新薬師寺近くに建つ小さな古刹『不空院』@奈良市高畑
奈良市高畑にある『不空院』へお参りしてきました。それほど大きなお寺ではありませんが、御本尊の「不空羂索観音坐像(重文)」は美しい方でした。また縁切り・縁結びのお寺としても有名ですので、そちら方面に興味のある方もどうぞ!
鑑真和上住居跡に八角円堂が建てられて
奈良市高畑にある『不空院』。山号は「南都春日山(しゅんにちざん)」で、春日山を背に、柳生へ向かう「滝坂の道」の入り口にあたる場所に建つ古刹です。
南都十大寺の一つに数えられた大寺院『新薬師寺』とは、通りを隔てて隣接しているような近距離にありますが、新薬師寺は華厳宗、不空院は真言律宗と、宗派的には繋がりは無さそうです。
奈良時代には中国から渡来した鑑真和上が住んでいた土地でもあります。また、弘法大師空海がこの地に「八角円堂」を建立し、御本尊として「不空羂索観音坐像(重文)」を祀りました。その八角円堂を雛型とし、藤原広嗣が亡き父を弔うために、今も残る興福寺・南円堂を建立したとされています。不空院の八角円堂は、1854年の地震によって倒壊してしまいましたが、現在の本堂の下には礎石が遺されています。
鎌倉時代の南都の戒律復興運動の時期には、不空院・円晴、西大寺・叡尊、唐招提寺・覚盛、西方寺・有厳の四律僧がここで戒律を講じていました。
御本尊は「三不空羂索観音」のひとつ
現在の不空院は、本堂が建つだけの小さなお寺です。通常の時期は、本堂内の拝観には事前予約が必要ですので、あらかじめ予約を入れてからお参りに向かってください。
不空院の御本尊は、鎌倉時代の作の「不空羂索観音坐像(重文)」です。像高は103,9cmで、不空羂索観音像らしい三目八臂のお姿でした。全国的に見ても、不空羂索観音の作例は少なく、不空院のお方は、東大寺・法華堂、興福寺・南円堂の御本尊とともに「三不空羂索観音」とされるのだそうです。
不空羂索観音像というと、手が八本もある多臂のお姿ですので、どうしても人を遥かに超えた異形の神々しさが感じられるものですが、不空院の御本尊はどちらかというと如意輪観音像に近いような、より親しみやすい印象でした。表情も穏やかですし、手の広げた様子など、まさに包みこんでくれるようでした。
また、その隣には、小さな「弁財天坐像(室町時代・秘仏)」もいらっしゃいました。こちらも八臂で、手にはそれぞれ得物を持ち、琵琶を持たないタイプのお姿です。不空院は、駆込寺・縁切り寺・縁結びの寺として女人からの信仰を集めてきましたが、この弁財天さまのお力によるところも大きいのでしょうね。とても美しい仏さまでした。
奈良市高畑にある『不空院』。新薬師寺から歩いてすぐの場所にある小さなお寺さんです
不空院の「本堂」。御本尊として「不空羂索観音坐像(重文)」を祀っています。奈良時代には鑑真和上が住まわれた土地であり、弘法大師空海が建立した「八角円堂」が建てられていました。これは、興福寺南円堂を建立する際に参考にしたとされており、今でも本堂下に礎石が遺されているそうです
平城遷都1300年祭-祈りの回廊の立て看板。通常は、拝観には事前予約が必要ですが、この時期は平城遷都1300年祭の一環として、事前予約なしでも拝観できました(2010年11月14日まで)
看板に写っていた、不空院の御本尊「不空羂索観音坐像(重文)」のお姿。鎌倉時代の作で、像高は103,9cm。三目八臂の穏やかな仏さまでした。不空羂索観音の作例は少ないのですが、東大寺・法華堂、興福寺・南円堂の御本尊とともに「三不空羂索観音」とされるのだそうです
手作り感あふれる説明文。不空院の山号は「南都春日山(しゅんにちざん)」。春日大社につらなる春日山を背に、柳生へ向かう石畳の古道が続く「滝坂の道」の入り口にあたる場所に建っています
駆込寺・縁切り寺・縁結びのお寺さんです
駆込寺・縁切り寺・縁結びの寺として信仰を集めた不空院ですから、本堂前には「えんむすびさん」と「えんきりさん」の提灯が交互に並び、すぐ脇のお社には関連のある神様が祀られています。不空院の号から「福院」とも呼ばれいて、奈良町の芸妓たちの駆け込み寺となっていたのだそうです。えんきりもえんむすびも引き受けてくれるなんて、とても合理的な話ではありますね。
なお、本堂の裏手には、ひっそりと
「井上皇后(井上内親王)」の御霊塚もありますので、お好きな方はお見逃しなく。
本堂脇に立つ小さなお社には、「えんきりさん」として法竜大善神が、「えんむすびさん」として黒竜大神と市岐姫大神が祀られています。この三神は弁財天と通ずる性格を持つため、弱い女人を救済する駆込寺・縁切り寺の役割を果たしていたのだとか
鳥居の両脇に居らっしゃったので、おそらくお狐さんだと思われるのですが、お腹がパンパンに膨らんでいて狸っぽい姿になっています。とってもユーモラスですね
本堂前にも「えんむすびさん」と「えんきりさん」の提灯が交互に並びます
不空院の本堂裏手にある「御霊塚」。パンフレットには、「古くからいねんどと呼ばれていた祈祷所であり、井上(いがみ)皇后の荒魂を祀り、いわゆる井上御霊(八所御霊の一柱)として世の尊信を受け、また不遇なる女人を守護したまう信仰が久しくつづいている。」とありました
こちらは「神像石(かむかたいし)」というものも。「弘文天皇の御曾・孫淡海三船(おうみみふね)公は、本邦最初の漢詩集「懐風藻(せいふうそう)」を編集せられ、四面楚歌の中にありながら曾祖父なる弘文天皇(大友皇太子)いませし日を顕彰せられ、孝養を賛へ四代にわたる御姿石を勧請し、永く斎き奉らんと願ふものなり」
■不空院(春日山)
HP: 参考サイト(平城遷都1300年祭)
住所: 奈良県奈良市高畑町1365
電話: 0742-26-2910
宗派: 真言律宗
本尊: 不空羂索観音(重要文化財)
創建: 不明
開基: 不明
拝観料: 300円
拝観時間: 9:00 - 16:30
駐車場: 無し
アクセス: JR・近鉄奈良駅から市内循環バス「破石町(わりいしちょう)」下車、徒歩10分
※通常時期には、拝観には事前予約が必要です