2011-05-01

ユニークな五劫思惟阿弥陀像のお寺『五劫院』@奈良市

ユニークな五劫思惟阿弥陀像のお寺『五劫院』@奈良市

奈良市北御門町にある『五劫院(ごこういん)』へお詣りしてきました。通常は拝観の際に事前予約が必要なため、やや敬遠されがちですが、なかなかお会いできない頭部が大きく膨らんでアフロヘアーのように見える「五劫思惟阿弥陀仏坐像」がいらっしゃいます。想像以上に可愛らしい方でした!


重源上人が開いた東大寺の末寺です

『五劫院(山号:思惟山)』は、奈良市北御門町にある小さなお寺です。東大寺・転害門のさらに北側と、奈良駅からはやや距離がありますが、決して歩けない距離ではありませんし(私たちの足で20分強でした)、バスに乗ってもいいでしょう。

なお、五劫院の拝観には、事前予約が必要です(毎年「8月上旬」だけは一般公開されています)。寺務がお忙しい時期にはお断りされることもありますので、必ず事前に電話で確認するようにしてください。

五劫院は、隣接する東大寺の末寺であり、鎌倉時代の東大寺を再興した「重源上人」が開基したお寺で、宋から請来した五劫思惟阿弥陀仏を祀るためのお堂を建立したのが始まりと伝えられています。五劫院には、重源上人と公慶上人という、東大寺の再興に尽力した方々の墓所もあり、東大寺の菩提所的な性格もあったそうです。

五劫院の本堂は、江戸時代の初期(1624年)に再建されたもの。内陣と外陣を「阿弥陀格子」で仕切っている、古風で簡素なスタイルです。外陣からご本尊「五劫思惟阿弥陀仏坐像(重文)」を拝見するのですが、やや距離があり、頭頂部はお厨子に隠れるため、完全な全体像は見えません。外陣に展示されているパネルなどを見て補いましょう。


五劫院@奈良市-01

奈良市北御門町にある『五劫院(ごこういん)』。場所的には、東大寺・転害門と般若寺の間くらいと言うと分かりやすいでしょうか。拝観できるのは1624年に再建された「本堂」です(要事前予約)。ご本尊は、一見、アフロヘアーのように頭部がふくらんで見える、珍しい「五劫思惟阿弥陀仏坐像(重文)」です


ユーモラスな表情の「五劫思惟阿弥陀仏」!

五劫思惟阿弥陀仏とは、阿弥陀仏がまだ法蔵菩薩だった時代、衆生を救うために菩薩行に励まれた後の姿です。その時間が「五劫(ごこう)」。劫とは、「四十里立方の大盤石に天女が三年に一度舞い降り、羽衣でひとなでし、この岩が無くなるまで」という、計り知れないほどの長い時間のこと(落語『寿限無』に出てくる「五劫の擦り切れ」です)。

そのくらい長い時間、じっと思惟をこらして修行した結果、菩薩から阿弥陀如来になるのですが、まさにその瞬間を現した姿なのです。長い時間の行のため髪の毛は伸び、うず高く螺髪が積み重ねられ、頭が大きく(いわゆるアフロヘアー風)見えるようになっているのです。

「五劫思惟阿弥陀像」は、全国的に作例が少ない、やや珍しい仏さまです。奈良県で最も有名なのは、東大寺・阿弥陀堂(通常非公開)でしょう。その他、私は奈良町の十輪院、大和郡山市の洞泉寺で拝見してきたため、五劫院のご本尊で4躯目となります。


僧形八幡神像の特別開扉が行われる『転害会』@東大寺
石造のお地蔵様「石仏龕」を祀る『十輪院』@奈良町
伝快慶作の阿弥陀三尊像を祀る『洞泉寺』@大和郡山市


五劫院のパンフレットによると、京都・西向寺、和歌山・道成寺、東京・浄真寺などの名前が挙げられていました。また、京都・金戒光明寺の石仏も有名ですね。いずれもとても愛らしい姿をなさっていると思いますので、機会があったらこれらのお寺もお詣りしてみたいと思っています。

また、同じ阿弥陀さまであってもその造形は様々で、東大寺勧進所・阿弥陀堂のものは全体的にどっしりとした印象で、合掌をしています。しかし、五劫院のものは、衣の下で定印(両手を重ねて掌を上に向ける、坐禅の時の組み方)を結んでいらっしゃるのだとか。このため両肩がゆるやかに落ち、全体的に三角形のように見えます。

いずれの像も、五劫という気が遠くなるほどの長い時間の修行に耐えたとは思えないほど、とても穏やかな表情で、お参りした人間たちが思わず笑顔になってしまうような優しさが感じられます。まさに「癒し系」ですね!


