大きな十一面観音像と茅葺き本堂『禅定寺』@宇治田原町
素敵な仏像が多数おわす、京都南部の「南山城エリア」。滋賀との県境も近い宇治田原町にある『禅定寺』へお参りしてきました。収蔵庫には像高286.3cm「十一面観音立像(重文)」をはじめとした平安時代の仏さまがずらり!美しい茅葺き屋根の本堂、背後の防災壁に描かれた巨大な大涅槃図など、見どころの多いお寺さんでした。
東大寺の末寺として、10世紀末に創建された古寺
奈良県との県境に近く、古くから奈良の文化圏との繋がりが深かった、京都南部の「南山城」地区。浄瑠璃寺・岩船寺・海住山寺・観音寺・蟹満寺などの古刹が点在し、国宝の仏さまもいらっしゃるなど、仏像好きな方であればぜひ足を伸ばしておきたいエリアです(過去の紹介記事は「 京都南部(南山城) 」からご覧ください)。
この日は、関東からやって来た友人とともに、観音寺(大御堂)・蟹満寺とお参りした後、京都府綴喜郡宇治田原町にある『禅定寺』へ足を伸ばしました。
禅定寺は、国道307号線からさらに山中へ入ったところに位置し、滋賀との県境も近い場所にあります。藤原兼家(藤原道長の父。関白・太政大臣)の帰依を受け、東大寺の別当を務めた僧・平崇によって10世紀末に創建されました。当時は東大寺の末寺の華厳宗寺院でしたが、後に宇治の平等院の末寺となり、江戸時代には曹洞宗の禅寺となっています。
現在では交通も不便な山の中ですが、収蔵庫には「十一面観音立像(重文)」をはじめとした十体の平安時代からの諸仏が祀られており、美しい茅葺き屋根の本堂、背後の防災壁に描かれた巨大な大涅槃図など、見どころの多いお寺でした。
京都府の宇治田原町の古刹『禅定寺』(ぜんじょうじ)。地図を見ると、周りはゴルフ場と山林ばかりのような山中です。境内も含めた一帯が「京都府歴史的自然環境保全地域」に指定されており、豊かな森が守られています
禅定寺の山門。現在は曹洞宗の禅寺となっており、山門にもその雰囲気を感じます
奉納された巨大わらじと仁王像
美しいお庭と茅葺き屋根の「本堂」が見事
禅定寺の境内に入ると、美しい庭園と堂々とした茅葺き屋根の「本堂」が目に飛び込んできます。この本堂は、江戸時代に荒廃していた禅定寺を復興した「月舟」が再興したもので、堂々とした立派な建物でした。屋根も3年前に葺き替えたばかりで見事ですし、お庭に一本だけ真っ赤なカエデが植わっているのも美しかったです。
本堂内はやや雑然としている部分もありましたが、檀家さんが集まっている姿が想像できるような、大きな観光寺院とは違った雰囲気でしたし、坐禅の会が開かれている様子も伝わってきました。
禅定寺の「本堂」。江戸時代に建てられた、重厚な茅葺き屋根が特徴です。屋根に点々と見えるのは、鳥よけと厄除けを兼ねたアワビの貝殻だとか。真っ赤なカエデの木が植わっていて、ますます美しさを増していました
別角度から。本堂は横の庫裏と繋がっていたり、ガラス戸がはめられていたりと、現代的に使いやすくなっています
茅葺き屋根の軒先。3年ほど前に葺き替えられたばかりということでしたので、とても美しい状態でした。こんなに間近で見られる機会はなかなかありません
素晴らしいコントラストですね
お庭の様子。美しく手入れされているのが伝わってきます
本堂内の様子(仏さまは撮影禁止です)。檀家さんが集まっている様子が目に浮かぶようですね
本堂にあった本棚。「地方仏を歩く」「旅の仏たち」「隠れた仏たち」「見仏記」「かくれ里」など、仏像好きにはお馴染みの本がずらりと並んでいました。写真集などの豊富で、素晴らしい蔵書でした!
