2014-10-17

五感で味わう古事記の世界『大古事記展』@奈良県立美術館

五感で味わう古事記の世界『大古事記展』@奈良県立美術館

奈良県立美術館で開催中の『大古事記展』(2014年10月18日~12月14日)。前日の内覧会を拝見してきました。ユーモラスで人間味にあふれるエピソードが綴られた古事記の世界を、美術や考古学、文献学など、あらゆる角度から味わい尽くそうという意欲的な企画展です。盛りだくさんで、私のような古事記ファンにとっては本当に楽しい内容でした!


前日の内覧会へお招きいただきました

10月18日から、奈良県立美術館で開幕した『語り継ぐココロとコトバ 大古事記展 五感で味わう、愛と創造の物語』(以下、大古事記展)。古事記や日本書紀、万葉集のふるさととして、奈良県が力を入れた企画展示を行っています。

私たちは、古事記の世界は大好きですので、大古事記展が始まるのをずっと楽しみにしていたのですが、そんな思いが通じたのか、奈良の「記紀・万葉プロジェクト」のPR事務局の方からお話をいただいて、開幕前日の内覧会へお招きいただきました!

通常は美術館内は撮影禁止(一部を除く)です。しかし、今回はプレスとして撮影許可をいただいていますので、貴重な写真をできるかぎりご紹介していきます。


美術・考古など、古事記の世界を幅広く

今から1300年ほど前、奈良の都で完成した、日本最古の歴史書「古事記(こじき)」。日本の国の成り立ちから始まる神話の世界は、どこかユーモラスで不可思議、人間味にあふれるエピソードが綴られています。

そんな古事記の世界を、美術や考古学、文献学など、あらゆる角度から味わい尽くそうという意欲的な企画展が『大古事記展』です。神像・近代絵画・研究の歴史・考古・現代アートなど、さまざまな表現方法で古事記の世界を体感できるような工夫がこらされています。

私のような、古事記の世界観が好きで、さらに仏像・神像・絵画・本居宣長・社寺仏閣なども大好きな人間にとっては、最初から最後まで本当に楽しい内容でした!


『大古事記展』@奈良県立美術館-01

大古事記展』の会場は「奈良県立美術館」です。奈良県庁の裏手すぐ。場所をご存じない方もいらっしゃるかもしれませんね。この日は午前中の内覧会からお邪魔しました

『大古事記展』@奈良県立美術館-02
会場に入ってすぐ、大きなキャッチがあります。古代の鏡や刀、古文書に神像や日本画、神楽の考古など。これすべて古事記と関連性のあるものなんですから、すごいですよね!


「序章」から貴重な「太安萬侶神坐像」が!

『大古事記展』@奈良県立美術館-03
まずは「序章」として、古事記を編纂したご本人の彫像、田原本町・多坐彌志理都比古神社(多神社)「太安萬侶神坐像」(室町時代)など、計6躯の神像がお出迎えしてくれます。別室には、奈良市の茶畑から見つかった「太安萬侶墓誌」(重文)も展示してあり、これを同じ会場で拝見できるなんて胸が熱くなりますね!

『大古事記展』@奈良県立美術館-04
多神社「太安萬侶神坐像」は、左手で笏を持ち、その先端に右手をかぶせる不思議な形です。くっきりと二重まぶたなのも印象的でした。背後には漢字を用いた映像作品が流れていて、古事記が書物として紡がれていくイメージだとか

『大古事記展』@奈良県立美術館-05
滋賀県栗東市・小槻大社の「伝落別命坐像」と「伝大己貴命坐像」(ともに重文)。さらに、東吉野村・丹生川上神社のイザナギ・イザナミ・女神坐像も。いきなりとてつもなく貴重なお像を拝見できます


第一章は絵画作品「古代の人々が紡いだ物語」

『大古事記展』@奈良県立美術館-06
続く第一章は、第1・2展示室を使った大規模な展示で、「古代の人々が紡いだ物語」と題して、貴重な絵画作品が集められています。古事記の名場面を「創」「旅」「愛」という3つのキーワードで紹介しています。写真は、絹谷幸二さんの「天の岩戸 曙光」。再び天照大御神が姿を表した場面を描いた大きな作品で、迫力がありました!

