
古代史で楽しむ万葉集 (角川ソフィア文庫)
古歌の時代背景や人物像を歴史的な観点から観ていく一冊。古代史好きな方にお勧めです!
万葉集を始めとする古代の歌を、古代史の中に当てはめて時代背景や人物像を観ていく一冊。明日香村の万葉文化館館長でもある中西進先生のご著書で、昭和56年に『万葉集入門 その歴史と文学』として発売された内容に加筆・修正したものです。
説明文:「聖徳太子、額田王、天武天皇、柿本人麻呂をはじめ、古代史に名をとどめる人びとは、その喜怒哀楽の情感を万葉集に遣した。―つぎつぎに起こる天皇や貴族を取り巻く政治的な事件を追い、渦中に生きた人びとの姿を歌集の中に見いだし歌を味わう。いっぽうで防人の歌、東歌といった万葉集の特徴ともいえる庶民の歌に深く心を寄せていく。歌集を読むだけではわからない万葉の世界がひらける入門書。 」
万葉集の読み方にはいろいろありますが、歌をそのまま味わうだけではなく、時代的な背景を鑑みながら読むと、より理解が深まります。大きな政争に巻き込まれながらも、とても情熱的な愛の歌を詠んでいたりと、より血が通ったものとして感じられるようになります。本書はそんな万葉の歌い手たちの人物理解の大きな手助けになってくれる良書ですね。
古代史や万葉集の完全な初心者の方にはさすがに難解だと思いますが、その両方に興味がある私のような人間にとっては、素晴らしい橋渡しになってくれました。
本書では、万葉集や古典の歌を時代別に紹介しています。
●古代の歌うた(聖徳太子や磐之媛など) ●大化の改新(蘇我氏・中大兄皇子・有間皇子など) ●近江文化(白村江の敗戦・額田王など) ●壬申の乱(天智の死・大津皇子など) ●藤原の新都(持統即位・藤原朝の皇子たち) ●人麻呂の哀歌 ●平城の栄華(女帝と新都・聖武の即位) ●百花繚乱(山部赤人・大伴旅人・山上憶良など) ●天平の陰翳(藤氏四子・聖武の死・奈良麻呂の乱) ●みやびの抒情(平城京の日々・坂上郎女・大伴家持など) ●無名歌の世界(東歌・防人の歌など)。
有名な歌や歌人が、どのような時代に、どのような環境で歌を詠んでいたのかが理解できます。万葉の時代の貴族たちは、激しい政争に明け暮れていました。個人的には、台頭する藤原氏に押されて衰退しつつあった、古代の有力豪族・大伴氏の大伴旅人・家持親子の贔屓なので、そんな栄枯盛衰までも連想できるきっかけになって欲しいと思います。
歌の紹介というよりは、歴史的な背景の解説がメインですから、一般的な万葉集本ではありませんが、よく整理されて理解しやすい内容でしたので、古代史好きな方はぜひ手にとってみてください!