「良弁忌」に公開された秘仏拝観『東大寺』@奈良市
奈良市の『東大寺』では、毎年12月16日に「良弁忌」という法要が営まれ、それに合わせて法華堂の秘仏「執金剛神立像」などの秘仏が開扉されます。
この日は、貴重な秘仏を拝見するとともに、まだ行ったことが無かった「戒壇堂」で、有名なニヒルな四天王像にもお会いしてきました!
初代別当「良弁僧正」の法要の日です
毎年、12月16日は東大寺の初代別当を務めた「良弁僧正(ろうべんそうじょう)」の命日の法要「良弁忌」が行われます。国宝の「開山堂」に祀られた「良弁僧正坐像(国宝)」の年に一度の開扉日となります。
それと時を合わせて、法華堂の秘仏「執金剛神立像(国宝)」なども公開される、大きな秘仏公開デーになっている日でもありますから、前々からこの日に来てみたいと思っていたのですが、ようやく念願が叶いました!
観光シーズンから外れた冬場とはいえ、修学旅行生などとともに、たくさんの参拝客の方の姿が見られました。
東大寺・法華堂(三月堂)の秘仏「執金剛神立像(国宝)」の年に一度の開扉日。年末まであと半年だというのに、この日も東大寺は修学旅行生でいっぱいで、鹿たちも忙しそうでした
東大寺・大仏殿の様子。この日は時間が無くて拝観しませんでしたが、いつもながらのすごい賑わいです。地元の小学生の団体などもわんさか押し寄せてきていました
俊乗堂・行基堂・念佛堂も公開されます
この12月16日の「良弁忌」は、普段は拝観できない様々なお堂が開扉されます。大仏殿から法華堂へ向かう途中にある「鐘楼(国宝)」周辺には、普段はあまり目立つことの無い小さなお堂がいくつかありますが、そちらも全て拝観することができました。
国宝の「俊乗重源上人坐像」と、重文の「阿弥陀如来立像」「愛染明王坐像」が祀られているという「俊乗堂」(拝観料500円。7月5日は無料)も公開されていたのですが、この日は時間の関係で拝観することはできず・・・。俊乗堂は7月5日・12月16日の年二回公開されていますので、またの機会にお参りしたいと思います。
この日は、東大寺・法華堂だけではなく、大仏殿の東側にある「鐘楼(国宝)」周辺のお堂も全て開扉されていました。普段は素通りしてしまうことが多いのですが、小さなお堂が多数立ち並んでいるんです
この一帯の中心にあるのが、巨大な「鐘楼」&「梵鐘」。ともに国宝です。比較対象がないと伝わりにくいのですが、この梵鐘はとにかく巨大!下から覗くのが怖いほどの大きさです
鐘楼周辺に建つ「俊乗堂」。この日は年に二度(7月5日と12月16日)の開扉日で、「俊乗重源上人坐像(国宝)」と、「阿弥陀如来立像(重文)」「愛染明王坐像(重文)」が公開されていました(500円)。しかし、時間の関係で拝見することができず・・・
鐘楼の北東に建つ「行基堂」。曲がった「如意(にょい)」という棒を持った行基像を祀ってあります。玉眼が入った厳しい表情の行基さんで、なかなかの迫力がありました
鐘楼の東側に建つ「念佛堂」。大きな地蔵菩薩坐像がいらっしゃいます。改めて思いましたが、さすがに東大寺は色んなお堂に色んな仏さまがいらっしゃるんですね!
天平塑像の最高傑作「執金剛神立像」!
東大寺「法華堂(三月堂)(国宝)」は、この日は秘仏「執金剛神立像(しゅこんごうじんりゅうぞう・国宝)」の年に一度の開扉日ということもあり、大変な賑わいでした。
像高362.1cmの「不空羂索観音立像(国宝)」を中心として、12体の国宝と4体の重文、計16体もの仏像が立ち並ぶ素晴らしいお堂ですが、執金剛神立像は御本尊の真後ろにいらっしゃいますので、普段は立ち入ることができない内陣の裏側まで入り、周りを一周することができるのです!
普段はお堂の後ろ側にいらっしゃるためよく見えない、八臂の弁財天立像や、吉祥天立像(ともに重文)などもよく見えましたし、その大きさがよりリアルに伝わってきました。改めて、不空羂索観音立像と日光・月光菩薩立像の三尊像は素晴らしいですね。少し近づいて見れたことで、より感動できました。
そして、執金剛神立像ですが(像高173.9cm)、天平時代の塑像であるにも関わらず、ずっと秘仏として安置されてきただけに、色彩が鮮やかに残っています。また、この時代の塑像彫刻は、どうしても前時代的な、ちょっともっさりとした印象を受けることが多いのですが、こちらは全く違いますね!ものすごい躍動感を感じました。
お顔は、玉眼入りでやや寄り目、真っ赤な口を大きく開いた憤怒の表情です。体がやや捻りが入っていたり、腕には浮き出した血管が見えたりしますが、鎌倉時代のような超人的な造形ではありませんので、ある意味では安心感がありますね。さすがに「天平塑像の最高傑作」と呼ばれるだけのことはあるでしょう。
厨子の前はかなりの混雑ぶりでしたが、台の上に上って目線を同じ高さに合わせて見たり、下から見上げてみたりと、色んな角度から拝見することができました!
