2013-11-04

古代道路の謎―-奈良時代の巨大国家プロジェクト(祥伝社新書316)

奈良時代の巨大直線道路「駅路」。その設立から廃絶まで分かりやすく解説した興味深い一冊

奈良時代、国家を挙げての壮大なプロジェクトとして造成された古代道路「駅路」について、奈良時代の交通制度・工法などもまじえて、とても分かりやすく記されています。

駅路の総延長は、東北~九州まで約6,300kmに及び、道幅は最小でも6m、最大で30m!しかも、何十kmも真っすぐ作られているというのです。ちなみに、江戸幕府が敷設した五街道は、道幅3.6m程度で湾曲した道ですから、にわかには信じがたいスケールです。謎が多い古代道路の歴史に迫った良書です。


説明文:「日本にもあった! 巨大な直線道路。藤原京などの都(みやこ)と地方を結ぶことを目的に、計画的に整備・造成された古代道路「駅路(えきろ)」。その道は、どこまでも直線で、巨大な幅を有していた。さらに、想定される総延長は六三〇〇キロメートルにもおよび、中世、近世、近代をしのぎ、現代の高速道路にも匹敵する。だが不思議なことに、この大事業がなされた理由が文献史料に見当たらない。古代道路はなぜ造られ、どのようなものだったのか? そして、なぜ急に廃絶したのか?本書では、古代史の流れとともにわかりやすく解説する。また、身近に存在する古代道路を、地図や写真などから見つける方法も披露、謎解きの世界へと誘う。」


こんな壮大な国家道路を何故作ったのか、その理由は定かではありません。律令国家の完成を目指す天武天皇の時代に作られていますが、白村江の戦いで敗れて国防に励む必要があったため、軍隊が移動しやすいように巨大な直線道路を張り巡らせたという説もあるそうです。しかし、筆者はそれは敵をも利することになるため、この意見には賛同していません。地方の整備や耕地整備と一体化した事業として計画されたもので、「駅路建設は天武天皇による列島改造であった」と表現しているそうです。

これだけ労力を費やして設置された駅路も、光仁天皇~桓武天皇が「小さな政府」を志向したこともあって、8世紀も後半くらいから、幅9m以上あった駅路が、ほぼ一斉に道幅を5~6mへ縮小させているそうです。さらに、11世紀頃の律令制の終焉とともにほぼ廃絶してしまいます。地方の者には不要であったり利便性に劣る道路も多かったのでしょう、中央の力が及ばなくなると維持管理できなくなっていったようです。不思議なものですね。

そんな古代道路ですが、本書の後半では「地図から読む古代道路」「古代道路の見つけ方」などという章が設けられており、その探索方法が記されているのも面白いですね。もちろん、地図や航空写真から探すのが一般的ですが、古い資料や現代の地名などからも探せたり、現代にもその痕跡をたどれる場所も少なくないのだとか。簡単に見つかるものでも無いでしょうが、面白いですね!

著者の近江俊秀先生は、これまで『道が語る日本古代史 (朝日選書)』『道路誕生―考古学からみた道づくり』など古代の道路についての著作があります。それらと比較しても、テーマを駅路に絞っている分だけ分かりやすく、とても興味深く読めました。普段は道路についてなど気にもとめないものですが、注目してみると意外な事実が見つかって面白いですね。古代史がお好きな方はぜひ手にとってみてください!


【古代道路の謎―-奈良時代の巨大国家プロジェクト(祥伝社新書316)】の関連記事

  • 『ヤマト王権誕生の礎となったムラ 唐古・鍵遺跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」135)』~唐古・鍵遺跡の発掘の歴史や特徴が解説されたドキュメンタリー的な一冊~
  • 『倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア (中公新書) 』~倭の五王(讃・珍・済・興・武)が使者を派遣した意図は?当時の国際情勢から読み解いた一冊~
  • 『悲劇の皇子(みこ)たち (日本書紀を歩く1)』~有間皇子・大友皇子など、非業の死を遂げた22人の皇子たちを淡々と紹介~
  • 『平城京のごみ図鑑 最新研究でみえてくる奈良時代の暮らし』~平城京の“ごみ”から見えるリアルな奈良時代。分かりやすくて面白い良書です!~
  • 『ときめく縄文図鑑 (ときめく図鑑+)』~土偶や土器、装飾品など、可愛くわかりやすく紹介。初心者さんにもお勧め!~
  • 『土偶のリアル――発見・発掘から蒐集・国宝誕生まで』~土偶を発見した人々などを描いた17の文章。愛情が伝わってきます!~
  • 『古墳時代 美術図鑑 (別冊太陽 日本のこころ)』~古墳時代の物たちを美術的に見つめ直した一冊。美しくて読み応えあり!~
  • 『日本人はどこから来たのか?』~日本人の祖先はどのルートで渡ってきたのか?興奮できる一冊です!~
  • 『古代天皇誌』~神武~桓武天皇まで、古代の天皇を解説。やや駆け足で消化不良感も~
  • 『「古代史」ミステリーツアー (だいわ文庫)』~古事記・邪馬台国・蘇我氏など、古代史を17のテーマで解説。分かりやすい内容です~
  • 『瓦と古代寺院 (臨川選書)』~古代寺院の姿を、発掘調査の結果と出土した瓦から読み解いた一冊。やや難解です~
  • 『古代天皇陵の謎を追う』~関東の大塚初重先生が、関西の古代の天皇陵について語った一冊。興味深い内容です~


  • Twitterでフォローする
  • Facebookページを見る
  • Instagramを見る
  • ブログ記事の一覧を見る







メニューを表示
ページトップへ