千年続く伝統のお練り『聖衆来迎練供養会式』@當麻寺
中将姫の命日にあたる5月14日、葛城市・當麻寺で行われる『聖衆来迎練供養会式』(通称:お練り、練供養会式)を拝見してきました。今年は快晴に恵まれ、素晴らしい来迎会式が営まれました。
【追記】當麻寺の「練供養会式」は毎年5月14日でしたが、2019年から「毎年4月14日」開催へと変更になります。
お練りの発祥の寺。1000年以上続いています
奈良県葛城市で行われる法要『聖衆来迎練供養会式(練供養会式、お練り)』。当麻寺のご本尊となっている「當麻曼陀羅(国宝)」を織り上げた中将姫(ちゅうじょうひめ)の命日となる5月14日に行われています。
練供養会式とは、「往生要集」を著した天台宗の僧・恵心僧都源信が比叡山で初めて行ったとされており、源信の生まれ故郷である當麻に伝わりました。1005年、初めて當麻寺で練供養会式が行われて以来、千年以上も途切れること無く続けられています
なお、私は2009年にお練りを観に行って、その模様をレポートしていますので、そちらも合わせてご覧ください。
極楽堂から娑婆堂まで来迎橋が渡されます
二上山の麓に建つ古刹・當麻寺。一般的な観光ルートからも離れているため、普段はとても静かなお寺ですが、この時期は特別です。4月半ばから「葛城市ぼたん祭り」が開催され、5月14日には練供養会式を観るために、全国からたくさんの観光客が押し寄せてきます。今年はTwitterのお練り好きな方々とみんなで集まって、ワイワイと楽しく拝見してきました。
今年は週末にあたったため、例年よりも人出は多いように感じました。しかし、今回私たちが陣取ったような来迎橋のかぶりつきの場所も、1時間前くらいに準備すれば十分でしょう。また、脚立などの使用は禁止されていましたので、カメラマンの方はご注意ください。
中将姫の命日となる5月14日、奈良県葛城市の古刹「當麻寺(たいまでら)」では、毎年『聖衆来迎練供養会式(練供養会式、お練り)』が行われます。普段は静かな境内も、この日ばかりは屋台が並んで華やかです
練供養会式が始まるのは16時から。これは2時間前の14時頃の様子です。この日はいいお天気の日曜日で人出は多かったですが、中央の「来迎橋」の周辺はガランとしています。1時間前くらいにスタンバイすれば、橋のかぶりつきは陣取れるでしょう
本堂前から見た来迎橋の様子。西方極楽浄土を表す本堂「曼荼羅堂」から、はるか向こうの人間界を表す小さな「娑婆堂」まで続いています
来迎橋を挟むように建つ金堂と講堂前は、一段高くなっているため絶好の見学スポットです。左右それぞれ奥院・護念院・中之坊・西南院と、4つの塔頭が分けあっていました。いつかあそこの席で座って観てみたいのですが、何か特別な申し込み方法はあるのでしょうか?
二十五菩薩さまが中将姫をお迎えに
練供養会式は、5月14日の16時から。お神輿に乗った中将姫の像が、當麻寺の本堂にあたる「曼荼羅堂」(この日だけは極楽堂と呼ばれます)から、来迎橋の向こうにある小さなお堂「娑婆堂」へ移されるところから始まります。
まず、當麻寺本堂である曼陀羅堂から東方にある娑婆堂まで長い架け橋が渡されます。曼陀羅堂は本尊當麻曼陀羅にあらわされる西方極楽浄土を象徴し、これに対して娑婆堂は私たちの住むこの俗世界を象徴して、小さくささやかなお堂です。その二つを繋ぐ橋はまさしく来迎(らいこう)橋。娑婆と浄土を繋ぐ最短距離の白い道です。午後4時をまわるとまず僧侶が娑婆堂に向かい、まさに来迎をむかえんとする中将姫を囲んで読経いたします。やがて鐘が鳴ると極楽浄土の観音、勢至、地蔵菩薩が二十五菩薩を従えてまっすぐに来迎橋を下ってまいります。
読経の中、娑婆堂に至った観音菩薩は金蓮台に中将姫を遷し、勢至菩薩は光り輝くその両手で中将姫を優しく撫でます。娑婆の世界に別れを告げた中将法尼は菩薩聖衆に護られて来迎橋を渡り、極楽浄土に向かうのです。まさに極楽の曼陀羅堂にいたらんとするとき、夕日が二上山にかかり、あたりは西方浄土の様相に包まれます。
この練供養は仏様の来迎の様相をまさに現前したものです。日本の浄土信仰はまさに中将姫と當麻曼陀羅、練供養が広めたと言っても過言ではありません。貴族中心、国防中心の仏教が主流を成す中で當麻寺から始まった民衆の宗教は脈々と時代を流れ、やがて鎌倉時代の仏教革命へと流れ着くのです。
簡単にいえば、仏さまがおわす極楽堂から、人間界にいる中将姫を菩薩さまたちがお迎えにあがるというストーリーですね。
西日を背にしたお堂から、僧侶の方々、お稚児さん、雅楽の演者さんなどが続々と登場します。それに先導されて、白いお顔の「天童(天人)」、楽器などを手にした二十五菩薩さま、そして、観音菩薩さま・勢至菩薩さま・普賢菩薩さまと続きます。