東大寺・法華堂(三月堂)前。12月16日は年に一度の秘仏「執金剛神立像(国宝)」の開扉日ですので、大変な混雑振りでした。さすがに修学旅行生はいませんが、大学のゼミらしき団体が2組ほど。内陣の周りを一周できるのですが、なかなか行列が進まないほどでした
国宝の「法華堂(三月堂)」の建物は、東大寺創建以前にあった「金鍾寺」の遺構とされるもの。向かって左側が「正堂」で、右側が「礼堂(らいどう)」。隣り合って建つ2つの建物を、鎌倉時代に繋げてしまったのだそうです
天平時代の正堂(左側)と、鎌倉時代の礼堂のつなぎ目部分。軒を見るとハッキリと分かります。組物はもちろん、窓の造りなども明らかに違っているのが分かります。ぜひ見比べてみてください
以前に購入してあった、東大寺・法華堂の雑誌と絵葉書たち。左上が「執金剛神立像(国宝)」です。2010年秋には、この不空羂索観音さんが東京へ出張なさるそうですから、大変ですよね!
もちろん開山堂「良弁僧正坐像」も無料公開
また、12月16日は「良弁忌」ですから、二月堂の正面ほどにある「開山堂(国宝)」も、年に一度の開扉日となり、東大寺の初代別当を刻んだ「良弁僧正坐像(国宝)」を拝見することができました(ちなみに、拝観料は無料です)。
こちらは平安時代の木造で、像高は92.4cm。とても穏やかな表情をされていらっしゃいます。その手には、生前に良弁僧正が愛用していたという「如意(にょい。ステッキのような形)」を持っていて、この部分だけが素材感が違ってツヤがあるため、妙に生々しく感じられました。
お堂自体も、1250年に改装された際に外陣を増築したとのことで、外観はやや地味ですが、現在の内陣に当たる部分の組物はかなり凝っていて三手先になっていました。大仏様(だいぶつよう)建築の一種となるそうです。
法華堂の向かいに建つ「開山堂(国宝)」も、この日は年に一度の開扉日。東大寺の初代別当を刻んだ「良弁僧正坐像(国宝)」が拝観させていただけました。しかも、ご記帳させ済ませば無料で入堂できるのも嬉しいところです!
東大寺・開山堂はそれほど広くありませんが、さすがに混雑していました。1250年の改装の際に現在地に移築されるとともに、外陣を増築しているそうです。このため、外観はやや地味ですが、内陣部分は三手先の大仏様(だいぶつよう)になっています
東大寺・開山堂を入り口方面から見たところ。距離が近すぎて、宝形造の屋根はよく見えません。なお、開山堂には、「大和三名椿」として知られる「糊こぼし」と呼ばれる椿があるのですが、この樹がそうなんでしょうか?(大和三名椿は、あとは白毫寺・伝香寺にあります)
いつもは静かな東大寺「二月堂(国宝)」も、この日はたくさんの方の姿が見えました。二月堂のご本尊は、「大観音」「小観音」と呼ばれる2体の十一面観音像ですが、絶対秘仏となっており、人目に触れることはありません
旧暦2月行われる「お水取り(修二会・しゅにえ)」の日には、この石段を燃え盛る松明が通ります。あの活気もいいものですが、こんな静かな日も悪くありません
ニヒルな四天王像がいらっしゃる「戒壇堂」
法華堂方面から、大仏殿の裏手を通り、西側に建つ「戒壇堂」(拝観料500円)へ向かいました。
戒を授ける重要なお堂だけに、砂庭がきれいに掃き清められていて、東大寺の中でもここだけ少し雰囲気が違います。755年の建立以来、三度も焼失を繰り返したため、建物自体は江戸時代の再建なのだそうです。
戒壇堂に入ってみると、そのほとんどが方形の舞台のようになっていて、参拝者はその周辺の細い通路をぐるりと周るようになっています。中央には、大きな宝塔が立ち、その四方を奈良時代作の塑像「四天王立像(国宝)」が取り囲んでいるのですが、全体的に広々としていて、やはり仏像を祀ることを目的としたお堂とは、かなり作りが違うようです。
この四天王像は、法隆寺・当麻寺に次ぐ、日本で三番目に古いものとのことですが、みな袖口が獅子の顔の形になっている「獅噛(しがみ)」というもので、どれも力強く、全く古くささを感じさせません。
特に、その渋い表情で有名な広目天・多聞天は素晴らしいですね!苦虫を噛み潰したようなニヒルな顔立ちで、いかにも腕っ節の強いガードマン風に見えます。仏像ファンから人気が高いのも当然でしょう!
大仏殿の西側に建つ東大寺「戒壇堂」。これまでに何度も東大寺へ来ている私たちですが、戒壇堂を拝観するのは初めてでした
掃き清められた砂庭が美しい東大寺・戒壇堂。鑑真から戒を授かった聖武天皇と光明皇后が、755年、日本最初の受戒の場として建立しましたが、江戸時代までに三度焼失。現在の建物は1732年の再建なのだそうです
色んなお堂をたっぷり拝観して、帰る頃には修学旅行生の姿も鹿の姿も見当たらなくなっていました。ちょっと時間をずらして、こんな静かな雰囲気が味わえるのが地元民の醍醐味ですね!
■東大寺
HP: http://www.todaiji.or.jp/
住所: 奈良県奈良市雑司町406-1
電話: 0742-22-5511
宗派: 華厳宗大本山
本尊: 盧舎那仏(国宝)
創建: 8世紀前半
開基: 聖武天皇
拝観料: 大仏殿:500円、三月堂(法華堂):500円、戒壇院:500円
拝観時間: 11月~2月:8:00-16:30、3月:8:00-17:00、4月~9月:7:30-17:30、10月:7:30-17:00