もっと知りたいミュシャ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)
美しいポスター作品でアールヌーヴォーを牽引した画家の作品を解説。まったく古びてません
19世紀末のアール・ヌーヴォー全盛期のパリで、日本の浮世絵の影響を受けながら、独特のポスター作品を遺したチェコ人画家・ミュシャ。スラブ系のルーツを色濃く感じさせるオリエンタルな女性、美しい曲線を用いた花など、一時は「ミュシャ様式」と呼ばれるほどの一時代を築いた方です。
2013年から大きな2つの展覧会が国内を巡回しており、美術番組などでの露出も増えています。改めてこの本で作品のおさらいをしてみましたが、やはり素晴らしいですね。現代のイラスト作品にも通ずるデザイン性、他の誰もが真似できないオリジナリティーは、今なおまったく損なわれていません。
説明文:「女優サラ・ベルナールとの衝撃的な出会い、友人ゴーギャンとの関係、ベル・エポック、アール・ヌーヴォー、そして…。祖国とすべてのスラヴ民族の喜びと悲しみに思いをこめて後半生のすべてをかけて描いた大作『スラヴ叙事詩』全20点を紹介。150点以上のカラー図版で、画家の生涯をたどる。」
チェコの片田舎からパリに出てきた画家志望の青年ミュシャ。印刷会社に伝説の女優サラ・ベルナールの舞台ポスターの制作依頼が来た際には、クリスマスだったため他のデザインナーが捕まらず、偶然ミュシャへ大役が任されました。1895年、彼の作品「ジスモンダ」はパリ中に貼りだされ、各方面から絶賛され、一気にアート界のスターにのし上がったのです。
その作品はリトグラフで、浮世絵の影響を感じさせるようなはっきりとした輪郭線、そしてアール・ヌーヴォーを先取りしたような曲線の草木文様、表情や細部からも感じられるオリエンタルな雰囲気など、当時としても画期的な作品だったことは十分に想像できます。
34歳で人気アーテイィストになったミュシャは、その後、椿姫・ハムレットなどの舞台ポスター、四季・黄道十二宮・花四部作などの販売作品、自転車やココアなどのコマーシャルポスターなどを手がけていきます。本書では主だった150点もの作品が時代別に掲載されており、とても分かりやすいですね。深く考えずともその魅力が理解できるという、優れたポスターの要素がしっかりと感じられます。
パリで大成功を収めていたミュシャは、50歳にして故郷チェコへ帰国します。アール・ヌーヴォーの衰退期でもあり、ナチスドイツに拘束・尋問された後に、79歳で亡くなってしまうのですが、ずっと4m×5mクラスの20枚組の油絵の連作「スラブ叙事詩」の制作に没頭していました。本書にはその20枚の作品がすべて掲載されているのもいいですね。正直なところ、歴史的な背景に疎い私のような人間から見ると、ポスター作品よりも心惹かれない感はありますが、画家の狂気に近いような熱意を感じます。
ミュシャの前期の作品は、今見てもまったく古びていませんし、とても理解しやすい魅力があります。アート鑑賞の初心者の方にも入りやすいと思いますので、ぜひじっくり鑑賞してみてください!