仏像も見事!桜が美しい女人高野『室生寺』@宇陀市
桜のピークからはやや外れてしまいましたが、仏隆寺のしだれ桜を見る前に『室生寺』に行ってきました。室生寺にはこれまでにも何度か行っていますが、今回は隅から隅まで丹念に周っています。
何度行っても、静かで落ち着いたいいお寺ですね。拝観終了時間のギリギリまで飽きることなく味わってきました!
室生寺の成り立ちをおさらい
室生寺の創建には2つの説があります。
・680年、役小角(=役行者)が創建し、その後、空海が中興した
・宝亀年間(770年-780年)に、後の桓武天皇の病気平癒を願い、興福寺の僧「賢璟(けんきょう)」が創建した。実務に当たったのは、賢璟の高弟の「修円」。
創建以来、室生寺は山林修業の道場として、法相・真言・天台などの各宗兼学の寺院として栄えてきました。また、龍が住むという山中の龍穴などから龍神信仰が生まれ、雨乞いの祈願なども盛んに行われたそうです。
山深い土地にあった室生寺は、密教の道場に相応しいことから、次第に密教色を深め、鎌倉時代には真言密教の儀式を行う「灌頂堂(国宝)」と、弘法大師を祀る「御影堂」などを建設。真言密教の根本道場である高野山が、厳しく女人禁制を守ったのに対して、室生寺は女性にも開かれていたため「女人高野」として知られるようになりました。
創建以来、興福寺との関係が深かったのですが、江戸時代に興福寺の法相宗から独立し、真言宗の寺院となり、今では「真言宗室生寺派」の大本山となっています。
室生寺の境内は、室生山の山麓から上部にお堂が点在し、石段を上るごとに建物が見えてくるという、典型的な「山岳寺院」となっています。平安時代の建築物や仏像も多く、有名な石段「鎧坂(よろいざか)」の両脇に植わる石楠花(しゃくなげ)の名所としても知られています。
杉もいいけど、桜もなかなか
山深く、桜の開花も遅めの室生寺ですが、さすがに4月15日ともなるとソメイヨシノたちはだいぶ散っていて、やや寂しいところもあります。しかし、桜が残っている部分も多く、室生寺の静かな雰囲気に彩りを添えていました。
他の季節に行ってみると、杉の巨木の姿が目立ちますが、桜の本数もかなり多いんですね。なかなか見事な姿でした。
桜の時期がやや過ぎた『室生寺』。太鼓橋からの眺めはまだ華やかでしたが、葉桜になっている木も多かったです
室生寺の「表門」。普段から味わい深い門ですが、背後に桜があるとまた一段といいですね
室生寺「仁王門」。近年に再建されたものなので、まだ真新しい印象ですが、とても美しい門です。眩い朱色が、快晴の空に映えますね
室生寺の花といえば、やはり「石楠花(しゃくなげ)」でしょう。まだシーズンには早かったのですが、この1本だけはキレイに咲いていました
満開とはいきませんでしたが、快晴の空の下、桜もそれなりに満喫できました
「金堂」は素晴しい仏像の宝庫!
有名な石段「鎧坂」を上がると見えてくるのが「金堂(国宝)」です。建物自体は決して派手なことはない、かなり質素な雰囲気で、平安時代初期の建築。山岳寺院らしく、建物の前部の床下部分を持ち上げるような形になっていて、これを「懸造(かけづくり)」というそうです。
堂内には、美しい仏像がズラリと2列に並んでいます。
・本尊「釈迦如来立像(国宝)」--薬壷を持たない、古い形の薬師如来像。衣の襞が細かく「漣波式衣文(れんばしきえもん)」という珍しい様式。
・本尊を中心に、左から「十一面観音立像(国宝)」、そして重文の「文殊菩薩立像」「薬師如来立像」「地蔵菩薩立像」の五尊像が並び立つ
・前列には、鎌倉時代の作の「十二神将立像(重文)」が並ぶ(2体は奈良国立博物館へ寄託されており、実際には10体)。像高1m弱で、表情豊かでポーズなどもかなりユニーク。
奈良のお寺を巡って、これまでにもかなりの数の十一面観音像を見てきましたが、室生寺の十一面さんもかなり美しいですね。後列の一番左端という位置が勿体なく思えてしまうほどです。
ちなみに、あまり目立ちませんが、奥の方に大日如来さんなどもいらっしゃいます。
金堂のすぐ脇にあるのが、ちょっと地味目な「弥勒堂(重文)」です。コチラは鎌倉時代のもので、ご本尊の「弥勒菩薩立像(重文)」は小さめで見えにくいのですが、客仏の「釈迦如来坐像(国宝)」は、一木造の堂々とした仏像です。
(※と、思って室生寺のHPを確認してみたら、本尊と客仏の関係が入れ替わってました。「弥勒堂のご本尊が釈迦如来像」っていうのもおかしな気もしますが・・・)
金堂と桜。奥に見えるのは、屋根の葺き替え中だった「灌頂堂(本堂)」
室生寺「金堂(国宝)」。ご本尊の「釈迦如来立像(国宝)」や「十一面観音菩薩像(国宝)」、運慶作のユニークな十二神将像などがズラリと並ぶ、素晴しいお堂です
室生寺・金堂を横から見た図。現在は柿葺(こけらぶき)の寄棟造ですが、創建当時は入母屋造だったとか。横から見ると、前屋根を伸ばしてあるのがよく分かります
室生寺・金堂の側面。適度に残った朱色と、雨風で風化した具合がとてもいい感じで、全体的にとても落ち着いて見えます。平安初期の建築物だというのですから驚きますね
金堂の脇に建つ「弥勒堂(重文)」。鎌倉時代のもので、本尊は「弥勒菩薩立像(重文)」。小ぶりで見えにくいのが残念。客仏の「釈迦如来坐像」もいらっしゃって、コチラは国宝です!
