2008-02-28

十二神将がとにかくクールな『新薬師寺』

新薬師寺

とにかく「十二神将立像」が有名な『新薬師寺』。よく言われることですが、新薬師寺という名前は「新しい薬師寺」ではなく、「霊験新たかな薬師如来さまを祀ったお寺」という意味で、西ノ京の薬師寺とは全く無関係です。

・・・という事実を知っていても、これまで何とな~く後回しにしてしまっていて、今回が初めての訪問となりました。素晴しい仏像さんの宝庫なんですが、「新薬師寺?本家の薬師寺を見ておけば十分なんじゃない?」的な誤解をしている方も多いでしょうし、名前で損をしてしまっているお寺の一つでしょうね。


素朴な印象の新薬師寺「本堂」

新薬師寺の創建に関しては諸説があるようですが、747年、光明皇后が夫の聖武天皇の病気平癒を祈願して建立したものとされています。一時は壮大な伽藍を誇る大寺院でしたが、やはり、、、、

創建時の新薬師寺は金堂、東西両塔などの七堂伽藍が建ち並ぶ大寺院であったが、次第に衰退した。『続日本紀』によれば宝亀11年(780年)の落雷で西塔が焼失し、いくつかの堂宇が延焼している。また、『日本紀略』『東大寺要録』によれば、応和2 年(962年)台風で金堂以下の主要堂宇が倒壊し、以後、復興はしたものの、往時の規模に戻ることはなかった。現在の本堂は奈良時代の建築だが、本来の金堂ではなく、他の堂を転用したものである。本尊の薬師如来像も様式・技法上、創建時まではさかのぼらず、8世紀末頃の制作と見られている。

治承4年(1180年)の平重衡の兵火で、東大寺、興福寺は主要伽藍を焼失したが、新薬師寺は焼け残った。鎌倉時代には華厳宗中興の祖である明恵(みょうえ)が一時入寺し、復興に努めた。現存する本堂以外の主要建物は鎌倉時代のものである。

Wikipedia「新薬師寺」より引用


現在は、創建当初に近いまま残っているのは「本堂(国宝)」のみで、他は全て鎌倉時代に再建されたもの。敷地もそれほど広いワケではなく、建物を見ながらグルッと周ってもそれほど時間は掛からないでしょう。

この「本堂」は、元は「食堂(じきどう)」として使用されていたものだそうで、奈良時代の建築としても非常にシンプルな作りです。中に入って見ると、天井を設けず、屋根板の裏側までが見渡せる巨大な吹き抜けのようになっているのが面白いですね。

また、本堂の一部にステンドグラスをはめ込んであるのも珍しいです。決して雰囲気を損なったりするものではありませんが、国宝だというのにこんなことをしちゃって問題なかったんでしょうかね(笑)


新薬師寺-01

華厳宗『新薬師寺』の「南門」。よく言われることですが、新薬師寺の<新>は「新しい」ではなく、「あらたかな」という意味。薬師寺とは全く何の関係もありません

新薬師寺-02
新薬師寺の本堂。入母屋造・本瓦葺の奈良時代の建築物。とても簡素な造りで、元は「食堂(じきどう)」だったものを本堂として使用しているのだそうです

新薬師寺-03
本堂の組木と屋根瓦。決して華美なものではありませんが、シンプルで素朴な印象があります

新薬師寺-04
本堂前のお線香の台(?)は、よく見るとキャスター付き。合理的といえば合理的です(笑)

新薬師寺-05
何故か、本堂の正面脇に2本ぶら下げてあったキリ。1本は、日付と「独身時代は看護師」と書いてあるだけでした。どんな意味だ?何が目的だ?

新薬師寺-06
本堂の西側から入館。この中にはご本尊の「薬師如来像(国宝)」を中心に、「十二神将立像(11体が国宝)」がグルリとそれを取り囲む、とても濃密な空間になっています。東大寺「二月堂」に負けない迫力、必見です!

とにかく「十二神将」がカッコイイ!

やはり、新薬師寺の最大の見どころは、ご本尊の「薬師如来像(国宝)」の周りを、「十二神将立像(11体が国宝)」がグルリと円形に取り囲む姿です。まさに「薬師如来さまを守る!」という十二神将の本来の仕事を全うするかのように、その周囲に並ぶ姿は圧巻ですね!

