2009-10-13

9体の天平仏と会える南都七大寺『大安寺』@奈良市

『大安寺』@奈良市

特別公開中だった秘仏のご本尊「十一面観音立像」とお会いするため、奈良市郊外にある『大安寺』さんへ行ってきました。

かつては「南都七大寺」の一つとして繁栄したお寺ですが、今では規模も小さくなってしまいました。しかし、9体もの天平時代の仏様を所蔵しているのは、さすが奈良の古刹ですね。プリミティブな印象のある仏像たちを、しっかりと拝見してきました!


聖徳太子が発願した古刹中の古刹です

南都七大寺の一つに数えられる『大安寺』は、聖徳太子が創建した「熊凝精舎(くまごりしょうじゃ)」がもとになっています。太子が「これを大寺にするように」と遺言を残したことから、百済川の近くに場所を移し、「百済大寺」として造営が始まりました。

百済大寺は、九重塔を持つその当時の最大の伽藍であったとされています。所在地は、広陵町の「百済寺」とされていましたが、最近の発掘調査により、桜井市の巨大な寺跡「吉備池廃寺」が百済大寺跡との見方が有力となってきています。

その後、壬申の乱に勝利した天武天皇は、673年に百済大寺を明日香村がある高市郡へ移転させ、「高市大寺」の造営にとりかかります。677年には、寺名を「大官大寺」と改め、川原寺・飛鳥寺という、当時の三大官寺のトップとして重きをおかれました。

さらに、藤原京への遷都にともない、現在の明日香村大字小山へ移転(巨大な遺構が発掘されています)。710年の平城京遷都にともない、また移転しています。当時は、大安寺の南大門は、平城京の「朱雀門」と同じ規模を持ち、南には高さ70mを超すと推測される七重の塔が東西に立ち並ぶという大寺でした。

南都六宗が学べる「仏教の総合大学」のような存在となり、三論宗の祖師となった「道慈上人」、東大寺の大仏開眼の大導師をつとめたインド僧「菩提僊那」、そして、天台宗の宗祖「最澄」、真言宗の宗祖「空海」らも、大安寺に住していた記録が残されているそうです

しかし、平安京への遷都以降、次第に寺勢は衰えていき、1017年の大火災で伽藍は焼失。源平争乱期の1181年には、平重衡による「南都焼き討ち」にあい焦土と化しました。その後も再建と衰退を繰り返しましたが、1921年には「大安寺塔跡」が奈良県で初の史跡名勝に指定されるなど、少しずつ復興してきました。

現在では、1月23日と6月23日に行われる「がん封じ」のご利益があるとされる「
笹酒まつり」などが、毎年多くの参詣者を集めています。


東西の七重塔を構える大寺院でしたが・・・

歴史上、重要なポジションを占めてきた『大安寺』さんですが、現在では規模も小さくなり、「本堂」「讃仰殿(宝物殿)」「嘶堂」があるくらいです。奈良市内の主要道路である国道24号線と169号線の間にあり、交通の便もそれほど良くないため、奈良の寺院としてもそれほど目立つ存在では無くなってしまいました。

しかし、今では奈良市の中心部からだいぶ外れた位置になってしまいましたが、創建当時は平城京の一角に広大な寺域を保持していたはずですから、改めて平城京の大きさを感じられますね。

寺院の建物の配置の形式を「伽藍(がらん)」と言いますが、南大門・中門・金堂・講堂・食堂と一直線に並ぶのが「大安寺式伽藍」と呼びます。しかし、今では南大門跡に建てられた「南門」をくぐっても、その伽藍の雰囲気すら残っていないため、ちょっと残念に思ってしまいました。


大安寺@奈良市-01

奈良市にある『大安寺』さん。かつては南都七大寺の一つに数えられる大寺院でしたが、今ではその威容をうかがい知ることはできません。入口の「南門」の基壇部分には、かつての南大門も礎石跡も見えます

