
怖い絵2
画題・背景・作者の私生活など、西洋絵画の「怖さ」を読み解く良書です!
西洋絵画が描かれた「怖い」背景を読み解く人気シリーズの2作目。これまでに『怖い絵』『怖い絵3』と、やや順番を前後しながら読みましたが、2も面白かったです!
今回も、レンブラント、ピカソ、エッシャー、ルーベンス、ブレイク、ミレー、ブリューゲルなど、有名作家の作品が数多く登場し、その絵画が描かれた当時の世相や風習、作家の私生活など、怖い背景を興味深く読ませてくれます。西洋絵画に詳しくない私は、ハント「シャロットの乙女」、ベックリン「死の島」などは初めて見ましたが、面白いですね。後からもう少し調べてみたいと思いました。
エピソードとして面白かった、レンブラント「テュルプ博士の解剖学講義」(画像検索結果)を簡単にご紹介しておきます。
この絵は17世紀のオランダで描かれたもので、死体を解剖している場面を何名もの男たちが覗きこんでいるものです。
解剖しているのは、内科医のテュルプ博士。社会の上流階級と認められる職業です。それを覗き込んでいるのは、当時は理髪師と同種としか考えられておらず、社会的地位も低かった外科医たちです。医学界も文献主義が全盛だったため、肉体に直接触れる「手当て」を行う外科医の扱いは今とは比べ物にならないほどひどかったのだそうです。
この絵の直後くらいから、死体解剖はショーとして行われ、観客席を設けて行われることも多くなったのだとか。人々は解剖を観るたびに争うようにチケットを買い求め、終いには死体の数が足りなくなり、「フランケンシュタイン」に登場するような墓荒しが頻繁に行われるほどの大ブームになったのだそうです。さらには、ついに死体を製造する連続殺人鬼まで現れたほどだったというのですから、今からは考えられませんね。
画題といい、描かれている人間の表情といい、何とも不思議な印象が残りますが、これにも秘密があります。当時のオランダは海外貿易によって繁栄し、富裕な中流階級市民が生まれます。彼らは芸術に興味を持ち始め、小型肖像画のニーズが急増すると同時に、画料の高い有名画家にはギルドの数人で資金を出し合い、完成品を組合のホールに飾るため「記念集団肖像画」というジャンルが流行ったのだとか。だからこそ全員の表情が見えるよう、やや不自然な角度で描かれているのです。
…というような内容が、分かりやすく解説されていますので、今の日本人の感覚では誤解してしまいそうな絵の真意を理解できて面白いですね。シリーズ3作とも、何度でも読みたい良書だと思います!