前半(中将姫をお迎えするまで)は、ずっと逆光になるため写真撮影などは難しいのですが、そのお姿とにかく荘厳ですね。この法要が千年以上も続いているのですから、本当にすごいことだと思います。
16時になると、厳かに練供養会式が始まります。まずは、お神輿に乗った中将姫の像が曼荼羅堂から娑婆堂へと移されます。なお、西に太陽が傾いて極楽浄土を表す曼荼羅堂の背後から照らす時間に行われるのも、重要なポイントです。逆光で写真は撮りづらいですが、荘厳さを感じます
まずは、僧侶の方々やお稚児さん、雅楽を奏でながらの行列などが続きます
白いお顔の「天童(天人)」という方が続きます。この方々は、菩薩さまを先導する役割で、先に歩くややダークな色合いの服装をしたのが男子形天童、後に続くのが女子形天童なんだとか。他では見られない當麻寺オリジナルスタイルとのことです
その後ろに続くのが二十五菩薩さま。手に手に楽器を持ち、娑婆へ中将姫をお迎えに上がります。前半はどうしても逆光になりますので、正面からはよく見えませんが、曼荼羅堂へお戻りになる帰り道にじっくりと拝見できます
観音・勢至両菩薩のムーブを動画でどうぞ
お練りの主役級の存在感を示しているのが、左右に身をよじりながら上下動を繰り返すという、独特の動きで練り歩く「観音菩薩さま(すくい仏)」と「勢至菩薩さま(拝み仏)」でしょう。
短い動画を撮影してきましたので、その動きをご覧ください。長い来迎橋をずっとこのムーブで移動するのですから体力が必要です。こんな様子が目の前で見られるのですから、その美しさと力強さは十分に伝わり、とんでもないライブ感があるんです!
観音菩薩さま(すくい仏)の動画
勢至菩薩さま(拝み仏)の動画
西方の極楽へ向かう姿は美しく荘厳!
娑婆堂で中将姫をお迎えして、極楽堂へ戻る観音菩薩さま。手にした蓮華座の上には、仏さまの姿になった中将姫が乗せられています。西日を正面から受けてじりじりと進む姿は神々しく、本当に美しいですね。多めに写真を掲載しておきます。
娑婆堂からお戻りになる観音菩薩さま。行きは手にした蓮華座は空でしたが、娑婆堂で仏さまの姿になった中将姫を乗せています。本堂・曼荼羅堂は、この日だけは「極楽堂」と呼ばれ、中将姫を極楽へお迎えする意味が込められています
観音菩薩さまに続く勢至菩薩さま。こちらは前半と同じ、両手を合わせて拝む体制で進みます。この動きをずっと続けて長い来迎橋を渡るのですから、本当に大変ですね。間近で見ていると、厳かな雰囲気はもちろん、力強さがひそひしと伝わってきます
このライブ感、ぜひ現地でご覧ください
観音・勢至菩薩さまに続いて、天蓋を手にした普賢菩薩さまなどが続きます。極楽浄土への来迎のシーンを二上山の麓で再現していますので、そんな背景まで含めて感じ取ると、より感動は大きくなります。
當麻寺の聖衆来迎練供養会式は、わずか1時間ほどの儀式ですが、これが千年もの間、変わること無く受け継がれてきて、全国からたくさんの方がその模様を拝みにくるのですから、すごいことですよね。ものすごいライブ感がありますので、興味のある方はぜひどうぞ!
こちらは普賢菩薩さま。この画像では先端が途切れていますが、手にしているのは中将姫さまの頭上にかかげる天蓋です
続いて二十五菩薩さまがお戻りになります。先頭に立つ白いお顔の方は、右手に錫杖を持っているところを見ると地蔵菩薩さまでしょうか
二十五菩薩さまは、それぞれ手に楽器などを持っていらっしゃいます。この方は箱型の何かをお持ちですね。金色の仮面はとても視界が狭いということで、それぞれ介添人の方が誘導しながら進みます
仏さまのご一行に続いて、雅楽を奏でた一団、僧侶の方、お稚児さんなどが進みます
中将姫をお運びしたお神輿が戻って、當麻寺のお練りは終了です。1時間余りの法要が終わると、さらに西に日は傾きます。極楽浄土に最も近い場所とされた二上山の麓ですから感動もひとしおですね
■當麻寺
HP: 中之坊- http://www.taimadera.org/ 、奥院- http://www.taimadera.or.jp/
住所: 奈良県葛城市當麻1263
電話: 中之坊 0745-48-2001、奥院 0745-48-2008
宗派: 高野山真言宗・浄土宗
本尊: 当麻曼荼羅
創建: 7世紀前半ごろ
拝観料: 境内は無料(伽藍:500円、中之坊:500円、西南院:300円、奥院:300円、護念院:300円)
拝観時間: 9:00 - 17:00
駐車場: 有料(「二上山ふるさと公園(無料)」から歩くことも出来ます)
アクセス: 近鉄南大阪線「当麻寺駅」下車、徒歩20分
※練供養会式は、雨天の場合は来迎橋ではなく、曼荼羅堂の周囲を行道するそうです
■参考にさせていただきました!