
はじめて楽しむ万葉集 (角川ソフィア文庫)
定番からマイナーまで。共感できる万葉歌87首を分かりやすく解説。ビギナーにお勧め!
万葉学者・上野誠先生による、万葉集の入門書。2002年にPHP研究所から出版された『みんなの万葉集』を文庫化したものです。84首の万葉歌が分かりやすい解説文とともに収録されていて、気軽に読みやすい内容です。万葉集ビギナーにお勧めですね。
説明文:「万葉集は楽しんで読むのが一番! 定番歌からあまり知られていない歌まで、84首をわかりやすく解説。万葉びとの恋心や親子の情愛など、瑞々しい情感を湛えた和歌の世界を旅し、万葉集の新しい魅力に触れる。
遙かなる万葉の言葉の時空に遊び、恋に身を焦がした人びとに想いを馳せる―。山上憶良、額田王、大伴家持などの数々の定番歌をはじめ、これまではあまり知られていなかった歌まで、珠玉の恋歌・望郷歌・四季折々の歌を多数紹介。わかりやすい解説とともに、瑞々しい情感を湛えた和歌の世界の豊かさ、美しさ、楽しさを味わう。思わず声に出して読み、暗誦したくなる歌に必ず出会える。身近で面白い「みんなの万葉集」宣言。」
この本の特徴は、作者未詳のためやや知名度の劣る秀歌も数多く取り上げている点でしょう。どうしても歌人の身元が判明していれば、その分だけ歌の背景は想像しやすいですし、高貴な方たちの歌からは当時の歴史も読み解けるため、そういった歌に注目しがちです。本書で初めて目にするような歌も多く、そういった面でも楽しかったですね。
気になった歌を何首か挙げておきます(訳は本書からそのまま)。
●天(あめ)の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ (作者未詳 巻7-1068)
訳:天の海に、雲の波が立つ……。月の舟は、星の林に……、漕ぎ隠れてゆくのが見える……。
「万葉集でロマンチックな歌を一つあげなさいと言われたら、わたしはこの歌をあげる」という一首。万葉集には珍しくメルヘンチックで壮大な歌ですね!
●生ける者(ひと) 遂にも死ねる ものにあれば この世にある間(ま)は 楽しくをあらな(大伴旅人 巻3-349)
訳:生きとし生けるものは、いずれは死ぬという運命にある──。だから、この世にある間は……、楽しく生きていたいものだ。
お酒を愛した旅人卿の連作「酒を讃(ほ)むる歌十三首」の一つ。吉田兼好の『徒然草』の中の「人皆生を楽しまざるは、死を恐れざる故なり」(生きていることを楽しまないヤツは、死の本当の意味を分かっていない大馬鹿者だ)という一節を思い出させるとか。
●物思ふと 隠(こも)らひ居(を)りて 今日(けふ)見れば 春日の山は 色付きにけり (作者未詳 巻10-2199)
訳:もの思いをして引きこもっていて、今日、ふっと外に出てみると……、春日の山は色付いていた──。
物思いとは、ひょっとしたら恋愛のことかもしれませんが、自営業者の私には何かに集中して家に閉じこもっている光景と考えると共感できます。忙しいとは心を亡くすこと、などと言いますが、季節の変化に気づけなくなったら黄色信号ですよね。
などなど、ちょっと心にしみる歌がずらりと紹介されています。歌を追っているうちに、当時の人々の風習とか考え方などが自然と理解できますので、堅苦しい解説本よりも、まずはこの本から手にとってみるといいかもしれません。