斜め上から見下ろした弥勒堂。とてもシンプルで質素な感じのお堂です
国宝「灌頂堂」は工事中・・・
密教の最も重要な儀式を執り行うために建てられたというのが、この「灌頂堂(国宝)」。ここが本堂と呼ばれているほど、室生寺の重要建築物なのですが、この日は屋根の葺き替え工事中・・・。外観は眺めることが出来ませんでした。
ここのご本尊は「如意輪観音坐像(重文)」。如意輪さんもとても好きなんですが、像高が80cmほどで、かなり距離もありますので、実際にはそれほどよく見えません。後から写真などで確認してみると、6本腕の半跏思惟像なのは当然ですが、ややスリム系のためふくよかさに欠け、如意輪観音独特の女性っぽさをあまり感じられませんでした。
しかし、室生寺HP」によると「観心寺・神咒寺の如意輪とともに日本三如意輪の一つと称されている。」とのことですので、優れたものなのでしょう。個人的には、ちょっと好みではありませんでしたが・・・。
1308年の建立の「灌頂堂(国宝)」ですが・・・、この日は屋根の葺き替え作業中でした。内部の拝観はできますが、外観は全く見えません
真言密教の最も大切な法儀「灌頂」を行うのが、ここ灌頂堂で、その重要性から別名「本堂」とも呼ばれています。五間四方入母屋作りで、ご本尊は「如意輪観音坐像(重文)」。ステキな仏像なんですが、やや距離があって見難い・・・
室生寺・灌頂堂の組物。さすがは鎌倉時代の国宝級の建築物だけあって、二手先の美しいものでした
小さいけど重厚な「五重塔」
室生寺のシンボルとして、観光ポスターなどにも何度も登場するのが、国宝の「五重塔」です。総高16.1mで、屋外の五重塔としては最小。平安時代初期の建築で、これは法隆寺の五重塔に次ぐ古さ。1998年の台風で被害を受け、2年後に修復されています。
この塔は、大きさの割に屋根が深めで大きめのため、見た目に重厚感を感じさせます。最上部には「水煙」という飾りが付くのが普通なんですが、ここはその代わりに「宝瓶(ほうびょう)」という、リングを積み重ねたようなものが使用されていることも、そんな印象を抱かせる一因なのかもしれません。
やや高い位置から見下ろしてみたりできるのもいいですね。小さいながらも決して軽い印象を与えない、とても美しい塔だと思います。
室生寺の「五重塔(国宝)」。総高16.1mで、屋外の五重塔としては最小のもの。平安時代初期のものとされていますが、1998年の台風で被害を受け、2年後に修復されています
やや上の位置から見た室生寺・五重塔。近くで見ると本当に小さいんですが、細やかな作りがとても美しい塔です。私は修復前の姿を見ていないのですが、それだけが残念・・・
長い石段を上って「奥の院」へ!
五重塔の脇の石段を上がっていくと、その先には「奥の院」があります。しかし、そこに行くまでには、総数390段以上の石段を登っていかなくてはいけません!修業というには大げさですが、こんな苦労をしてからお参りするのも信心を表す一つの手段なのかもしれませんね。
鬱蒼と杉の大木が生い茂る間を上っていくと、その先に清水寺風の舞台造りの「位牌堂」が見えてきます。この回廊の上からはかなりの眺めが見られるのですが、奥の院のメインはここではありません。
位牌堂の正面にある小さめなお堂「御影堂(みえどう)」は、鎌倉時代の重要文化財。御影堂の頂上部分には、石造りの露盤が置かれている、木と石の組み合わせ方がちょっと珍しいお堂です。中には弘法大師四十二才の像が祀ってあるそうですが、残念ながら拝見することはできません。
仏像好きな人間にとっては、「奥の院」はやや見どころが少ないような気もしますし、位牌堂の上からの景色も、正直、木々に遮られてそれほど絶景というワケでもありません。労多くして・・・という気もしますが、ぜひ長い石段を制覇して、信仰心を示してみてください!
