海中に、雷(いなずち)のような音を出して、光輝くものがある。天皇はあやしんで臣(おみ)の溝辺(いけべ)直(あたい)に命じて海上を探させると、クスの大木の輝くのを発見した。天皇は感じて仏師に仏像二躯(にたい)を造らせた。今、吉野寺に光を放つ樟木の像なり」とあります。

 平安初期の、「日本霊異記(りょういき)」にも霊木から造った仏像が飛鳥の豊浦堂に祀(まつ)られました。しかし、渡来仏教をめぐって物部氏・蘇我氏の戦乱でお堂は焼失しましたが、仏像は難をのがれ当寺に安置されました。

 また、今昔物語では、「ひそかに稲の中に隠したれば、現光寺を窃寺(ひそでら)というなり」と記しています。


どこまでが史実かはともかく、放光樟像さまは、とても優雅で物静かな微笑をたたえた仏さまでした。クスの一木造りで、像高は145cm。材質は違いますが、飛鳥寺の現存最古の仏像「飛鳥大仏」さまに似た雰囲気を感じます。

また、奈良時代の「十一面観音菩薩立像」は、日本書紀などによると、596年に淡路島に流れ着いた、素晴らしい芳香を放つ大木(沈水香)から彫られたもので、比曽寺に祀られたことが記されています。

この他にも、金ピカに修復されてしまったお地蔵さま顔の文殊菩薩像や、前鬼後鬼を伴わない役行者像、小さくて可愛い蔵王権現、和泉式部の念持仏と伝わる像など、数は多くないながらも様々な仏さまが祀られていました。


世尊寺@大淀町-08

世尊寺の御本尊「阿弥陀如来坐像」さま(パンフレットより)。別名を「放光樟像」と言います。伝来によると、日本書紀の欽明天皇14年(553年)、大阪湾の海中に雷のような音を出して光り輝いていた樟(クス)の大木があり、そこから仏像2体を彫らせたものだとか。平安時代の「日本霊異記」には、飛鳥の豊浦寺に霊木から造った仏像を安置したが、仏教をめぐる物部氏・蘇我氏の争いからお堂は焼失したが、その仏像は難を逃れ、この寺に安置されたとあるそうです

世尊寺@大淀町-09
向かって右が、奈良時代の作とされる「十一面観音菩薩立像」。重厚な立像で、頭部は鎌倉期の後補。両こめかみの辺りからホゾのようなものが飛び出している、ちょっと珍しい形状でした。左は「聖徳太子十六才孝養像」。高さ1mの寄木造りの尊像です(ともにパンフレットから)


聖徳太子お手植えの桜や芭蕉句碑も

世尊寺の本堂裏手には、聖徳太子お手植えと伝わる「壇上桜」など、たくさんの桜が植わっていました。春になったらさぞ美しいでしょうね。この桜を眺めて詠んだ松尾芭蕉の句碑などもありました。


世尊寺@大淀町-14

壇上桜の脇にある、松尾芭蕉の句碑。「世にさかる 花にも念仏 まうしけり」。1688年、弟子の杜国を伴ってここを訪れ、満開の壇上桜を見て詠んだ歌です


世尊寺@大淀町-13

本堂の裏手にある、聖徳太子お手植えと伝わる「壇上桜」。寺伝によると、150年ほど前に台風で倒れたものの、やがて根元付近から幹が伸びて見事に蘇生。このため「不老長寿の桜」と呼ばれているそうです

世尊寺@大淀町-14
壇上桜の脇にある、松尾芭蕉の句碑。「世にさかる 花にも念仏 まうしけり」。1688年、弟子の杜国を伴ってここを訪れ、満開の壇上桜を見て詠んだ歌です

世尊寺@大淀町-15
近くには、立派な十三重石塔もあります

世尊寺@大淀町-16

世尊寺@大淀町-17

世尊寺@大淀町-18

世尊寺@大淀町-19
世尊寺でいただいたご朱印です。「放光樟像」とあり、中央の印が、光を放ちながら流れ着いたクスの木を表しています!これは見事ですね!



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■世尊寺(比曽寺跡)

HP: http://web1.kcn.jp/sesonzi/
住所: 奈良県吉野郡大淀町比曽762番地
電話: 0746-32-5976
宗派: 曹洞宗
本尊: 阿弥陀如来
創建: 7世紀ごろ
開基: 聖徳太子
拝観料: 300円
拝観時間: 不明
駐車場: 無料駐車場あり
アクセス: 近鉄吉野線「六田駅」または「大和上市駅」下車、徒歩約40分(タクシーで約7分)

※「聖徳太子御遺跡霊場」の第七番札所になっています
※世尊寺へお詣りしたのは「2011年11月21日」でした


■参考にさせていただきました!

世尊寺 - Wikipedia
奈良の寺社: 世尊寺「比曾寺跡」






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