もっと知りたい田中一村―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)
奄美大島を愛し「南の琳派」「日本のゴーギャン」と呼ばれた画家の作品を分かりやすく解説
奄美大島の南国の風景を描いた日本画家・田中一村(Wikipedia)の人生と作品を分かりやすく解説した一冊。
日本へ返還されて間もない奄美大島へ渡り、南国の植物などを美しく描いたため、「南の琳派」「日本のゴーギャン」などと呼ばれた方です。その作品は鮮烈で魅惑的。その生き方も鮮烈です。
幼いころから神童と呼ばれた一村は、東京美術学校に入学するも、病を得てすぐに退学。同期には東山魁夷らがいました。南画家として生計を立てますが、中央画壇では芳しい評価を得られず、日展や院展で何度も落選してしまいます。そして1958年、奄美大島へ移住し、大島紬の染色工をしながら絵を描き続けます。
当初の予定では、5年働いて3年描き、また2年働いて千葉で個展を開く費用とする予定でしたが、目論見通りにはいかなかったとか。結局、ほぼ無名のまま奄美大島で亡くなってしまいます。
しかし、没後に「日曜美術館」などに取り上げられるなどして注目を集め、2001年には奄美市に「田中一村記念美術館」(鹿児島県奄美パーク内)がオープンしています。
中期の写実的な作品もとても美しいのですが、やはり奄美時代の作品は素晴らしいですね。南国への根源的な憧れを刺激されるようで、心を強く揺さぶられます。南国らしいソテツやビロウヤシなどの植物を執拗なまでに丹念に描き、そこに好きな鳥や鮮やかな花を配するなど、うっとりとしてしまいますね。
個人的に、年をとるごとに南国趣味は薄れてきていますので、これまで奄美大島へ興味をもったことも無かったのですが、いつか「田中一村記念美術館」を観に行きたいと強く思いました。
ちなみに、2008年には明日香村・奈良県立万葉文化館で「生誕100年記念特別展 田中一村展―原初へのまなざし―」という企画展が開催されていたのだとか。その当時はこの方の存在などまったく知らなかったため、こうした好企画も完全にスルーしていました。奄美時代の作品はあまり出ていなかったようですが、ぜひ図録などで振り返っておきたいと思います。
とにかく、田中一村の世界の入門書としては最適な一冊だと思います。ぜひ手にとってみてください!