大安寺@奈良市-02
南大門・中門・金堂・講堂・食堂と一直線に並ぶのが「大安寺式」と呼ばれる伽藍形式です。しかし、今は南門の正面には鉄筋コンクリートの「讃仰殿(宝物殿)」が建っていて、ちょっと風情に欠ける印象でした

大安寺@奈良市-03
大安寺さんの縁起を示す看板。 南大門のさらに南側に東西の塔が建てられていたのが特徴的です。しかも、どちらも「七重塔」!七重塔があったのは大安寺と東大寺のみだったというのですから、そのスケールが分かりますね


素朴な印象の秘仏「十一面観音立像」

「10月1日-11月30日」の期間は、大安寺さんのご本尊「十一面観音立像(重文)」の特別公開が行われています。

初めて拝見しましたが、像高190.5cmの一木造で、いかにも天平の仏様という雰囲気が感じられました。体部分には木目が浮き出ていて、長い右手を垂らした姿はいかにも十一面観音らしいですね。しかし、顔の部分だけは風合いが違い、しかも体と比べてやや大きく見えるため、ちょっとバランスが悪いように思えてしまいます。

しかし、奈良の仏様らしい、素朴さと優美さがあり、穏やかな表情の素敵な仏様であることは間違いありません。1世紀以上前の仏様が目の前に立っている、それだけで驚きに値すると思います。

ちなみにご本尊の脇には、青年期と壮年期、二体の弘法大師像が並んでいて、これもなかなか珍しいですね。

さらに、「大和十三佛霊場」にも入っている「虚空蔵菩薩像」も本堂にいらっしゃいました。虚空蔵さんの坐像という、あまり見かけないタイプですが、とても美しい仏様でした。


大安寺@奈良市-04

大安寺さんの「本堂」は南門をくぐって左手(西側)に建っています。本堂以外は、小さ目のお堂がいくつかと、宝物殿「讃仰殿」がありますが、拝観にはそれほど時間はかからないでしょう

大安寺@奈良市-05
大安寺さんの「本堂」。宝形造りの、それほど大きくないお堂です。建築年代は不明ですが、江戸時代以降の、比較的新しいものだと思います

大安寺@奈良市-06
本堂前。この日はご本尊の秘仏「十一面観音立像(重文)」の特別公開日でした。奈良時代の作で、像高190.5cmの一木造。頭部など、後から補修された部分も多いのですが、歴史を感じさせる穏やかな表情の仏様でした


宝物殿には7体の天平仏が並びます

さらに、建物の写真を撮ってくるのを忘れてしまいましたが、大安寺さんにいらっしゃる7体の天平仏が収められている「讃仰殿(宝物殿)」も、かなりの迫力でした!いずれも持物は失われてしまっていますし、破損部分も目立ちますが、天平時代の仏様が目の前にズラリと並ぶ様子は、大安寺さんという歴史ある寺院ならではでしょう。

中でも、写真集などにもよく登場している「楊柳観音立像(重文)」は、憤怒の表情をした、滑らかな造形ながらも力強さを感じられる仏様でした。また、八臂(腕が八本)の「不空羂索観音立像(重文)」もふくよかでいいんですよね。

その他の聖観音立像と四天王像も含めて、素朴な一木造ですが、どことなくシュッとしたお顔立ちの方が多く、内に秘めたパワーのようなものまで感じられます。もちろん、時代が時代ですから造形は地味ですし、破損していて痛々しい箇所もありますが、ぜひ仏様の前に立って色々と想像をめぐらせてみてください。


大安寺@奈良市-07

ベンチなどの向こうに見えるのが「讃仰殿(宝物殿)」です。珍しい「楊柳観音立像(重文)」など、7体の天平時代の仏像が収められています。いずれも破損は目立ちますが、天平仏らしい素朴さを感じさせる一木造の仏様ばかりでした