ご本尊の薬師如来像も、平安初期作の2メートル近い大きさの一木造の仏像です。その表情は、大きく見開いた目が特徴的で、全体的にふくよかな印象があります。平安時代の作ということで、奈良の他の薬師如来さんと比べると、目鼻立ちがはっきりしていて、どことなくハイカラな印象のあるお顔ですね。

その周囲をガードする十二神将ですが、この中の一体「波夷羅(ハイラ)大将」だけは地震で破損してしまい、後の時代に補作されているため国宝の指定は受けていませんが、他の11体は天平時代作の国宝です。よく見ると後の時代の仏像と比べて少しだけアンバランスな印象を受けたりするのですが、怒髪天をつくという表情や、神々しく力強い体躯は、見ていて飽きることがありません。思わず周囲を何周もグルグルと回って見続けてしまいました。

これだけ仏像が濃密な空間というのは、奈良でも屈指の存在でしょう。東大寺の「法華堂(二月堂)」を上回るほどの濃度かもしれませんね。興福寺の「国宝館」のような博物館スタイルのところも見やすくていいのですが、やっぱり薄暗いお堂の中で、息を潜めながら拝む仏像の姿はいいですね。

ちなみに、十二神将は「干支の守護神」という役割も果たしていますので、自分の守護神さまの姿を拝んでみてください。「新薬師寺 十二神将」のページで画像も見ることができます。一応、一覧を掲載しておきます。

・いぬ --- 伐折羅(バサラ)大将 (文化庁指定名:迷企羅)
・ひつじ --- アニラ (アニラ)大将 (文化庁指定名:アニラ)
・たつ --- 波夷羅(ハイラ)大将 (文化庁指定名:宮毘羅)
・ね --- 毘羯羅(ビギャラ)大将 (文化庁指定名:毘羯羅)
・うさぎ --- 摩虎羅(マコラ)大将 (文化庁指定名:摩虎羅)
・ゐのしし --- 宮毘羅(クビラ)大将 (文化庁指定名:招杜羅)
・うし --- 招杜羅(ショウトラ)大将 (文化庁指定名:珊底羅)
・とら --- 真達羅(シンタラ)大将 (文化庁指定名:真達羅)
・うま --- 珊底羅(サンテラ)大将 (文化庁指定名:安底羅)
・とり --- 迷企羅(メイキラ)大将 (文化庁指定名:因達羅)
・さる --- 安底羅(アンテラ)大将 (文化庁指定名:伐折羅)
・み --- 因達羅(インダラ)大将 (文化庁指定名:波夷羅)


新薬師寺-07

新薬師寺のご本尊「薬師如来像」は、奈良の観光ポスターの顔としても登場していたようです。新薬師寺からは十二神将「伐折羅(ばさら)大将」が登場することが多いので、ちょっと意外でした

新薬師寺-08
阿弥陀如来+十二神将立像の計13枚組みの絵葉書セットも購入してきました。どれも美しい仏像ですし、ちょっと変わった雰囲気のある薬師如来さんがじっくり見られるのもいいですね

なら奈良館-12
余談ですが、近鉄奈良駅の駅ビルにある『なら奈良館』には、新薬師寺の十二神将像のレプリカが、ちゃんと円形に展示してあります。中央の御本尊・薬師如来さまがいらっしゃらないのは残念ですが、新薬師寺の本堂内の迫力が伝わるかもしれません

なら奈良館-13
別アングルから。新薬師寺でもこれと同様に周りをグルリと歩きながら十二神将像にご対面できます。御本尊のお薬師さまを守るという意味では鉄壁のガードですね!


他の見どころは・・・それほど・・・

奈良時代の作で国宝にしていされている「本堂」以外には、「鐘楼」「香薬師堂」「観音堂」などがあり、いずれも鎌倉時代の作です。正直、それほど時間をかけて見るというものでもありませんが、一通りご覧ください。

食事どころも経営なさっていて、温かい「ゆばそうめん」や「湯豆腐」なども食べることができるそうです。新薬師寺の周辺には食事できるお店も多くないので、散策の途中で腹ごしらえしておくのもいいかもしれませんね。


新薬師寺-09

南門のすぐ脇にある、鎌倉時代の建築物「鐘楼(重文)」。中の「梵鐘(重文)」は天平時代のもので、「日本霊異記」にも登場するものとして知られているのだそうです

新薬師寺-10
新薬師寺の鐘楼は鎌倉時代のものだけに、簡素な感じの本堂と比べても、組木などは凝っています。下から見ると中2階のように見える「袴腰」は、珍しい漆喰塗りなんだとか