五重塔の横の石段。脇には石仏がズラリと並んでいます。この石段を進んでいくと、「奥の院 御影堂(みえどう)」へ。390段あまりのハードな上り道になります
奥の院への石段上りがスタート。ちなみに、この一帯の「室生山暖地性シダ群落」は天然記念物(暖地性シダの北限)。採取はもちろん、足を踏み入れるのもご法度です
杉の巨木に囲まれた鬱蒼とした森が続きます。いかにも室生っぽい風景ですね
奥の院へ続く石段の途中から。石段の先には、位牌堂の清水寺風の木組みが小さく見えています
位牌堂の回廊部分から下を見下ろすと、かなりの高さ。高所恐怖症のため、私はまともに見ることができませんでした(笑)
「奥の院 御影堂(みえどう)」。鎌倉時代の建築物で重要文化財です。中には弘法大師四十二才の像が祀ってあるそうですが見ることはできません
山岳寺院に石仏・石塔が似合う!
密教色の強い室生寺には、梵字が入った石塔や、いい雰囲気の石仏などが色々とあります。山岳寺院らしい、静かで厳しい雰囲気とよく合うんですよね。また、これまでは全然気付かなかったのですが、南北朝時代に活躍した南朝の大物「伝北畠親房之墓」というのもありました。歴史好きな方は拝んでおいてください!
天神社拝殿の脇には、素朴な軍荼利明王の石仏が。苔むした感じといい、穏やかな表情といい、かなりいいですね!
真言密教のお寺らしく、境内には梵字が刻まれた、どこか神秘的な雰囲気のある石塔がいくつかあります。改めてみるとなかなか造形がいいですね!
室生寺にある「伝北畠親房之墓」。その埋葬地には色んな説があるようですが、南北朝時代の大物のお墓があるなんて知りませんでした!
桜の季節の「護摩堂」は必見!
室生寺の境内には仁王門から入場するのですが、その裏手側にあたる「護摩堂」「本坊」の方向へは、あまり行かない方も多いでしょう。私たちも時間が無いことが多く、コチラ側はちらっと見るだけで終わっていたのですが、この季節になると「護摩堂」の前の「乙松桜」というしだれ桜がとてもキレイなのです。
建物自体も味わい深いものも多いですので、室生寺を最後の最後まで楽しむために、ぜひこちらにも目を向けてみてください。
室生寺・表門の後ろ側辺りにある「護摩堂」。普段はひっそりと目立たないお堂なんですが、背後と正面の桜が満開で、なかなかの見ごたえでした
室生寺・護摩堂前の「乙松桜」。紅ヒガンザクラで、かなりの迫力です
何度行っても飽きない室生寺
個人的にも、室生寺はかなり好きな部類のお寺ですので、何度行っても飽きずに楽しめます。ジックリと眺めたくなる美しい仏像があり、奈良の魅力を感じさせてくれる渋いお堂があり、ハイキング気分が楽しめる石段あり、季節ごとの美しい花々があり。きっとバランスがいいんでしょうね。
ちなみに、室生寺へ車で参拝する際には、参道から少しだけ下にある、回転焼きの「栄吉」さんの無料駐車場を利用するのがオススメです。3台分程度のスペースしかありませんので、混雑時は難しいかもしれませんが、美味しい「よもぎ入り回転焼き」を食べさせてもらって、さらに車まで停めさせてもらえるんですから嬉しいですね。
この回転焼き、よもぎが練りこんであって、大人が食べても十分に美味しいですので、ぜひお試しください!
室生寺の通り沿いにある回転焼き「栄吉」さん。この写真の右手奥の辺りに小さな駐車スペースがありますので、お店の方に断って駐車して下さい。そして回転焼きをぜひ召し上がってみてください!
栄吉さんの「よもぎ入り回転焼き」。よもぎの香りが良くて、かなり美味しいです!室生寺を周った後にでも、ぜひどうぞ!
■室生寺
HP: http://www.murouji.or.jp/
住所: 奈良県宇陀市室生区室生78
電話: 0745-93-2003
宗派: 真言宗室生寺派大本山
本尊: 釈迦如来(国宝)
創建: 宝亀年間(770年-780年)
開基: 役小角、または賢璟
拝観料: 600円
拝観時間: 8:00 - 17:00(入山は16:30まで)
駐車場: 有料駐車場(民間)
アクセス: 近鉄大阪線「室生口大野」より、奈良交通バス「室生寺」下車
※「女人高野」の別称でも有名です
※「西国薬師四十九霊場」の第八番霊場