岡倉天心: 近代美術の師 (別冊太陽 日本のこころ 209)
日本の近代美術の礎を築いた偉人の事績をまとめた一冊。日本美術好きとしてはただただ感謝!
日本美術を再発見し、近代美術の礎を築いた「岡倉天心」の事績をまとめた一冊。生誕150年・没後100年を記念して特別展なども行われている最中ですが、書などを嗜んだようですが、本人はアーティストではなく、いわゆるプロデューサーのようなスタンスの方ですから、何をやったどんな人なのかが今ひとつ把握しづらいのですが、別冊太陽らしく充実した内容で、その偉大さが存分に伝わってきました。
説明文:「明治初期、西欧文化の侵食が進む中、日本美術・文化を世界に発信した岡倉天心。写真や作品などを通じ、天心を多角的に捉えた一冊。天心生誕150周年、没後100周年記念。」
岡倉天心の主だった業績を挙げてみますが、実に多彩です。
・ボストン美術館の職員として、日本や中国の美術品を収集
・『東洋の理想』『日本の覚醒』『茶の心』などの英文著作
・東京美術学校の創設(後に失脚)
・日本美術院を創設。後に五浦へ移転
彼の理論の強い影響を受けて制作に励んだ、横山大観・菱田春草・下村観山らを筆頭に、狩野芳崖・橋本雅邦・小林古径・高村光雲など、そうそうたるメンバーが並びます。当時の画壇に受け入れられず貧困を極め、「朦朧体」と揶揄されながら次第に認められていったエピソードなどは、ドラマチックでもあります。
また、彼のエピソードで最も有名なのが、美術収集家アーネスト・フェノロサと一緒に、法隆寺・夢殿の絶対秘仏・救世観音像を開扉させたことかもしれません。災が降りかかると抵抗する僧侶たちを説き伏せ、全身をおおう布を除きその姿を人の目に触れられるようにしたのです。完全に賛同できる行為ではありませんが、これが明治維新直後の廃仏毀釈の嵐の時代だったことを考えれば、大事な仏像を護ったことになるともいえますから、恩人でもあるでしょう。
今となっては、岡倉天心の遺したものは直接は見えませんが、あらゆる面で後世へ素晴らしい物を伝えてくれた方です。本書では彼の事績や生い立ちなどが細かく理解できますので、興味のある方はぜひ!