白鳳時代の仏教美術が圧巻!『白鳳』@奈良国立博物館
奈良国立博物館の開館120年記念特別展『白鳳 ─花ひらく仏教美術─』を拝見してきました。もともと天智・天武・持統天皇らが活躍したこの時代が好きですし、この時代の小さくて愛らしい小金銅仏が大好きなため、大きな期待をしながら観に行ったのですが、想像をはるかに上回る満足度でした!
白鳳美術の粋が集結。圧巻の内容です!
「奈良国立博物館」の開館120年を記念した特別展『白鳳 ─花ひらく仏教美術─』が開催中です(2015年7月18日~9月23日)。
展示替えなどはありますが、期間中に約150件が出陳され、うち国宝は約15件、重要文化財は約70件。全国各地から素晴らしい白鳳文化の美術品が集結したものすごい内容で、発表になった当初から期待していましたが、想像をはるかに上回る素晴らしさでした!
あまりにも濃い内容のため、2時間くらいじゃまったく時間が足りませんでした。私たちがこの時代の仏教美術が特に好きなこともありますが、たっぷりと時間の余裕を見て挑むべきでしょう。
奈良国立博物館の開館120年記念特別展『白鳳 ─花ひらく仏教美術─』。メインビジュアルには薬師寺・月光菩薩立像(国宝)が登場しています。この方を間近から、360度ぐるりと拝見できるだけでも行く価値あり!白鳳美術の傑作が集められた素晴らしい内容でした
白鳳時代は、飛鳥と天平の間です
まずは、簡単に「白鳳」の時代背景の確認から。
白鳳は7世紀の半ばから710年に平城京に遷都するまでの間の文化や時代を指す言葉として、美術史学を中心に用いられてきました。この時代、天皇を中心とした国作りが本格化し、造寺造仏活動が飛躍的に展開し藤原京には大官大寺や薬師寺、飛鳥の地には山田寺や川原寺など壮麗な伽藍(がらん)が軒を連ねました。新羅をはじめ朝鮮半島の国々との交流は毎年使節が往来するなど盛んであり、大陸の先進的な文化がもたらされました。
飛鳥文化と天平文化の間に挟まれた時代で、乙巳の変(大化の改新)から平城京遷都の間、わずか60~70年くらいの短い期間を指しています。都は難波・近江などに移りながらも、飛鳥や藤原が日本の中心として栄えていた時代ですね。
天智天皇に始まり、天武天皇・持統天皇らが国を治めた時代でもあり、古代史好きな方には特に親しみのある時代だと言えるでしょう。
また仏教美術も広がり、大官大寺や薬師寺、山田寺など、壮麗な伽藍が建立されました。それに伴い、金銅仏や鋳造仏など後の時代にはあまり見られないタイプの仏像が造像されていきます。
白鳳美術の魅力は金銅仏に代表される白鳳仏にあると言って良いでしょう。白鳳仏は若々しい感覚にあふれ、中には童子のような可憐な仏像も見ることができます。神秘性や厳しさを感じる飛鳥彫刻や、成熟した天平彫刻とはまた違う魅力です。一方、考古遺物に眼を向ければ、白鳳期の瓦の文様はわが国の瓦当(がとう)文様の頂点と呼ぶにふさわしく、寺院址からは堂宇(どうう)の壁面を飾っていたと思われる美しい塼仏(せんぶつ)が出土しています。白鳳文化が高度に完成された様式を築き上げていたことがわかります。
金銅仏・塼仏・押出仏など技法も多彩
特別展では、以下の5つのパートに分けて、とても分かりやすく展示されていました。
[1] 白鳳文化の幕開け
[2] 薬師寺の創建 金銅仏の諸相
[3] 法隆寺の白鳳
[4] 白鳳の工芸と技術
[5] 変わりゆく社会
仏像はもちろん、瓦から壁画などのこの時代の仏教美術を総合的に紹介しながらも、時代を追ってとても理解しやすいですし、理解するしないを超越して、拝見しているだけで楽しい展示内容です。
出陳されているラインナップが驚くほど豪華ですから、仏像好きな方であればきっと驚かれることでしょう。「白鳳オールスターキャスト」と言いたくなるほどの豪華さですね(笑)
奈良国立博物館の開館120年記念特別展『白鳳 ─花ひらく仏教美術─』のパンフレット。中央には法隆寺・阿弥陀三尊像(伝橘夫人念持仏)、その下には薬師寺・月光菩薩立像、法輪寺・伝虚空蔵菩薩立像。銅造鍍金の2躯に、木造仏も登場しています
中を開くと、どーんと大きな興福寺・仏頭が目立ちますが、こちらは「8月18日~27日」までの9日間のみの特別展示になります。その上は、法隆寺から献納されて東博に展示されている阿弥陀三尊像。さらに大阪の野中寺・弥勒菩薩半跏像に、明日香村の川原寺裏山遺跡から出土した三尊塼仏。その上には、東京の深大寺・釈迦如来倚像!豪華絢爛!
