2017-01-14

お水取りを描いた作品も!『祈りの美』@奈良県立美術館

お水取りを描いた作品も!『祈りの美』@奈良県立美術館

奈良県立美術館で始まった企画展『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』を拝見しました(2017年1月14日~ 3月15日)。3名の美術家さんそれぞれが見た、奈良の宗教行事や風景などを描いた作品を中心に展示し、見応えのある内容でした!

(※取材者として特別に館内撮影の許可をいただいています)


奈良の厳かな「祈りの美」たち

奈良県立美術館」(Facebookページ)で企画展『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』が始まりました(2017年1月14日~ 3月15日)。

作家さんの名前を列記した、ちょっと不思議なタイトルですが、東大寺二月堂の「お水取り」など、奈良の宗教行事や風景などを描いた作品を多く集め、とても見応えのある内容になっていました。

古都・奈良には、長い歴史の中で育まれてきた多彩な文化が共存し、今なお大切に受け継がれています。中でも、仏教や神道といった信仰の世界は、奈良の歴史・文化を特徴づけるとともに日本の精神風土に深く浸透し、今日の造形表現にも大きな影響を与えています。

本展では、伝統的な宗教画題による日本画から新たな解釈のもとに祈りを表現した作品や、連綿と続く「お水取り」をはじめ奈良の風物に着想を得た作品など、祈りの地・奈良をテーマとした作品を展示し、現代に花開いた祈りの美の世界をご覧頂こうというものです。

絵画・書・陶芸など約200点からなる出品作品は、東大寺別当・華厳宗管長を務め、宗教家から美術家へと活動の場を広げた清水公照(1911-1999)、仏教に新たな画境を見出しシルクロードをテーマに深淵なる絵画世界を構築した平山郁夫(1930-2009)、そして奈良の風物に魅せられ、独特の造形感覚で祈りの美を捉えた杉本健吉(1905-2004)によるものです。

三者三様の表現世界をご覧頂き、その根底で通ずる祈りの心を感じ取っていただくと同時に、奈良の歴史・文化の魅力に改めて触れる機会となれば幸いです。

公式ページより


今回は(一応)取材者側としてお招きいただきましたので、作品の写真も撮影しながら拝見することができました(通常は撮影禁止です)。とても充実した内容でしたので、その雰囲気だけでもお伝えしたいと思います。


『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-01

奈良県立美術館で開催中の『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』。初日からお邪魔したのですが、盛大な開会式があったりとても賑やかでした。また、「祈りの地・奈良きたまちの歴史をひもとく」という連携展示もあり、その関連で和太鼓の演奏があったり、「きたまちマーケット」が開催されたりしていました


【1】清水公照 祈りの心

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-02
第1室では、本企画展のメインビジュアルにも使用されている「清水公照(しみずこうしょう)」さん(Wikipedia)の「紅富士」が出迎えてくれます。華厳宗管長や東大寺別当も務められた宗教家であり、独特の味わいの書画・陶芸などの作品を多数遺しました。今回が初の本格的な企画展となるそうです

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-03
ずらりと並ぶ、色鮮やかな掛け軸は「文殊・普賢 十大弟子」。一気呵成に書き上げた様が伝わってくるような迫力で、近くから遠くから、さまざまな角度から見入ってしまいました

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-04
2曲1双の屏風「十大弟子」。素朴な表情、伸びやかな線、弾けるような色彩。描書かれている詩は江戸時代の名僧・良寛のものだとか。清水公照さんご自身も「昭和の良寛」と呼ばれていたそうです

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-05
「楽ノ音菩薩 拓」という作品の一部分。東大寺大仏殿の前に立つ国宝「金銅八角燈籠」にある、楽器を演奏する天女「音声菩薩」の浮き彫りから拓本をとったものを中心に、周りに文様などを描いています。「そんな手があるんだ!」と驚きました。雰囲気ありますね!

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-09
また、東大寺二月堂の「お水取り(修二会)」をテーマにした作品も多数展示されています。こちらは「籠の僧(こもりのそう)」という作品。整列して出番を待つ「練行衆」(れんぎょうしゅう。お水取りに参籠する僧のこと)の姿を描いています

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-07
「修中絵日記」という巻物の展示。清水公照さんが大導師を務めた1970年のお水取りの際に描いた「お水取り絵日記」と、和上を務めた1971年の別火(前行)の際に描いた「修中絵日記」があります。練行衆みずからの手でその様子が描かれたものですから、とても興味深かったです!

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-08
お水取りについて、映像での資料などを拝見したりしますが、こうした絵で表されたものは味がありますね。別室に杉本健吉さんがお水取りを描いた作品群も展示されていますが、視点が違って面白いです。じっくり比較してみたいですね!

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-06
東大寺別当を務めた期間中には、東大寺大仏殿の昭和の大修理が行われました。自筆の書が入った鴟尾のレプリカなど、ゆかりのものも展示されています

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-10
端正な陶芸作品も手がけましたが、こうした手びねりの素朴な「泥仏」も多数遺したそうです。味わい深いですね


【2】杉本健吉 祈りの形

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-11
第2部は、奈良の風物に魅せられた洋画家、イラストレーターの「杉本健吉(すぎもとけんきち)」さん(Wikipedia)の作品が並びます。志賀直哉さん、入江泰吉さん、上司海雲さんらと交流したことでも知られている方ですね。こちらは自画像と当時の奈良国立博物館の内部を描いた作品です

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-13
こちらも昔の奈良博を描いた作品。今はもうそれぞれのお寺に戻られた仏さまなども描かれていて、仏像好きにはとても興味深いです。向かって右は、ガラスケースに入った阿修羅像。いまはもちろん興福寺におわしますが、戦後は奈良博で展示されていました。正面からではなく、あえて真横から描いているのも面白いところです

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-12
「古都春雨」という作品。登大路から奈良県庁、東大寺大仏殿、若草山までの描いています。杉本健吉さんというと、私などは墨絵のイメージが強いため、すっかり日本画家の方だと思いこんでいたのですが、もともと洋画家の方ですから、こんな油彩画も見られます

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-14
奈良の風物を愛した歌人「會津八一」の歌に絵をつけた、一連の作品群も展示されていました。こちらは「新薬師寺 香薬師如来立像」。歌は「みほとけの うつらまなこに いにしえの やまとくにはら かすみてあるらし」。小品ですが、自宅に欲しくなります!