『大古事記展』@奈良県立美術館-07
神倭伊波礼毘古命(カムヤマトイワレビコ。後の神武天皇)を描いた絵を集めたコーナー。手前は、個人的に大好きな画家・河鍋暁斎「神武帝図」、奥が前田青邨「大久米命」(展示は10月30日まで)

『大古事記展』@奈良県立美術館-08
第2室も古事記を描いた名画がずらり!富岡鉄斎・安田靫彦・中村不折・青木繁・堂本印象など、すごい方の作品が集まっています。近代になって、古事記の世界がよく画題に取り上げられてきたことが分かりますね

『大古事記展』@奈良県立美術館-09
絵画作品の主役ともいえるのが、堂本印象「木華開耶媛」(展示は11月16日まで)。天アマテラスの孫で、地上へ降り立った邇々芸命(ニニギノミコト)に嫁いだ美しい姫神です。萌え出づるワラビの表現など絶妙ですから、ぜひ間近でご覧ください!なお、会期後半には青木繁「黄泉比良坂」が登場します(11月18日から)。絵画作品は大きく展示替えがありますので、要チェックです

『大古事記展』@奈良県立美術館-10
こちらはとてもユニークな作品!歌川豊久「組上絵 八岐大蛇退治」(写真は複製。実物の展示は11月18日から)。のりしろのついた絵を切って立体的に楽しむもので、江戸時代から明治にかけて流行したのだとか。すごい!


第ニ章は文献学など「古事記の1300年」

『大古事記展』@奈良県立美術館-11
第3展示室の第ニ章は「古事記の1300年」。歴史書としての古事記が、その時代ごとにどのような扱いを受けてきたのか、貴重な資料とともに概略できます。手前に写っている絵は、江戸時代に古事記を研究した国学者・本居宣長の自画自賛像(重文)。渋くて貴重な展示物が並んでいます

『大古事記展』@奈良県立美術館-12
1644年に刊行された「古事記 寛永版本 中巻(本居宣長手沢本)」(重文)。欄外に書き込みがびっしり!本居宣長がこの本を研究して「古事記伝」にまとめました。現在の形で古事記が読めるのも、この方の功績大なのです

『大古事記展』@奈良県立美術館-15
手前は、現存最古の古事記「真福寺本」(名古屋の大須観音のこと)のコピーで、手にとって読めるようになっています。もちろん漢字表記なので、神様の名前などが見つかって面白いですね。奥は明治時代に作られた海外向けの日本昔ばなしのようなもの。八岐の大蛇。因幡の白兎・海幸山幸などが題材です

『大古事記展』@奈良県立美術館-17
奈良市此瀬町の茶畑から見つかった「太安萬侶墓誌」(重文)も、実物が展示してあります!想像よりも小さかったですが、文字も薄っすらと読み取れました。これが見つかるまで、太安萬侶の非実在説があったそうですから、いかに重要な発見だったか分かりますね


第三章は考古「古事記に登場するアイテムたち」

『大古事記展』@奈良県立美術館-16
第三章は「古事記に登場するアイテムたち」。古事記の作中に出てくるモノについて、考古資料を集めて展示してあります。銅矛・櫛・勾玉・冑と単甲・釣り針・鳥型や人型の埴輪・占いに使った卜骨など、古事記でどんなところで登場したのかを交えて紹介されます

『大古事記展』@奈良県立美術館-18
桜井市・巻向遺跡から大量に出土した「桃核(とうかく)」。要は桃の種ですね。変わり果てた妻イザナミの姿に恐れをなしたイザナギが黄泉平坂へ逃げ帰り、追ってきた雷神たちに桃の実を投げつけると逃げ帰った、というシーンに登場します

『大古事記展』@奈良県立美術館-19
御所市・宮山古墳出土の「大型家形埴輪」など。屋根に鰹木(かつおぎ)が乗っているのが特徴です。雄略天皇が鰹木をあげた民家を見つけて、「天皇の御殿に似せるとは何事だ」と激怒し、焼かせようとしたエピソードが残っています。奥に見えるのは、平城宮跡から出土した「隼人の盾(復元品)」です

『大古事記展』@奈良県立美術館-21
隣のロビー部分では、「古事記の今」と題して、古事記を題材にした漫画作品などが集められていました。私もだいぶ読んでいますが、まだまだたくさんあるんですね。そして、こうの史代さんの『ぼおるぺん古事記』の原画も展示してありました!ファンとしては嬉しい限り!


第四章は奈良の社寺「身近に今も息づく古事記」

『大古事記展』@奈良県立美術館-23
午前中では時間が足らず、ここから招待客が入場する午後の模様です。中央の古代の官服姿の方が荒井奈良県知事。関係者や取材陣が入り混じって、一時は大変な混雑でした

『大古事記展』@奈良県立美術館-26
第四章は「身近に今も息づく古事記」。古事記に登場する大神神社と石上神宮、そして武御雷神を祀る春日大社のご神宝の展示です。写真は、石上神宮の禁足地から出土した勾玉や管玉など。とっても貴重なもので、普段はなかなか目にすることができません。

『大古事記展』@奈良県立美術館-24
同じく石上神宮の「七支刀」。この日は復元品が展示されていましたが、「10月25日~11月24日」は本物(国宝)が展示されます!こんな間近で見られるんですから、必ずもう一度観にいきます!

『大古事記展』@奈良県立美術館-28
大神神社に伝わる平安時代の「大国主大神木像」。憤怒の表情で、烏帽子に大きな袋をかつぐ姿は、仏教の大黒天の像容ですね。この他、貴重な「内行花文鏡」や「子持勾玉」、春日大社の「鹿島立神影図」など神宝がずらり!

