2014-02-24

万葉集からみる「世界」 (新典社新書)

万葉文化館・井上さやかさんのご著書。マニアックな歌も親しみやすく解説してくれます

奈良県立万葉文化館の主任研究員・井上さやかさんのご著書です。第一部「万葉歌の愉しみ」は万葉文化館の館内誌『よろずは』への連載記事を、第二部「古代への憧憬」、第三部「現代を写す鏡」も、他の媒体へ発表済みの文章の再録です。しかし、決してまとまりのない印象はなく、読みやすい短文の連続でとても楽しめました。


説明文:「人々の恋愛観・天皇の日常・大都市の様相…など、万葉集には遠い時代のきらきらしい「世界」が詰まっている。歌一首一首を愉しみ、その文化に憧憬し、さらには現代を写す鏡のような事象を見いだしながら、万葉集から広がる多様な世界の切り口と垣間見の仕方をご案内。」


万葉集好きな方ばかりが読む媒体に発表した文章が下地になっていますから、取り上げる歌もかなり渋いものが揃っています。第一章の冒頭から「あらたまの 年の緒長(おなが)く かく恋ひば まことわが命 全(また)からめやも」(12巻-2891 作者未詳)という、誰が詠んだか知られていない恋の歌から始まります。見開き2ページでテンポ良く解説されていくので、とても読みやすいですね。

もちろん、柿本人麻呂や志貴皇子などの有名歌人の歌も取り上げられていますが、約4500首もある万葉歌の中でも、私などがあまり観たことがなかったものも多く紹介されているのが楽しいですね。


●「物皆(ものみな)は 新しき良し ただしくも 人は旧(ふ)りにし 宜しかるべし」(巻10-1885 作者未詳)

(大意:物はすべて新しいのがよい。ただしかし、人間だけは老人こそがよいにちがいない)

この歌などは、他の万葉の歌とは違い、やや教訓めいています。数から言えば恋の歌が圧倒的多数ですが、こんなタイプのものもあるのかとちょっと意外に思いました。


●「いざ子ども 早く日本(やまと)へ 大伴の 御津(みつ)の浜松 待ち恋ひぬらむ」(巻1-63 山上憶良)

貧窮問答歌で有名な山上憶良が、宴会の最中にみなに「早く日本へ帰ろう」と呼びかけた歌。つまり、遣唐使として唐に滞在中の作品で、万葉集の中で唯一海外で詠まれた歌なのだとか(※阿倍仲麻呂の有名な「天の原 振りさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」の歌は古今和歌集に収められたもの)。こんな色んな歌と出会えます。

また、文中で井上さんは、万葉の研究者としてこんな心構えを披露しているのも興味深かったです。

私自身も、現代人としての勝手な思い入れから古代を古き良き時代という幻想の中に捉えないように、また逆に進化論的な発想から古代人は単純素朴であるという先入観を持たないように、常に意識しながら読もうとしているつもりです。

126ページ「古代のコスモポリタン」より


さまざまな角度から万葉集の世界に深入りできる内容です。新書ですからそれほどページ数もありませんので、気軽に手にとってみてください!


【万葉集からみる「世界」 (新典社新書)】の関連記事

  • 『マンガで楽しむ古典 万葉集』~万葉集をわかりやすく解説。ボリュームたっぷりで読み応えあり!~
  • 『万葉集と日本人読み継がれる千二百年の歴史 (角川選書)』~万葉集が時代ごとにどう読まれ、写され、解釈されてきたかを掘り下げた一冊。良書です!~
  • 『万葉秀歌探訪 (NHKライブラリー)』~万葉集の秀歌を、巻ごとに分かりやすく解説。古い本ですが古びていません~
  • 『日本全国 万葉の旅 「大和編」』~大判で美しい写真と的確な解説。奈良のエリアごとに紹介されていて便利です!~
  • 『犬養孝と万葉を歩く (別冊太陽―日本のこころ)』~全国の「万葉故地」を歩いた犬養孝さんの取材ノートをもとに万葉歌の魅力を紹介した一冊~
  • 『小さな恋の万葉集』~万葉学者・上野誠さんが万葉歌を「おしゃべり語」に超訳した意欲作!親しみやすさは○~
  • 『万葉集からみる「世界」 (新典社新書)』~万葉文化館・井上さやかさんのご著書。マニアックな歌も親しみやすく解説してくれます~
  • 『古代史で楽しむ万葉集 (角川ソフィア文庫)』~古歌の時代背景や人物像を歴史的な観点から観ていく一冊。古代史好きな方にお勧めです!~
  • 『越中万葉をたどる 60首で知る大伴家持がみた、越の国。 (高岡市万葉歴史館論集 別冊1)』~赴任した大伴家持ら、越中で詠まれた万葉歌60首を分かりやすく。平城の都とは違った趣です~
  • 『万葉集と古代史 (歴史文化ライブラリー) 』~「あをによし」など、有名な万葉歌を歴史の中で読み直すと?眼からうろこの良書です!~
  • 『はじめて楽しむ万葉集 (角川ソフィア文庫)』~定番からマイナーまで。共感できる万葉歌87首を分かりやすく解説。ビギナーにお勧め!~
  • 『よみがえる万葉人 (文春文庫)』~長屋王・元明天皇・橘諸兄など、歴史上の人物ごとに万葉歌を見ていく面白い一冊です~






  • Twitterでフォローする
  • Facebookページを見る
  • Instagramを見る
  • ブログ記事の一覧を見る







メニューを表示
ページトップへ