怖い絵
西洋絵画の背景などが怖い絵を解説。続編も出ている良書です
膨大な西洋絵画の中から、その背景などが怖いと感じられる絵を集めて解説した一冊。以前に話題になっていたのは知っていたのですが(好評なのか、第三弾まで登場しているらしいです)、西洋絵画にはあまり興味がなかったですし、オカルト系な絵を紹介する紹介する内容だと思っていたため敬遠していました。しかし、図書館の返却棚にあったのを偶然見つけて読んでみたら、これがかなり面白かったです!
西洋の中世の絵画を見る際には、どうしてもキリスト教の知識や、当時の歴史、貴族社会や庶民の生活ぶりなどがイメージできないと、絵の真意が汲み取れません。かといって、それを理解しようと思うと、どうしても堅苦しい話になってしまいがちです。さらには、技術的なことまで語られると、素直に芸術を楽しむどころではなくなってしまいます。しかし、本書ではその絵画にある「怖い背景」を分かりやすく読み解いてくれます。
その怖さの質はそれぞれですが、例として、冒頭に掲載されているドガの名画『エトワール、または舞台の踊り子』 http://goo.gl/QWdv1 について紹介してみます。
この絵は、バレエに関する作品を多く残したエドガー・ドガによって、1878年に描かれました。エトワールとは「スター」を意味するフランス語で、この絵ではプリマ・バレリーナのこと。彼女がスポットライトを浴びながらステージの中央に踊りでてくる華やかな絵ですが、その背後、舞台奥側には黒い夜会服を着た男が立っています。
バレエといえば、現在のようなヨーロッパの舞台芸術の中でも花形のような存在だと思いがちですが、女性の踊り子が登場したのは17世紀後半のこと。踊りやすいようにスカート丈がくるぶしまで上げられただけでスキャンダラスな話題となるほどで、19世紀初頭に全盛期を迎えます。しかし、後半には人気が凋落。バレリーナであれ、働く女性が軽蔑されていた時代でもあり、オペラ座は「娼館」と化していて、バレリーナは娼婦役でもあったというのです。
そう知ってからこの絵を観ると、下層階級の女性が、自分のパトロンの後押しを受けてスポットライトを浴びている、とても悲しい一場面となるのです。パッと見は華やかで美しい絵であっても、その背景を知ってしまうと、確かに「怖い絵」ですね。
こうした絵解きが、20作品分掲載されています。西洋の美術に詳しい方には不要だと思いますが、私のような初心者に興味を抱かせるにはいいアプローチですね。最後まで興味深く読めましたので、必ず続編も探してみたいと思います。