もっと知りたい長谷川等伯―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)
狩野派に対抗したベンチャー集団を率いた天才絵師。さすがどの画風も満遍なく上手!
安土桃山時代~江戸時代まで活躍した絵師・長谷川等伯(Wikipedia)。その作品と生涯を初心者にも分かりやすくまとめた「アート・ビギナーズ・コレクション」シリーズの一冊です。能登七尾生まれの絵仏師が、巨大な狩野派と並び立つほどまでに成長した過程もふくめ、とても興味深く拝見しました。
説明文:「安部龍太郎さんの小説「等伯」が直木賞をとってことで、長谷川等伯に注目が集まっています。画家の生涯を作品の紹介で追った本書は、波瀾万丈に生きた長谷川等伯を美術の視点から紹介したものです。」
狩野永徳を中心に、当時の武将や朝廷の仕事をほぼ独占してきた狩野派。ほぼ身一つで上洛した一介の絵仏師が、狩野派に強烈なライバル意識をむき出しにしながら、あらゆる手段を講じてのし上がっていく姿は、痛快でもあります。
大寺院に取り入ったり、崇拝していた画家・雪舟の名を借りて「雪舟五代」を名乗ったり、豊臣秀吉に取り立てられたり、狩野派に批判的だった千利休に接近したり。彼を主人公とした歴史小説が何作も書かれているのも当然でしょう。直木賞作品となった安部龍太郎さんの小説も読んでみたくなりますね。
画風も、その時のトレンドを取り入れながら次々と変わりますが、本書に紹介されるような代表作となると、どの作品を観ても満遍なく上手いです。
牧谿っぽい毛並みふんわりの猿を描いても上手いですし、「竹鶴図」「松林図」などの水墨画も、枯れたような味があってすごいですね。彩色画も「楓図」「波濤図」「四季柳図」「萩芒図」など、豪華絢爛になり過ぎない穏やかな色合いで、現代の日本人に好まれそうですね。
また、当時の京の町で流行していたという画題をとった「柳橋水車図」は、まるで蒔絵のようなデザインを、ほぼそのまま屏風に描いています。狩野派にはできないような身軽さで流行を取り入れる様は、本書では「ベンチャー企業」と評していますが、まさにその通りなんでしょう。
漫画「へうげもの」に登場する等伯は、どこか抜けていて印象的でしたが、あの姿とはまったく違った印象を受けました(笑)