禅定寺は、福井・永平寺と神奈川・總持寺を両大本山とする、禅宗の「曹洞宗」(そうとうしゅう)に属しています。本堂の隣室では坐禅が組めるようになっていました
本堂に隣接して建つ「観音堂」(円通閣)。扁額の下に「十二神将、薬師瑠璃光佛、七千夜叉(十二神将の従者)」とあります。貴重な仏さまは収蔵庫へ移られているため、やや荒れ気味な印象でした
観音堂のお隣には、十八善神を祀る「十八善神堂」があります
お堂の背後の防火壁には「大涅槃図」が
禅林寺の本堂背後の防災壁には、巨大な「大涅槃図」が描かれています。その大きさは「横45m×縦8m」!本堂の廊下から、そして十八善神堂の脇からも見られますが、あまりにも大きくて、全体像が見渡せないほどでした。
このエリアを巡る際の必携のガイドブック「南山城の古寺」(奈良の飛鳥園さんのもの。500円)によると、禅定寺のご住職の奥さまは、海外でも活躍なさっている洋画家さんなのだとか。そういった関連もあって、このような仏画を作成なさったのかもしれませんね。色んな作家さんの手による仏さまがいらっしゃって楽しいのですが、落ち着いた建物やお庭と比較すると、ここの色彩だけものすごくポップでちょっと驚きます(笑)
本堂裏手の廊下から見た「大涅槃図」。全体が見渡せないほどの大きさです。廊下の窓ガラスの一部がすりガラスになっていて、丸や四角の形で見通せる「悟りの窓」となっていたりするのが面白かったです
色んな作家さんが参加していて、仏さまのテイストが色々と違っているのが面白かったです
大きな十一面観音像など平安仏がずらり!
順路に従って本堂などの拝観を終わると、いよいよ山門前に建つ「収蔵庫」へ移ります。立派な収蔵庫には、正面にご本尊の「十一面観音立像」(重文)がいらっしゃって、その両脇には平安時代の穏やかな仏さまがずらりと並んでいます。素晴らしいですね!
ご本尊の十一面観音さまは、パンフレットなどで見るととてもたおやかな印象の方ですが、像高286.3cmもある大きな方です。木造で漆箔がほどこされており、衣紋の流れも優美。これだけの大きな像がこれだけ美しく現存しているだけでも感動しますね。
説明によると、禅定寺が創建(995年)された平安時代末期の造像で、大仏師・定朝の作である宇治平等院鳳凰堂「阿弥陀如来坐像」よりも60年ほど古いものであり、定朝の師匠である(ひょっとしたら父親かもしれない)「康尚」(こうしょう)の作という可能性もあるそうです。
その他、「日光・月光菩薩立像」「四天王立像」「文殊菩薩騎獅像」「地蔵菩薩半跏像」なども、平安中期~末期の素朴さを感じる木造仏で、いずれも重要文化財に指定されています。右足を踏み下げたお地蔵さまは特に美しく、たおやかなお姿でした。
また、この文殊菩薩さまはちゃんと獅子に乗っているのに、大威徳明王像(藤原時代作)は、何故か定番の「牛」ではなく「象(ゾウ)」に乗っていらっしゃるんです!(友人の「...ストイックに仏像...」さんのページに画像がありました)
おそらくは、相棒の牛さんが破損してしまった大威徳明王さまが、普賢菩薩さまというご主人を失ってしまった象さんへ乗せ代えられたということだと思いますが、なかなか他では見られない組み合わせですから、チェックしてみてください!
山門前に建つ「収蔵庫」。禅定寺のお参りは、まず山門をくぐって左手の庫裏へ拝観受付をして、本堂などを拝見してからここを拝観します。美しい平安時代の仏さまがずらりと並んでいます!
禅定寺のご本尊「十一面観音立像(重文)」。ガイドブック「南山城の古寺」より。像高286.3cmもある大きな像で、間近から見上げられます!迫力もありますし、とても美しい仏さまでした
左足を下ろした「地蔵菩薩半跏像」や、日光・月光像、四天王像など。すべて平安時代のもので、重要文化財に指定されています。このエリアは素晴らしい仏さまにたくさんお会いできるのがいいですね!
禅定寺でいただいた御朱印です。達筆!
■禅定寺
HP: 参考サイト(Wikipedia)
住所: 京都府綴喜郡宇治田原町大字禅定寺小字庄地100
電話: 0774-88-4450
宗派: 曹洞宗
本尊: 十一面観音立像(重要文化財)
創建: 995年
開基: 平崇上人(東大寺 別当)
拝観料: 500円
拝観時間: 9:00 - 16:00
駐車場: 無料駐車場あり
アクセス: 近鉄「新田辺駅」より、京阪宇治バスで(維中前バス停乗換え)「禅定寺」下車(約40分)
※ご本尊の十一面観音立像は、「南山城十一面観音巡礼」に加わっている尊像です。
※実際にお参りしたのは「2013年5月12日」でした。
※2014年4月より、南山城エリアの仏さまにスポットライトを当てた特別展「南山城の古寺巡礼」が京都国立博物館で開催されます。この企画自体とても楽しみですが、タイミングを誤るとお寺さんでお会いできない仏さまも登場すると思いますので、お気をつけください。
■参考にさせていただきました
禅定寺 (宇治田原町) - Wikipedia
禅定寺は南山城の名刹、藤原仏がズラリ。 - 土曜日は古寺を歩こう。
...ストイックに仏像...|京都/禅定寺 『藤原の仏像群と気になる大威徳明王』