2015-05-03

もっと知りたい田中一村―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

奄美大島を愛し「南の琳派」「日本のゴーギャン」と呼ばれた画家の作品を分かりやすく解説

奄美大島の南国の風景を描いた日本画家・田中一村(Wikipedia)の人生と作品を分かりやすく解説した一冊。

日本へ返還されて間もない奄美大島へ渡り、南国の植物などを美しく描いたため、「南の琳派」「日本のゴーギャン」などと呼ばれた方です。その作品は鮮烈で魅惑的。その生き方も鮮烈です。

幼いころから神童と呼ばれた一村は、東京美術学校に入学するも、病を得てすぐに退学。同期には東山魁夷らがいました。南画家として生計を立てますが、中央画壇では芳しい評価を得られず、日展や院展で何度も落選してしまいます。そして1958年、奄美大島へ移住し、大島紬の染色工をしながら絵を描き続けます。

当初の予定では、5年働いて3年描き、また2年働いて千葉で個展を開く費用とする予定でしたが、目論見通りにはいかなかったとか。結局、ほぼ無名のまま奄美大島で亡くなってしまいます。

しかし、没後に「日曜美術館」などに取り上げられるなどして注目を集め、2001年には奄美市に「田中一村記念美術館」(鹿児島県奄美パーク内)がオープンしています。

中期の写実的な作品もとても美しいのですが、やはり奄美時代の作品は素晴らしいですね。南国への根源的な憧れを刺激されるようで、心を強く揺さぶられます。南国らしいソテツやビロウヤシなどの植物を執拗なまでに丹念に描き、そこに好きな鳥や鮮やかな花を配するなど、うっとりとしてしまいますね。

個人的に、年をとるごとに南国趣味は薄れてきていますので、これまで奄美大島へ興味をもったことも無かったのですが、いつか「田中一村記念美術館」を観に行きたいと強く思いました。

ちなみに、2008年には明日香村・奈良県立万葉文化館で「生誕100年記念特別展 田中一村展―原初へのまなざし―」という企画展が開催されていたのだとか。その当時はこの方の存在などまったく知らなかったため、こうした好企画も完全にスルーしていました。奄美時代の作品はあまり出ていなかったようですが、ぜひ図録などで振り返っておきたいと思います。

とにかく、田中一村の世界の入門書としては最適な一冊だと思います。ぜひ手にとってみてください!



【もっと知りたい田中一村―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)】の関連記事

  • 『イラストレーター 安西水丸』~急逝した安西水丸さんの作品集。独特のタッチ、とても好きです!~
  • 『「失われた名画」の展覧会』~失われてしまった西洋の名画たちを集めたユニークな美術本~
  • 『浮世絵に見る 江戸の食卓』~浮世絵に描かれた「食」の場面から見る江戸の暮らし。江戸が身近に感じられます~
  • 『かわいい絵巻』~絵巻物の「かわいい」を集めた一冊。真剣なのにゆるいものなど、日本人の伝統ですね!~
  • 『北斎娘・応為栄女集』~映画『百日紅』でも描かれた葛飾北斎の娘・お栄の作品集。夜の闇の描き方が見事です!~
  • 『分解してみました』~分解した機械部品を並べて、または落として撮影した不思議な写真集。機械部品って美しい!~
  • 『田中一村作品集[増補改訂版]』~奄美大島の風景を描き「日本のゴーギャン」と呼ばれた画家の大判画集。迫力あります!~
  • 『もっと知りたい田中一村―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)』~奄美大島を愛し「南の琳派」「日本のゴーギャン」と呼ばれた画家の作品を分かりやすく解説~
  • 『小林清親 東京名所図 (謎解き浮世絵叢書)』~「最後の浮世絵師」と呼ばれた小林清親の作品集。この時代独特の美しい風景が見事です!~
  • 『かわいい仏像 たのしい地獄絵』~快著「日本の素朴絵」の続編。不思議な仏像と素朴な地獄絵。愛らしいヘタウマの宝庫!~
  • 『百日紅 (上) (ちくま文庫) 』~葛飾北斎の娘・お栄を主人公に描く江戸風情。傑作!間もなく公開されるアニメ映画も期待!~
  • 『幻獣標本採集誌』~存在しない「幻獣」の標本をモチーフにしたアート作品集。手元に置きたくなる存在感!~


  • Twitterでフォローする
  • Facebookページを見る
  • Instagramを見る
  • ブログ記事の一覧を見る







メニューを表示
ページトップへ