沈黙する伝承―川上村における南朝皇胤追慕 (あをによし文庫)
資料を読み解き「後南朝」の人々がよりリアルに。読み応えのある良書です!
南朝の流れを丹念にひも解き、その歴史と、いまなお川上村で続けられる「朝拝式」などの様子を分かりやすく紹介している一冊です。
●第一章 後南朝前夜
●第二章 後南朝哀史・記録篇
明徳の和約(南北朝合一)・後亀山上皇吉野潜幸・嘉吉の乱と嘉吉の変・長禄の変など
●第三章 後南朝哀史・紀行篇
東川住吉神社・小倉宮實仁親王御墓・三之公八幡平行宮跡・神之谷河野行宮跡・北山宮御墓(瀧川寺)・南帝王の森(福源寺)・自天親王神社・河野宮御墓・大塔神社など
●第四章 今に継承される「御朝拝」と、これから
●第五章 第五六〇回「朝拝式」を拝する
●資料篇
鎌倉時代の末期から南北朝時代にかけて、登場人物が入り混じって敵対関係もくるくると変わり、混沌としています。その終盤、吉野などに立てこもって抵抗を続けた南朝となると、極端に資料が少なく、真の姿は見えづらいものです。
本書の前半では、まずは歴史の流れをおさらいし、全体を整理してくれるため、私のような歴史に疎い人間にも比較的理解しやすくなっています。数少ない資料に丹念にあたることで、単なる歴史の教科書や戦国絵巻ではない、よりリアルな後南朝の姿にも触れられます。人々の息遣いが感じられるようで、とてもいいですね。
第三章の紀行篇では、川上村に遺る後南朝ゆかりの土地を丹念に巡る様子がつづられ、これも読み応えがあります。
山深い広大な土地だけに、すでに廃村になっている場所などもありますが、意外なほど多くの痕跡が見られるようです。現代ですら人気のない寂しい土地ですが、今から500年も前、後南朝ゆかりの人々が潜伏していたころは、どれだけ厳しい環境だったのでしょうか。ひしひしと伝わってくるようでした。
第四章・第五章は、今も川上村で行われている「朝拝式」について、それに関わる人々の思いと、その式の様子のレポートです。
1457年、北朝方の赤松家一党によって最後を遂げた、南朝の流れを受け継ぐ自天王(尊秀王)。川上郷士たちは自天王の御首を取り返し、金剛寺に手厚く葬りました。1459年から毎年、遺品の兜(重文)などを拝する「朝拝式」が行われています。
村の人々は、他所の者を信頼し、その中に赤松家の者が忍び込んでいたがために自天王が討たれてしまったという悔恨の念を忘れず、閉鎖的な組織を作って現代までその思いを伝えてきました。自天王の首級を奪い返した家のものと、それ以外の家のものでランクに差がつけられたり、封建的な制度が続けられたりしました。単に長く続けられた儀式というだけではなく、村人たちの思いの強さ、それゆえの特異さが浮き彫りになっています。
全体的に理解しやすく書かれていますが、やはり内容自体はやや難解です。しかし、後南朝に興味がある方にとっては最適の一冊でしょう。いまも山深い川上村で、後南朝ゆかりの人々が暮らしていたという事実がありありと感じられました。ぜひ手にとってみてください!
■沈黙する伝承―川上村における南朝皇胤追慕
HP: 沈黙する伝承~川上村における南朝皇胤追慕~│京阪奈情報教育出版
価格: 1,400円(税抜)
サイズ: B6サイズ
ページ数: 272ページ
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