優美な十一面観音さんの小さなお寺『聖林寺』
長谷寺へ行った帰り、近くにある『聖林寺』にもお邪魔してきました。
どこから見ても、田舎の小寺ですが・・・
この聖林寺へ行くたびに、田舎の小さな小さなお寺風の姿を見て、思わず「ちっぽけなお寺だなー」という感想を持ってしまいます。相方からは「罰当たりだ!」とたしなめられますが、小さな山門をくぐっても、少しも名のあるお寺には見えませんので仕方ありません。ウチの実家近辺(北陸の田舎です)にある、法要を多く仕切っているお寺の方が立派に思えるぐらいです。
ちなみに、駐車場代300円、拝観料400円。あの豪華絢爛、オールスターキャストの興福寺国宝館の入館料が500円ですから、これはなかなかのお値段ですが、ついついそれを支払うのが惜しくなってしまうぐらいに、外観からの期待値は低いのです。
本堂に入ると、ここのご本尊さま「子安地蔵大石仏」が鎮座されています。その姿はホームページでご確認いただきたいのですが、何と言っても「石仏」です。真っ白いお顔は大きく、とってもプリミティブ(≒原始的)。少なくとも奈良っぽい仏像を期待してきた方は拍子抜けしてしまうでしょう。しかし、こちらは安産・子授けの仏様だということですので、敢えて柔和すぎるほど柔和な顔立ちに作ってあるのかもしれません。
このご本尊の脇には、「掌悪童子」「掌善童子」コンビなどがいらっしゃいますが、正直、あっという間に見終わります。それほど見るべき点も見当たらないのです。
聖林寺の山門。仁王様が守っていたりする訳でもなく、普通の地方のお寺らしい門ですね
坂道を上りながら聖林寺を見上げたところ。雰囲気が、どことなく「山あいにあるステーキ専門店」風なんですよね(笑)
聖林寺からの眺め。奥の方に薄っすら見えるのが「三輪山」で、左手手前に小さく「箸墓古墳」
門をくぐってすぐのところ。お地蔵様の後姿も見えます
聖林寺の本堂。ここだけ見たら、まさか国宝が奉られているようなお寺にはとても見えませんね
国宝「十一面観音」がとにかく美しい!
しかし、渡り廊下を上がっていくと、そんな悪口を続ける気は一気に失せてしまいます。その先には、それまでの地方のお寺風の風景から一転して、しっかりと鉄筋建築の「観音堂(大悲殿)」が。その内部にはガラスのケースに守られた「十一面観音(国宝)」が待っているんです!
■国宝 十一面観音 聖林寺 前住職 倉本 弘玄この像は仏、光、座(仏身209.1cm、光背260.6cm、台座77.8cm)を揃えた木心乾漆造の代表的なものであり、いわゆる天平様式、八世紀の日本の彫刻を代表する名作である。
均整がとれ量感にみちたお姿、優婉な天衣、微妙に変化したお手の表情、華やかな宝相華唐草文の光背、軽快で安定感に富む台座、いずれも創意に満ちている。とりわけ、そのお顔には切れ長の目が正面を正視して永遠を凝視するかにみえる悠遠な表情があり、後の仏像のように伏眼に人をみつめる感がない。いかにも奈良時代の理想像としての仏像のあり方を示すものといえよう。
この仏様の美しさは、フェノロサや和辻哲郎氏やみうらじゅん氏の名前を持ち出すまでもなく、本当に有名です。指先までの柔らかくて優美な造形や、穏やかでいながら引き締まった表情。蓮型の台座も美しいのですが、これは天平時代の彫刻の中でも当時のまま現存している唯一のものなのだとか。
身長209.1cmに台座などがあるため、下から見上げる形になるのですが、この一体の仏像がなかなか見飽きることがりません。本当に美しいんですよね。たまに団体のバスが入ってきたりしていますが、他の観光地化されたお寺よりは相当に静かですから、ゆっくりと見ていられるのもポイントが高いです。
決して仏像に詳しくもなく、深い愛着があるわけでもない私ですが、ここ聖林寺の「十一面観音」と、中宮寺の「菩薩半跏像」、興福寺の「千手観音立像」などは、本当に大好きです。初心者にも分かりやすい凄みと優しさがあって、単純に「あ~、仏像を見るのって楽しいな~」と喜べるだけのパワーが感じられるんですよね。
ちなみに、ここまで大好きな仏像がある聖林寺さんなのに、ついつい文句が多くなってしまうのは、「廃仏毀釈運動のドサクサに紛れて、国宝級の仏像を1体譲ってもらっただけのお寺が、それで商売してるだけやん!」という私の乱暴な思い込みのせいでもあります。この仏様が昔から聖林寺で祀られてきたものだったら、決してこんなことは思ったりもしないのですが・・・。
当時の事情は、文献によって色々とニュアンスが違っているため、正しいことは分かりません。大雑把にまとめてみると、、、、
明治元年ごろの神仏分離令(日本は神道の国だ!外来の仏像と一緒に祀っちゃイカン!)の影響で、三輪山をご神体とする大神神社の神宮寺だった大御輪寺(だいごりんじ・おおみわでら)のご本尊「十一面観音」も廃棄されそうになった!「これはヤバイ!」と、関係の深かった聖林寺へ依頼して、そこに安置してもらうことになった。
というニュアンスのようですので、正直、どこをどう読んでも聖林寺さんに非はありません! むしろその功績に感謝しなくてはいけないみたいですね(笑)
まぁ結局、そんなこんなを色々と考えながらも、すっかり十一面観音さまに魅了された私は、帰り道には絵葉書(B)を買ったり、「ご朱印は十一面観音の方をお願いします」と言ったり、自宅に戻ってからも週刊「日本の仏像」の聖林寺(と飛鳥大仏)の回を購入したりしています(笑)
朝起きて「あ~、今日もあの小さなお寺であの仏さまは静かに立っているんだな~」なんて考えるだけで、ちょっと心豊かになる気すらしますから、そんな仏像体験をするためにぜひ聖林寺さんへ行ってみてください。拝観料400円なんて、きっと安いものだと思えますよ!
十一面観音が安置されている「観音堂(大悲殿)」への渡り廊下。それほど長いものじゃありませんが、冬は寒いです!
聖林寺の国宝「十一面観音」。絵葉書をデジカメ撮影したものですから魅力は伝わりませんが、本当に素晴しい仏さまです!
聖林寺のご朱印です。ここは十一面観音バージョンと、もう1種類があります。今回は十一面観音の方を選んでみました
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■画像の一覧は【Flickr】でどうぞ。
■聖林寺(霊園山)
HP: http://www.shorinji-temple.jp/
住所: 奈良県桜井市下692
電話: 0744-43-0005
宗派: 真言宗室生寺派
本尊: 子安延命地蔵菩薩
創建: 712年(和銅5年)(伝)
開基: 定慧(伝)
拝観料: 400円
拝観時間: 9:00 - 16:30
駐車場: 有料駐車場あり(民営で300円。かなり狭いです)
アクセス: JR・近鉄「桜井駅」より、奈良交通バス談山神社行「聖林寺」下車、徒歩3分