怖い絵3
西洋絵画を読み解くシリーズ完結編。世界史や芸術が苦手な方こそぜひ!
西洋絵画が描かれた「怖い」背景を読み解き、その理解を助けてくれる人気シリーズの完結編。今回も最後まで飽きることなく一気読みできました。ちなみに、図書館で借りてきましたが、残念ながら『怖い絵2』が貸出中だったため、先に3を読むことになってしまいましたが、大きな問題はありませんでした。
作者も後書きに書いていますが、「絵は純粋に感性だけで見るべし」と考える向きもあるようですが、絵画はその作品が作られた時代背景を知っておくことで、より作者の意図が把握しやすくなります。特に西洋史の知識がない私のような人間にとっては、このような本の存在は最適な入門書になりますね。また、これまで知らなかった作者の作品にも目を向けらえるようになります。
見覚えがある程度も含めて個人的に好きな絵、ルーベンス「メドゥーサの首」、フュースリ「夢魔」などの背景も興味深いですね。またほぼ知らなかった作品たち、シーレ「死と乙女」、フーケ「ムーランの聖母子」、ベックリン「ケンタウロスの闘い」、ホガース「ジン横丁」、アンソール「仮面にかこまれた自画像」などなど、すごい絵はたくさんあるんですね。
それぞれ画像検索していただけると作品が見られるのですが、サイバーパンク的な聖母子「ムーランの聖母子」(Google画像検索)なんて衝撃的です。関連する作品を次々と調べたくなるほどです。
アミゴーニ「ファリネッリと友人たち」という絵画を例に、本書で紹介されている分かりやすいエピソードを一つ挙げておきます。主役は18世紀のイタリアで大成功を収めたオペラ歌手で、彼を中心にその仲間たちが優雅な姿で描かれています。隣には彼の恋人であり、紅一点の女性ソプラノ歌手がいますが、表情はやや憂いをおびています。
実は彼は、幼い頃に去勢手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」です。睾丸を除去しただけですから、子供ができないだけで生殖行為は行えるのですが、当時の教会から結婚は禁じられていました。少年の頃にその手術を受けることで永遠の美声を手に入れたのです。彼のような成功を納めれば、そこまでする価値もあるかもしれませんが、ちょっと声が美しい庶民の子供は同様の手術を受けさせられ(手術環境も劣悪でした)、結果的に歌手として生計を立てることもできず、一生生殖の不具合と高い声のまま過ごす者も多かったとか。
このカストラートという存在は、教会から非人道的だと糾弾されるどころか、賛美歌の歌い手として残り続け、20世紀初頭まで存在していたのだとか。
…というような歴史的背景を知ってから同じ絵を見ると、何とも言えない迫力がありますね。西洋の歴史や芸術に疎い、私のような人間ほど楽しめるシリーズですから、ぜひ手にとってみてください。