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-15
杉本健吉さんが描いた、東大寺二月堂の「お水取り」の世界。墨絵の白と黒の世界の中で、静けさや厳かさと同時に、行の厳しさや火の激しさなども表現されています。印刷物では何度も拝見していた作品ですが、実物を間近で見られて感激しました!

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-16
杉本健吉さんのコーナーの最後に登場したのが「聖徳太子絵伝」です。大阪・四天王寺の聖霊院(太子堂)の壁画として描かれたものの画稿で、掛け軸の形で遺されています。全7面あり聖徳太子の一生の事跡が描かれていますが、純粋な日本画とも洋画ともまた違う、イラストや漫画のような描き方が見られる、とても面白いものでした。ファン必見です!


【3】平山郁夫 祈りの美

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-18
最後に登場するのは、シルクロードをテーマにした作品群で知られる「平山郁夫(ひらやまいくお)」さん(Wikipedia)です。広い展示室に平山さんらしい大作がどーんと配置されていて迫力がありました。もちろん、奈良の風景を描いた作品も集められています

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-19
シルクロードを歩く僧侶たちの姿を、荘厳に描いた「天山南路(昼)」。静かな祈りが伝わってきます。間近で見ると圧倒されるようなパワーを感じました

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-20
シルクロードを描いた大作も見応えがありますが、奈良の風景を描いた小品も良かったです。こちらは「桜井曼荼羅」という作品で、桜井市の三輪山・大神神社・談山神社・長谷寺・古墳などを、俯瞰的に一枚に収めています。これはすごい!桜井市が作品を所蔵しているそうで、普段は市長室にでも飾ってあるのかも?

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-21
こちらは「斑鳩の里 法輪寺の塔」というスケッチ作品です。この他には、長谷寺や白毫寺、夜の大仏殿を描いた作品などが並んでいます。平山郁夫さんが描いた奈良をまとめて鑑賞できる機会はそれほど多くありませんので、貴重ですね


「奈良きたまち」の連携展示・企画も

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-22
また、これと連携して「祈りの地・奈良きたまちの歴史をひもとく」という展示も行われています。主催は「文化創造アルカ」さん(Facebook)。期間中はさまざまなイベントも開催されます

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-23
奈良県立美術館も近い「奈良きたまち」エリアについて、その歴史を分かりやすくパネルで解説していきます。平城京と東大寺を結ぶエリアであり、平安京と南都を結ぶ京街道が通るエリアでもあり。地元では「歴史のモザイク」と呼んでいます

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-24
会場には、現在の奈良きたまちの立体的なマップも登場!現在の様子や過去の歴史などをわかりやすく可視化してくれています。いろんな時代の香りがありますから、これを意識しながら街歩きしたら楽しいでしょうね!

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-25
こちらは、戦国武将・松永久秀が眉間寺山に築いた「多聞城跡」のあたりの立体的な模型です。1947年に若草中学校の建設工事を始める前に測定された実測図から作ったのだとか!小さな丘程度かと思ってしまいがちですが、聖武天皇陵との間の堀切などが意外と深くて驚きました。ブラタモリ気分が味わえますね(笑)

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-26
また、毎年開催されている「奈良きたまちweek」(Facebook)との連携イベントも数多く予定されています。

●時代衣裳で歩く!奈良きたまち歴史発見ツアー(天平時代篇・近現代ハイカラさん篇)
●連携講話「女性たちの祈りの美のおはなし~県内の女性僧侶・神職の講話」(璉珹寺ご住職・葛城御歳神社 宮司さん・聖林寺ご住職・賣太神社 禰宜さんなど)
●奈良のお店が出店する「ようこそ!きたまちマーケット」など

詳しくは「奈良きたまちweek」ホームページをご覧ください

『祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・』@奈良県立美術館-28
初日のこの日も、奈良県立美術館の前庭で「ようこそ!きたまちマーケット」が開催されていました。写真は「ひとはな庵」さんの豚汁。寒波が襲来していてとても寒い一日でしたが、体の芯から暖まりました。出店店舗などを変えて、2月11日(土祝)・3月4日(土)にも開催されますので、美味しいものを目当てにぜひ!



■祈りの美 ~清水公照・平山郁夫・杉本健吉・・・

HP: http://www.pref.nara.jp/item/169949.htm

会場: 奈良県立美術館(奈良県奈良市登大路町10-6)
会期 2017年1月14日(土)~ 3月15日(水)
休館日: 月曜日(3月6日、13日は開館)
開館時間: 9:00 - 17:00
観覧料: 一般 400円、大高生 250円、中小生 150円

※65歳以上の方、外国人観光客・留学生の方などは、無料で入館できます
※館内の写真撮影は禁止です
※イベント情報などは、奈良県立美術館「Facebookページ」から観られます


■参考にさせていただきました

奈良倶楽部通信 part:II: 県美「祈りの美」展*鑑賞記






  • Twitterでフォローする
  • Facebookページを見る
  • Instagramを見る
  • ブログ記事の一覧を見る







メニューを表示
ページトップへ