古墳空中探訪 奈良編
奈良の古墳の空撮写真集。時代ごとの環境の変化も見られ、空中散歩の妄想が広がります
1970年代から古墳の航空写真の撮影に取り組まれている、写真家・梅原章一さんの写真集です。奈良県内の約60の古墳が登場し、時代ごとの古墳の表情が見られます。
大阪・八尾飛行場から小型セスナ機で飛び立ち、奈良県内の古墳群を空から見るコースは私もぜひ体験してみたいと思っていますが、お値段もそこそこします(大阪航空株式会社さんでチャーターすると、1時間80,400円(3名まで)だとか)。なかなか実現は簡単ではありませんが、本書ではたっぷりとその気分を味あわせてくれます。
古墳の解説文は、元橿考研の今尾文昭さん。端的に特徴などが紹介されていて、飛行機の中で解説されているかのような気分になりますね。贅沢です(笑)
本書「奈良編」では、奈良の古墳の写真を収録した。四方を山に囲まれている奈良盆地の広さは、東西約15 キロ、南北約30 キロ。セスナ機で飛ぶと北から南まで約10分で通過する狭い範囲だ。この中に、纒向・柳本・大和(おおやまと)古墳群、佐紀古墳群、馬見古墳群、飛鳥の終末期古墳といった重要な古墳がたくさん造営された。
そしてそれらは、空から見ると、河川や道、集落遺跡などと密接な関係があることがわかる。そうした特徴を写しとるために、古墳のアップ写真ばかりでなく、地形・景観がわかるように俯瞰で撮影した写真を多く収録した。どうかみなさんも、飛行機の乗っているつもりで古墳空中探訪を楽しんでほしい。(著者)
「出版社からのコメント」より
本書は4章構成になっていて、「古墳時代の幕開けを飛ぶ(纒向遺跡など)」「佐紀古墳群ほかを飛ぶ」「馬見古墳群、葛城を飛ぶ」「飛鳥を飛ぶ」と、エリアごとに紹介されています。
「Google Map」の登場によって、以前よりも空撮画像は格段に身近になりました。奈良の古墳群を上空から見下ろすことも、今では簡単に疑似体験できます。しかし、本書のような、時代や季節を変えての臨場感あふれる画像とは比べるべくもありません。
各章の冒頭では、まず古墳群を遠望するカットが掲載されています。背後に迫る山並み、広々とした盆地など、どのような土地に築造されたものなのかがひと目で把握できるようになっています。さらに、それぞれの古墳がどの順番で築かれたのかの解説などもあり、イメージが膨らませやすいですね。
さらに圧巻なのは、同じ古墳の写真であっても、時代をずらしたものが何枚も掲載されていることです。たとえば、天理市・黒塚古墳の画像は、大量の銅鏡が発見される前のまだ目立たない小さな古墳だったころの様子と、次第に整備が進んだ様子などが比較できるように掲載されています。半世紀にわたって古墳を空撮している方だからこその見せ方ですね。
昔の古墳の写真では、周囲を完全に田んぼで囲まれた、今よりもさらにのどかな風景が見られたりします。不思議な懐かしさがあって、ちょっと感動的だったりしますね。地元民としては新しい道ができるのは便利ですが、失われたものが多かったことにも気付かされます。
ややこしいことを考えずとも、美しく雄大で、謎めいた造形の古墳の姿は、見ているだけで楽しいものです。興味のある方はぜひ!
全国の古墳を撮影した『古墳空中探訪 列島編』も同時発売されています。私の守備範囲外になりますが、こちらもぜひ拝見したいと思います!