大安寺@奈良市-08
大安寺さんでいただいてきたチラシです。手前から楊柳観音・不空羂索観音・多聞天ですね。大安寺さんのホームページでは、しっかりとした仏像の画像と解説がありますので、ぜひご覧ください。プリミティブな雰囲気が伝わってくると思います


「馬頭観音立像」の公開は3月のみ

大安寺さんの本堂の裏手に建っている「嘶堂(いななきどう)」には、こちらも秘仏の
馬頭観音立像(重文)」がいらっしゃいます(特別公開日は毎年「3月1日-3月31日」)。

私もまだ実際には拝見していませんが、憤怒の感情をたたえたお顔は、いかにも天平時代の仏様らしい表現になっているようです。腕は六本で、馬頭観音のシンボルとも言える頭上の馬頭が無く、さらには胸飾りと足首に蛇が巻きつき、腰には獣皮をまとう・・・と、かなり独特なものなんだとか。

また日を改めてお会いしに来たいと思います!


大安寺@奈良市-09

本堂脇に建っているお堂です。写経場と書いてありますが、この裏手に新しい建物が出来ていますので、もう写経場としては使用していないようです。何本ものつっかえ棒が痛々しいですね

大安寺@奈良市-11
大安寺さんの本堂の裏手には、向かって右手が秘仏「馬頭観音立像(伝)」が祀られている「嘶堂(いななきどう)」と、その隣のまだ新しい写経場があります

大安寺@奈良市-12
大安寺さんの写経場。説明書きには「御写経会(毎月十三日)ご自由にご参加ください」とありました。興味のある方はぜひ!

大安寺@奈良市-13
秘仏「千手観音立像(重文)」が祀られている「嘶堂(いななきどう)」。寺伝では「馬頭観音」とされている仏様です。頭上の馬頭が無く、胸飾りと足首に蛇が巻きつき、腰には獣皮をまとう・・・という独特なもの。「3月1日-31日まで」のみ公開される秘仏ですので、残念ながらこの日は拝見できませんでした

大安寺@奈良市-14
嘶堂の前にあった鉄製の燈籠。三本足が象の鼻になっているのが面白いですね。岩の上でかなりバランスが悪いようでしたが、大丈夫なんでしょうか?


近くには史跡「大安寺旧境内」もあります

大安寺さんは、もうそれほど広くはありませんので、仏像好きな方でも1時間もあれば全て周れると思います。私たちも立ち寄れませんでしたが、近くには史跡「大安寺旧境内」もありますので、そこに寄り道して大安寺さんの過去の威容に思いを馳せるのもいいですね。


大安寺@奈良市-15

大安寺さんの手水舎です。手水鉢の部分は巨石から彫り出したもので、水の管が竹製でした。背後に竹林がありますので、見た感じもしっくりきています

大安寺@奈良市-17
境内の一角の竹林。手入れが大変そうですが、とても落ち着く風景です

大安寺@奈良市-18
「ぎんなん、ご自由にお持ち下さい」のサービスもありました。境内のイチョウから大量のぎんなんが落ちるんでしょうね

大安寺-ご朱印
大安寺さんでいただいたご朱印です。書いてある文字は「南無仏」でしょうか?



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■大安寺

HP: http://www.daianji.or.jp/
住所: 奈良県奈良市大安寺2丁目18-1
電話: 0742-61-6312
宗派: 高野山真言宗
本尊: 十一面観音
創建: 639年(622年の発願)
開基: 聖徳太子
拝観料: 境内無料。本堂・収蔵庫 400円(秘仏特別公開日は100円増し)
拝観時間: 9:00-17:00
駐車場: 無料駐車場あり
アクセス: JR奈良駅・近鉄奈良駅より、奈良交通バス「大安寺行」などから大安寺バス停下車、徒歩約10分

※大和十三仏霊場 第13番
※「南都七大寺」の一つ
※特別開扉日は、本尊・十一面観音像「10月1日-11月30日」。秘仏・馬頭観音像が「3月1日-3月31日」です






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