『大古事記展』@奈良県立美術館-29
奈良県は能楽発祥の地でもあり、県内に伝わる能面や、その流れをくむ島根県の石見・出雲などの神楽、宮崎県の高千穂神楽の関連の品も。会期中には「高千穂の夜神楽」などの公演もあります(詳細


第五章は現代アート「未来へ語り継ぐ古事記」

『大古事記展』@奈良県立美術館-30
第五章は「未来へ語り継ぐ古事記」(※現代アートのコーナーはどなたでも撮影可です)。3組のアーティストたちが、古事記の世界を新しい感性で表現し、語り継ぐことに挑戦しています。こちらは「エキソニモ」の作品。床の地球儀は転がってしゃべります!モニターに映る人は不思議です!

『大古事記展』@奈良県立美術館-31
和室に展示してあった山口藍さんの作品「ことど」。禊をしたイザナギ単体から三貴神(アマテラス・スサノヲ・ツクヨミ)が誕生しているが、じつは直前に黄泉の国から追いかけてきたイザナミが体液を投げつけ、体外受精のようなことが起こっていたら……というテーマだとか。その発想はなかった!

『大古事記展』@奈良県立美術館-32
奈良のアーティスト「トーチカ」の作品は、「ゲームセンター アマテラス」。天岩戸に閉じこもったアマテラスを誘い出すため、アメノウズメが服がはだけるのも気にせず、一心不乱に踊ったシーンを、ゲームで再現しようという意欲的な作品です

『大古事記展』@奈良県立美術館-33
音ゲーのように、光を足で踏むようにしていきます。上手くいくとアマテラスが登場してクリア!1回に5人まで、所要時間は3分程度。ぎっくり腰でややこしい動きが出来なかったので参加しませんでしたが、後ろで見ているだけでも楽しかったです(笑)


物販コーナーも充実!書籍やグッズも

『大古事記展』@奈良県立美術館-38
物販コーナーには、今回の図録(1,600円。内容は充実してます!)、古事記関連の書籍などが並んでいます。個人的にも大好きな「ぼおるぺん古事記」なども置いてありましたので、これをきっかけに古事記の世界に興味を持たれた方はぜひ!

『大古事記展』@奈良県立美術館-37
また、古事記モチーフのユニークな商品を世に送り出している、奈良きたまち「旅とくらしの玉手箱 フルコト」さんが関わったアイテムなども!古事記モチーフの●ックリマン的な「大和神伝葛ボーロ(200円)」や「古事記かるた(1,728円)」「木簡マスキングテープ(660円)」なども!


ディープな大古事記展。楽しかったです!

今回の『大古事記展』では、見る側の「古事記の知識の深さ」によって、評価は大きく変わってくると思います。古事記のお話自体、かなり難解な部分もありますし、まずは古事記の入門書にでも目を通してから会場へ出かけてみるといいですね。

また、展示内容が多岐にわたるため、通常の企画展と比較すると、やや雑多な印象を受ける方もいらっしゃるかもしれません。あまり古事記の世界の詳しくない方は、キュレーターの意図が把握しづらい箇所もあるでしょう。

しかし、この記事では紹介しきれていませんが、それぞれの展示が孤立しているのではなく、絵画の中に登場する考古資料を合わせて展示したり、春日大社で中世に古事記が研究されていたことを示す資料があったり、全体の大きな流れを捉えると、より楽しめると思います。

とりあえず、私は古事記などに関しては完全な素人ですが、美術も考古学も好きですし、ほぼすべてのコーナーを楽しめました。

一番ハードルが高そうな、第ニ章「古事記の1300年」も、三重県松阪市の『本居宣長記念館』(紹介記事)に行っているくらいですし、本当にハズレがなかったです(笑)

かなりマニアックな内容であることは間違いありませんが、大古事記展をきっかけとして、少しでも古事記ファンが増えてくれれば嬉しいですね!ぜひお越しください!



■語り継ぐココロとコトバ 大古事記展 五感で味わう、愛と創造の物語

HP: http://www.pref.nara.jp/miryoku/daikojikiten/
Facebook: https://www.facebook.com/narakikimanyou

会場: 奈良県立美術館(奈良県奈良市登大路町10-6)
会期 2014年10月18日(土)~ 12月14日(日)
休館日: 10月20日(月)、11月17日(月)、11月25日(火)、12月1日(月)、12月8日(月)
開館時間: 9:00 - 17:00(金土は19時まで)
観覧料: 一般800円、大学・高校生600円、中学・小学生400円

※会期中に展示替えあり。前期は11月16日まで。後期は11月18日から
※会期中には「高千穂の夜神楽」などの公演もあります(詳細
※館内の写真撮影は基本的に禁止です。第五章「未来へ語り継ぐ古事記」の現代アートコーナーのみ撮影が許可されています


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