
ふるさとをつくる:アマチュア文化最前線
祭りや劇など、アマチュアの活動で地域を変えた事例を多数紹介。まさに継続は力なり!
日本全国で行われている、アマチュアによる文化活動を紹介した一冊。日本では、全国各地でアマチュアによる文化活動が盛んに行われ、その数は世界一ではないかと考えられています。賞の創設にもかかわられた梅棹忠夫先生は「一文の得にもならん阿呆らしいことを一生懸命やるのが、本当の文化だ。」とおっしゃっていたそうです。
筆者は、サントリー文化財団の職員として、1979年創設の「サントリー地域文化賞」の事務局に長年勤められている方。地域の文化活動を顕彰する目的で創設され、2013年現在で189件が受賞しているとか。
説明文:「地域を変えるのはカネよりも、アマチュア文化の力だ。伝統を活かしつつ、新たな文化を創造する人々の知恵と情熱を、サントリー地域文化賞に関わる著者が日本全国を訪ねて紹介する。」
こうした文化活動の大成功例として挙げられるのが、北海道札幌市の「YOSAKOIソーラン祭り」で、本書でも冒頭で紹介されています。1991年に高知のよさこい祭りを見た学生の一人が、北海道でもこんな祭りをやりたいと、地元へ帰って仲間と始めたのがきっかけです。いまやその観客は冬の雪まつりに迫るほどになり、全国各地によさこい祭が伝播していきました。
さらに本書では、同じ北海道の「江差追分会」「昭和新山国際雪合戦」など、地方から世界レベルのムーブメントを起こした活動や、長野県飯田市「いいだ人形劇フェスタ」、大阪府能勢町「能勢 浄瑠璃の里」、愛媛県内子町の街並み保存に奔走した岡田さんのお話、文化の力が復興の原動力となった福島県川俣町「コスキン・エン・ハポン」など、日本各地で行われている事例を、内部の事情なども交えながら詳しく紹介しています。
また、最後に紹介されている高知県仁淀川町「秋葉神社祭礼練り保存会」のお話は、地方消滅が叫ばれる今、とても参考なりました。高知市内から車で2時間もかかる山間の小さな集落(住民はわずか数人のみ)ですが、冬の3日間のお祭り期間に1万人を超える観光客が詰めかけるとか。
早い時期から近隣の小学校に参加を求め、その際に参加してくれた子たちが成長し、本人が手伝ったりそのお子さんがまた参加したりと、いい循環になっています。幼い頃から地域の活動に参加していると、地元への愛着も湧き、若い世代が定着することで活性化されていきます。集客数や経済効果だけでは測れない大きな効果となっているのです。
しかし、この集落にお住まいの方は高齢者ばかりで、いつの日か誰もいなくなってしまう可能性もあるのです。「この祭りがなかったら、この里はずっと前に、誰も住んでいないただの山の中になっていました」というセリフがありましたが、まさにその通りでしょう。
地方の人口減少が現実のものとなっている現在、盛んにUターン、Iターン者を増やす施策がとられています。しかし、結局は移り住んだ土地に馴染めず、もとの土地へと帰っていく方も少なくありません。調査によると、地域文化活動に参加している方は地元への愛着が高まる傾向にあり、こうした活動への参加を促すことも重要になことがわかっているそうです。
目先のお金にならない文化活動を続けていくのは大変です。補助金に頼りきった活動では、結局は長続きしません。いろいろと考えさせられる内容でした。