隣のページに移っても、薬師寺・聖観音菩薩立像、法隆寺・文殊菩薩立像と観音菩薩立像(夢違観音)、さらに當麻寺・持国天立像(うるしを使った脱活乾漆像)なども。さまざまな造像方法が用いられた時代であったことが分かります
かわいい仏さまが多数おわします
個人的には、白鳳時代の海外から招来された、または国内で渡来人などが作った、小さな鋳造の仏さまが大好きです。以前に『小金銅仏の魅力―中国・韓半島・日本』(書評)という本を愛読しているくらい大好きです。今回の特別展「白鳳」では、まさにこの時代の名品がずらりと揃っていて、ドキドキしっぱなしでした。
仏さまに向かって失礼な言い方になりますが、とにかく「かわいい」んです。
小さく愛らしいのはもちろんですが、眉毛が繋がっていたり、プロポーションが幼い感じだったり、表情がのどかだったり。後の時代の木造仏のように細かい表現は難しいですから、やや稚拙さを感じてしまう面もありますが、それが最大の魅力です。
失礼ついでに言ってしまうと、「世の中をどう救おうか」などとは一切考えていらっしゃらないような、のんびり穏やかな表情の方も多くいらっしゃいます。しかし、「そこに存在していらっしゃるだけで人々は救われる」ということが私たちにも伝わってきますし、仏さまももちろんご存知です。
言葉にしなくても、細かいところまで作りこまなくても、その存在感だけで安心できるような、プリミティブなパワーを感じますね。
チラシと図録(2,300円)。図録の表紙は、解体修理中の薬師寺・東塔相輪水煙。会場では、この飛天が間近で見られます。図録は内容充実で、永久保存版。重いのを我慢して持ち帰る価値はありますよ!
図録より何点か。こちらは東博所蔵の法隆寺献納宝物・菩薩半跏像。606年もしくは666年の作。手足が長く、体がほっそり。背後からも見られるような展示になっていましたが、その人ならざるプロポーションに魅了されます。宝冠や裳懸座など細部もまったく見飽きません
向かって右から、法隆寺・普賢菩薩立像、興福院・菩薩立像、東博の法隆寺献納宝物の如来立像と観音菩薩立像。このようなタイプの方たちがずらりと揃っています!どなたも本当に愛らしいんですよね
法隆寺の「阿弥陀三尊像(伝橘夫人念持仏)及び厨子」。お像が美しいのはもちろん、厨子も、その中の金工品(後屏と蓮池)まで完全に残っていて、どちらもため息が出るほど美しいのですからすごいです!じっくりと拝見できます
土で作られてタイルのように使用されたとも考えられている「塼仏(せんぶつ)」も美しいものが多数見られました。このページは夏見廃寺や橘寺、南法華寺(壷坂寺)から出土したもの。奈良に都が遷る前には、このエリアはより華やかだったのでしょう
薬師寺も法隆寺もすごい!
言及しきれませんので、簡単に感想をまとめます。
薬師寺はすごい!
薬師寺からは、東院堂の聖観音菩薩立像、東塔の相輪水煙、金堂の月光菩薩立像が出陳されていました。すべて息を飲むような美しさですね。月光菩薩さまは、お堂で拝見するよりもはるかに大きく感じました。遠目にはまったく破損などないように思ってしまいますが、間近からだと細部まで見られます。360度いろんな角度から拝見できる貴重な機会ですから、ぜひ何周もまわって観察してみてください。
法隆寺もすごい!
当然のことですが、この時代の宝物をもっとも素晴らしい状態で所蔵しているお寺さんです。明治維新後に一部が寺外へ流出してしまっていますが(法隆寺献納宝物)、今回の展示ではたくさんの像が奈良へ里帰りしています。また、これだけの仏さまが奈良博に出張してきても、宝物館にはまだあの方やこの方などがいらっしゃるんですから、ただただすごいとしか言いようがありません。小さな金銅仏は本当にいい!
いい年をしたおっさんが「可愛い」「可愛い」と、会場で何度も口走ってしまたくらいですから、本当に愛らしくて可愛いですよ。例えば、大阪の野中寺・弥勒菩薩半跏像は、髪の飾りや頬に当てた右手の返しなど素晴らしいですし、奈良の金龍寺・菩薩立像のとろんとした瞳の表現など、まるで童子のようです。過剰気味な装飾が表現されていたり、そうと思えばどこか素っ気ない作り方があったり。興味はつきません。
会期中にもう一度行きます!
まだまだ全然見たりませんでしたので、必ずもう一度は拝見したいと思います。今度は休憩をはさみながらでもじっくりと向き合いたいですね。
■奈良国立博物館
HP: http://www.narahaku.go.jp
住所: 奈良県奈良市登大路町50番地
電話: 050-5542-8600(NTTハローダイヤル)
休館日: 月曜日(休日の場合は翌日休み)
開館時間: 9:30 - 17:00
駐車場: 周辺の有料駐車場を利用
アクセス: JR・近鉄「奈良駅」から、市内循環バス外回り(2番)「氷室神社・国立博物館」バス停下車すぐ(近鉄奈良駅から徒歩約15分)
※奈良国立博物館「なら仏像館」は、2014年9月より、建物内外の改修工事のために休館しています(2016年3月まで予定)。
●開館120年記念特別展 白鳳 ─花ひらく仏教美術─
HP: http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2015toku/hakuhou/hakuhou_index.html
会期: 2015年7月18日(土)~9月23日(月祝)
休館日: 毎月曜日(7月20日、8月10日、9月21日は開館)
開館時間: 9:30 - 18:00(毎週金曜日と8月5日~15日は19時まで)
拝観料: 大人 1,500円、高校・大学生 1,000円、小中学生 500円
Twitter: @narahaku_PR