アマテラス―最高神の知られざる秘史 (学研新書)
古代から近代まで、最高神アマテラス祀られ方や性格の変貌ぶりを追った一冊。面白い!
伊勢神宮に祀られ、天皇家の祖として知られる太陽神「アマテラス」。日本の中心となる聖地となっていますが、歴史を遡っていくと、アマテラスの祀られ方や性格は時代によって大きく変容してきました。古代から近代まで歴史書を紐解き、最高神の変貌ぶりを俯瞰した一冊です。
説明文:「天皇家の祖神アマテラスとはいかなる神なのか?古代神話が語る「戦う女神」「岩戸ごもりの太陽神」は、やがて「天皇を祟る神」となり、ついには仏と合体して秘儀のための「蛇体本尊」にまで姿を変じていく―最高神の知られざる秘史を読み解く。」
日本神話の初期、戦う女神だったアマテラスは次第に表舞台から姿を消していきます。高天原にやってくる弟・スサノヲを迎え撃つシーンなど、シャーマンであり戦士であり、活き活きと描かれていました。しかし、後には天皇に祟りをなす神として恐れられていきます。
伊勢神宮におさまったアマテラスは、血などの不浄を徹底的に排除すると同時に、仏教にまつわる言葉や所作をも穢れとして禁忌していきます。天皇らが仏教を信仰することで、伊勢神宮の神官たちが自らのアイデンティティを確立する目的もあり、仏教との差別化をはかったのでしょう。
さらに、アマテラスは時の天皇へたびたび祟っています。アマテラスへ捧げられる食事「御饌(みけ)」を運ぶ途中に死体があって避けきれなかった、伊勢神宮の童が狼に食われた、遺骨を加えた犬が入ってきたのに祭りがそのまま行われたなど、こうした不浄があるたびに天皇へ祟るのです。「巽の方の大神」と呼ばれて恐れられました。
現代の考え方だと、神官たちのミスで天皇が祟られたのですから、処罰されても良さそうなものに思えます。しかし、タタリとは神からの咎めだけではなく、神が病気という形で人間たちに何かの意思表明をしている、それにきちんと応えることが重要とされていたのだとか。祟りは決してネガティブなだけではなかったといいます。
アマテラスが祟るのは、自らの子孫である天皇に対してのみ。それに対処できるのは、伊勢神宮の神官たちのみ。こういう論法で自らの存在意義を見出してきたのです。この他にも、外宮と内宮の争いがあったり、仏教との融合があったり、興味深いエピソードの連続で、最後までまったく飽きることなく読めました。
著者の斎藤英喜先生は、中世の神話関連の作品も多く著していらっしゃいます。当たり前のように受け入れている神や仏の世界が、人間たちの思惑も混じり、時代ごとに大きく変容していることに気づかせてもらえて、本当に面白いんですよね。興味のある方はぜひ!
●『古事記 不思議な1300年史』(紹介記事)
●『読み替えられた日本神話』(紹介記事)
●『荒ぶるスサノヲ、七変化―“中世神話”の世界 (歴史文化ライブラリー)』(紹介記事)