新薬師寺-11
お食事どころの受付部分。「ゆばそうめん(@550円)」「湯どうふ(@1,000円)」「お抹茶(@500円)」など。お寺の食事にしては、意外と普通の料金設定ですね

新薬師寺-12
ご本尊のステンドグラス作品もありました。本堂にステンドグラスをはめるくらいですから、これも違和感が無いのかも

新薬師寺-13
新薬師寺のお食事どころの様子。とてもいい雰囲気なんですが、冬になるとこれだけ晴れた日でも寒そう・・・。季節のいい時にぜひ利用してみたいです

新薬師寺-14
新薬師寺の「景清地蔵」を調査して、着衣を脱がせたら裸の状態になった!という調査結果が仰天ニュースとして扱われた記事の切り抜き。切り抜きの見せ方自体が、どこかイロモノ週刊誌的な感じです(笑)

新薬師寺-15
別棟香薬師堂。景清地蔵さんの胎内から発見された、男性シンボル付きの「おたま地蔵尊」を祀ってあります。秘仏ですが、希望により特別開扉もあるそうです。インド風の細工が目立ちますね

新薬師寺-16
南門をくぐって左手にある「観音堂(元は地蔵堂)」。鎌倉時代作の重要文化財です。格子越しにしか見ることができませんが、薬師如来・地蔵菩薩・十一面観音の3体が祀られています

新薬師寺-17
観音堂の手前にある、奈良時代作の「十三重の塔」。・・・とは言っても、現在は五重で、下の二段がオリジナルのものなのだとか

新薬師寺-18
新薬師寺でいただいたご朱印です。力強くていい書体ですね


「白毫寺」へ車で行く方は注意!

新薬師寺に観光で訪れる方は、「志賀直哉旧居」「奈良市写真美術館」「白毫寺」などとセットとして考えている方が多いでしょう。

この一帯は道幅がかなり狭いため、車の運転は特にお気をつけください。奈良市写真美術館は新薬師寺のすぐ裏手にありますので、何の問題もありませんが、特に怖いのが白毫寺方面への道です。

「白毫寺まで900m・15分ほど」というような看板があるのですが、ここは車でのすれ違いも不可能な細~い道で、運転にはかなり気を遣います。また、ようやく白毫寺の目前まで車で行ったとしても、お寺の前に私設駐車場が1箇所あるだけで、その駐車料金は「600円」とかなりのお値段です。路肩に違法駐車なんてしていたらすぐに警察に通報されそうなほどの細い路地ですから、「高いよな~」と文句を言いながら駐車場に入れるか、新薬師寺を拝観した後に徒歩で向かうか、どちらかを選ぶしかありません。

この日、私たちも白毫寺に行ってみようと車を走らせたのですが、拝観時間の終了間際のほんの数十分間だけ駐車場に車を停めて、拝観料よりも高い金額を取られるかと思ったら腹立たしくなってきたため、そのまま引き返してきてしまいました(笑)


白毫寺の近辺には、焼き場があります。その周辺に巨大墓地を建設する計画が持ち上がっているそうで、いたるところに反対を表明する看板がありました


話題の「十二神将のフィギュア」は・・・

新薬師寺へ行った方の感想などを見ていると、「十二神将のフィギュア(?)を買おうかどうか迷った」というものも数多くありました。お値段とか何も分からないまま向かったのですが、実際に新薬師寺の本堂の中で販売されているところを見たら、これがなかなかカッコイイんですよね~。

価格は一体あたり「3,250円」。高さ20cmほどの像なんですが、ライトアップされたガラスケースの中に12体が並んでいる姿は壮観です。あまりこの手の物に無駄遣いはしないタイプなんですが、どーしても欲しくなってしまって、散々迷った挙句、酉年の守護神「迷企羅(メイキラ)大将」を買い求めてきました。

私は酉年ですので、まさに自分の守護神を自宅に招くことができたという結果なんですが、最初は最も有名な「伐折羅(バサラ)大将」を購入しようと思っていたのです。相方の干支の戌年の守護神でしたし。でも・・・、逆毛だった姿の表現とかが今ひとつマイルドすぎたのと、持っている剣が銅製のチープ感が漂うものだったため断念・・・。結局、何も手に持たないメイキラ大将を購入したのでした。

ただし、単純にフィギュアとしての出来だけで判断すると、剣と比べて鉾(ほこ)の造形は良かったので、鉾を持つ「珊底羅(サンテラ)大将」と「因達羅(インダラ)大将」がオススメかもしれません。実は私、極度の「先端恐怖症(尖ったものがあると落ち着かない!)」のため、鉾をお持ちの方たちを購入する勇気がありませんでした・・・。

私の守護神メイキラ大将は仕事デスクの上に飾ってありますが、なかなかシュールな光景でいいですね(笑)。ただし、一体だけではやはり迫力不足ですので、ぜひどなたか12体の大人買いをしてみてください!


