風の王国 第一巻 翔ぶ女
二上山を舞台にしたロマンあふれるストーリー。きっと二上山を見る目が変わります!
奈良県と大阪府の境に広がる「二上山」。この山が重要な舞台となる、五木寛之さんの小説です。3巻一気に読了しました。
私は二上山の麓に暮らしているため、毎日のように御岳と雌岳が連なった姿を見ています。時には二上山の写真をアップしたりもしていますが、何名もの方から「『風の王国』を読んで以来、二上山は憧れの山です」というコメントをいただいていました。
普段はほとんど小説を読まなくなった私ですが、さすがにこれは無視できないと、ようやく図書館で借りて読んでみましたが、さすがに面白いです!これだけ二上山二上山二上山と連呼されるお話は他にはありませんね。折口信夫さんの『死者の書』の比ではありません。
ネタバレを避けるため、あまり詳しいことは書けませんが、以下の内容紹介がよく特徴を表しています。
「トラベル・ライターの速見卓は、取材で初めて二上山を訪れた。二上山で速見が見たのは、この世の者とは思われない速さで山を疾駆する「翔ぶ女」葛城哀。そして謎に満ちた「へんろう会」の人々。彼らはいったい何者なのか?二千年の大和の闇の部分を巡る道、二上山の南麓から葛城・金剛の山裾をぬって風の森峠までのルートは、大和の“影の細道”にあたる。朝日さす神の山・三輪山に対して、西の二上山は、日の沈む浄土の山。山頂には、悲劇の皇子・大津皇子の墓があり、この世とあの世の境の山…。その日から、速見の想像を絶する人生が動き出していく。」
さらには「愛と戦慄の五木ロマン最大傑作」なんて紹介もあるほど。ロマンといえばロマンですし、中二病といえば中二病です。ライトノベルの走りのような感覚で読めますね。やや設定や描写が行き過ぎな部分もありますが、二上山に思い入れのある人間にとっては、それも心地いいです。お話と分かっていても、二上山をまた違ったイメージで見られると思いますし、次に二上山に登ったらものすごい早足で歩くと思います(笑)
また、仏教にも含蓄のある五木さんだけに、決して宗教を異様なものとして描くようなこともありません。さらに、作中には、県令・斎所厚という人物が登場してきますが、これは実在した税所篤(さいしょあつし)がモデルであることは間違いありませんし、ボストン美術館に仁徳天皇陵から出土したと伝わる宝物がある件も絡めたりと、さすが細部にまでこだわっているのが伝わってきます。
たまにややこしい単語は出てきますが、決して難しいものではありませんし、軽いSF小説として楽しめるような内容ですから、奈良好きな方は気軽に手にとってみて欲しいですね。私は、全3巻の「改訂新版」で、横書きで文字大きめのものでした。3巻とはいえスイスイと読み進められますので、お気軽にどうぞ!
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