アイテムで読み解く西洋名画
葡萄はキリスト、うさぎは純潔など、西洋絵画のアイテムから世界観を読み解いた良書です!
宗教観や歴史が違いすぎるため、日本人には分かりづらいことの多い西洋絵画の世界。これを絵画に描かれた「アイテム」に注目することで、その理解を深める一冊です。私のような西洋美術の初心者には驚きの連続で、最後まで楽しく読めました。
同じ作者さんの著作『この絵、どこがすごいの?』(紹介文)も、とても分かりやすくて感心したものですが、本書では個々の作品ではなく、一般的な西洋絵画に共通するアイテムから辿っていきます。
説明文:「 薔薇は「汚れのなさ」、葡萄は「イエス・キリスト」、うさぎは「純潔」など、絵にわかりやすく描かれた「トレードマーク」「持ち物のルール」に注目し、その約束事を解説。きれい、すごい、だけじゃない名画のひみつ。西洋美術に欠かせない50のアイテム。」
「アイテムで読み解く」という方法論自体が現代の日本人には不思議な感じですが、宗教的、歴史的に“●●のアイテムを持っているのは▲▲(人名)”という、誰もが知っている決まり事があるものです。
ややおかしな例えかもしれませんが、仏像の持物を見て「薬壺を持っている=薬師如来さん」と判断したり、老人の脇に蓋を開けたままの箱が描いてあったら、それは玉手箱を開けてしまった浦島太郎だったりするものです。また、「菊の花=仏壇やお墓に供えられる花」として死のイメージを感じたりするのも同様かもしれません。
こういった決まりごとは西洋絵画にも多数存在しています。絵の隅っこにちょっとしたアイテムが書き込まれているというヒントだけで、誰が描かれているのかが分かったりするのですから、まるで判じ絵ですね(笑)。日本人のイメージとはかけ離れているものも多数ありますし、同じアイテムでも色んな意味を持たされることがあるのが面白いですね。
例えば、常緑樹の「糸杉(いとすぎ)」は、永遠の生のイメージであると同時に、切り倒されると二度と芽吹かないと信じられていたことから、死と関連付けられてもきました。私も好きなベックリンの「死の島」でも印象的に糸杉が描かれていますが、これは明らかに死のイメージでしょう。また、ゴッホも糸杉に魅せられた作家の一人で、有名な向日葵の連作が「生」を、その反対に糸杉の連作が「死」の意味を込めていたのでは…という説もあるそうです。
また、西洋絵画に「林檎」が描かれたら、それはまずはアダムとイブである可能性が高く、さらには3人の女神から選択を迫られる「パリスの審判」の黄金の林檎であったりもするのだとか。「竜」が描かれたら、それは異教徒の象徴であり、大天使ミカエルや聖ゲオルギウスが描かれることが多い。力や犠牲のイメージの「牛」が描かれたら、主役はイオ、エウロペ、モーセ、イエスの自己犠牲などのイメージと重ねられているなどなど。
ちょっとした知識があれば、さりげなく描かれたアイテムから、どのシーンがどんなニュアンスを込めて描かれているのかが分かるのですから面白いですね。
個人的には、この本を読んでから「聖書」と「神話」の知識の重要性を痛感しました。美術作品をフィーリングで楽しむのもいいですが、より深く理解するための知識を身につけて、よりディープに味わいたいですね。そんな入門書には最適な一冊です。興味のある方はぜひ手にとってみてください!