新薬師寺-19

新薬師寺名物(?)の十二神将立像フィギュア(@3,250円)。酉年の守護神「迷企羅(メイキラ)大将」です。見た目からは分からなかったのですが、陶器製で意外と軽いです

新薬師寺-20
飾ってみた図。底の部分がやや不安定で、振動で揺れてしまいます。お寺の方いわく「台座にはボンドで付けてください」とのこと(笑)。一体だけだとあの迫力は出ませんね~

新薬師寺-21
有名な「伐折羅(バサラ)大将」(戌年の守護神)と、「迷企羅大将」(酉年の守護神)。伐折羅大将フィギュアが欲しかったのですが、剣の作りが安っぽく見えたため、得物を持たない方を選びました。私は実際に酉年生まれですし(笑)




大きな地図で見る


■新薬師寺

HP: http://www.k5.dion.ne.jp/~shinyaku/
住所: 奈良県奈良市高畑福井町1352
電話: 0742-22-3736
宗派: 華厳宗
本尊: 薬師如来像(国宝)
創建: 8世紀半ばごろ
開基: 光明皇后
拝観時間: 9:00 - 17:00
拝観料: 大人 600円
駐車場: 数台分あり
アクセス:市内循環バス「新薬師寺道口(破石)」下車 徒歩10分。または、JR奈良駅・近鉄奈良駅からタクシーで10分




※ 2010/10/22 追記

また新薬師寺へお参りに行ってきましたので、簡単に追記しておきます。

・御本尊の薬師如来坐像(国宝)は、記憶していたよりも手が大きめ。目鼻立ちもはっきりしているお方なので、平安初期の仏さまでありながら、華やかで垢抜けた印象です。また、左隣に小さな牛さんがいるのも注目!四角くて可愛らしいんです。

・新薬師寺の「本堂(国宝)」は、天井の板が張られていない吹き抜けになっています。元は「食堂(じきどう)」として作られたとは思えないほど、薬師如来坐像と十二神将をお祀りするのに最適な空間になっています。柱には美しい絵も描かれており、改めてお堂の素晴らしさに感動しました。

・本堂前に吊るされている「独身時代は看護師」と書いてあるキリは健在。お寺の方に意味を伺ったところ、このキリを借りて体の悪いところを刺すと治るとされ、治ったら新しいキリを奉納する習慣があったのだとか。今では廃れているそうですが、その名残なのだそうです。

・「香薬師堂」には、影清地蔵尊の体内から発見された裸形のお地蔵様「おたま地蔵尊」が祀られています。通常は公開していませんが、お寺さんにお願いしてタイミングが合えばお会いできるそうです。ただし、この日は東大寺の法要のため(新薬師寺も華厳宗寺院です)お坊さんが出払ってしまっていたとのことでした。おたま地蔵さんの拝観希望の方は、事前に電話などで確認しておいた方がいいかもしれません。


<追記>新薬師寺-01

平城遷都1300年祭の一環として、「香薬師如来立像」(写し)の特別公開が行われていました。像高75㎝の白鳳時代の金銅仏ですが、1943年に3度目の盗難にあい行方不明に。現在はレプリカが安置されています。素朴で穏やかで、はにかみながら微笑んでいらっしゃるような表情の素敵な仏さまでした

<追記>新薬師寺-02
新薬師寺の「本堂(国宝)」前。本堂の周辺には萩がたくさん植わっていますが、すでにシーズンを少し過ぎていて残念な姿でした・・・。萩の花は小ぶりのため、それほど人目を惹くようなものではありませんが、古刹・新薬師寺にはよく似合いますよね

<追記>新薬師寺-03
新薬師寺の本堂に取り付けられたステンドグラス。本堂内の扉が閉められているため、普段はあまりよく見えません。お寺の方に「いつ開けているんですか?」と聞いてみたところ、何と特別に内扉を開いてくださいました!奈良時代の国宝建築物にはめられたステンドグラスから光が差し込む姿は、感動的ですね。全く違和感がありませんでした(通常は非公開ですので、運が良ければ見られるかもしれません)






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