
百寺巡礼 第一巻 奈良 (講談社文庫)
作家・五木寛之さんの名シリーズ。奈良の古刹で色んな思いを馳せられます
作家・五木寛之さんが百のお寺をめぐり、その紀行文を書いていく『百寺巡礼』シリーズ。第1巻となる奈良編では、●室生寺 ●長谷寺 ●薬師寺 ●唐招提寺 ●秋篠寺 ●法隆寺 ●中宮寺 ●飛鳥寺 ●當麻寺 ●東大寺、これら10のお寺を周り、そこで感じたことを自由に綴られています。
文庫本を購入してずっと積んでありましたが、いざ読み始めるとさすがに面白いですね。お寺の歴史などが語られますから、まったく基礎知識がないと理解しづらいかもしれませんが、とても平易に描かれています。仏像の造形やお寺の雰囲気などだけではなく、そこでどのようなことを感じ、どう思ったのか、そして何を思い出したのかなど、作家さんらしいコクがある文章でした。
説明文:「五木寛之の『百寺巡礼』全10巻刊行開始!第1巻 奈良 いざ、至福の名寺へ。古寺、名刹のある場所には、不思議なエネルギーがある。それを体で感じ、新しい命を悠久の歴史に思う。第1巻は古の都、奈良。小雪の舞う室生寺、聖徳太子の強く深い想いが込められた法隆寺、優しさをいまに伝える中宮寺の半跏思惟像、「苔の海」が輝く秋篠寺――。私の「百寺巡礼」の旅が始まる。」
五木寛之さんは、49歳の時に一時休筆して龍谷大学で仏教を学び、また文筆業に復帰。たくさんの人気作品を発表し、70歳を迎えようとするころに「二年間で百の寺を巡る」という計画を立て、この『百寺巡礼』シリーズを書き上げました。
適度に情報を盛り込みながら、雰囲気も感じさせ、さすが旅情をそそる素晴らしい文章になっていますね。第1巻では身近な奈良のお寺が登場しているだけに、より読みやすいです。他のエリアの文章を読んだ時に、私がどう感じるかは想像できませんが、ぜひ手にとってみたいですね。
このシリーズでは、事前に詳しい下調べはせず、旅の先々で感じたことをひたすら記録していったのだとか。このため、お寺に居ながらずっと古い記憶をたどっていくような回などもありますが、こうした記述が適度な遊びになっていていいですね。
普段からエッセイなどを読まれる方には珍しいことでもないと思いますが、最近の私は学術書や実用書のような事実関係だけを理路整然と並べる本ばかりを読んでいましたので、妙に新鮮でした。自分のブログでも「情報をシンプルに分かりやすく伝える」ということを目的にしているため、極力、自分個人の色を消してきましたが、こうした文章もいいかもと、ちょっと刺激を受けたりしています(笑)
さらに余談ですが、五木寛之さんが葛城市・二上山を舞台に書いたファンタジックな小説『風の王国 (新潮文庫)』(紹介記事)もオススメです。