五劫院@奈良市-09

こちらが五劫院の「五劫思惟阿弥陀仏坐像(重文)」(パンフレットより)。実際にはお厨子の中にいらっしゃるため、頭頂部はよく見えない状態です。本堂内に何枚もパネル写真があるので、そちらで確認できます。見れば見るほど不思議でユーモラスなお姿ですよね


珍しい「見返り地蔵」さんもいらっしゃいます

本堂以外には、いくつか小さなお堂がありますが、そちらは拝観できませんでした。

本堂裏手は墓地になっていますが、その手前に、珍しい「見返り地蔵(別名:朝日地蔵)」がいらっしゃいます。これはまさに「永観遅し」で有名な、京都・永観堂の「見返り阿弥陀」と同じように、後ろを振り返っている珍しいお地蔵さまです。

また私たちはお参りするのを忘れてしまいましたが、五劫院の墓地には、江戸時代の東大寺中興を成し遂げた「公慶上人」のお墓があるそうです。また、少し離れた「大伴氏伴寺跡(永隆寺跡)」には、開基の「重源上人」のお墓もあるそうですので、そこまで足を伸ばしてみるのもいいかもしれません。


五劫院@奈良市-02

境内にある小堂と鐘楼、観音像

五劫院@奈良市-03
寺務所前には、鉄筋コンクリート製のお堂があります(拝観は出来ませんでした)

五劫院@奈良市-04
本堂の向かって右手、墓地の手前にいらっしゃるお地蔵さま。左手が首を曲げている「見返り地蔵」、別名を「朝日地蔵」と呼ばれている方です。歩行中に振り返った姿とされています。東大寺や五劫院と関わりの深い京都・永観堂の「見返り阿弥陀」と何らかの関係があるのかもしれません

五劫院@奈良市-05
五劫院の本堂前に建つ万葉歌碑。山上億良の「水沫なす もろき命も 栲縄の 千尋にもがと 願い暮らしつ」という歌が刻まれています

水沫(みなわ)なす もろき命も 栲縄(たくなわ)の
千尋(ちひろ)にもがと 願い暮らしつ
山上憶良 万葉集 巻第5-902
水の泡にも似たもろくはかない命ではあるものの、楮(こうぞ)の綱のように千尋の長さほどもあってほしいと願いながら、今日もまた一日を送り過ごしてしまった


五劫院@奈良市-07
五劫院のすぐ近くには、一度お世話になってみたいと思っているお宿『小さなホテル 奈良倶楽部』さんがあります。奈良市内からやや外れた場所にあるため、本当に静かでしょうね。遠方から五劫院へ拝観の方は宿泊先候補としてどうぞ

五劫院@奈良市-ご朱印
五劫院でいただいた御朱印です。「五劫思惟阿弥陀仏」とあります。こちらは、拝観料は「志納」となっていますが、御朱印代金は一般的な300円をお納めしました



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■五劫院(ごこういん)

HP: 参考サイト(平城遷都1300年祭)
住所: 奈良県奈良市北御門町24
電話: 0742-22-7694
宗派: 華厳宗
本尊: 五劫思惟阿弥陀仏坐像(重要文化財)
創建: 鎌倉時代
開基: 重源
拝観料: 志納
駐車場: 無料(10台分)
アクセス: 近鉄「奈良駅」から、奈良交通バス「青山住宅行き」に。「今在家」下車、徒歩3分

※毎年「8月上旬」はご本尊が一般公開されます。それ以外の期間は、事前に電話で拝観予約が必要です。寺務がお忙しい時期にはお断りされることもありますので、必ず事前に電話で確認してください。


■参考にさせていただきました!

五劫院 - Wikipedia
奈良倶楽部通信 part:II: 五劫院の阿弥陀さま*東博へ!
奈良倶楽部通信 part:II: 五劫院の五色椿*
asahi.com:五劫院の五劫思惟阿弥陀仏坐像 「奈良のお母さん」 - 関西






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