神社の本殿: 建築にみる神の空間 (歴史文化ライブラリー)
神社の本殿を建築的な観点から分類・解説した一冊。やや専門的ですが充実した良書です!
神社の「本殿」について、建築的な観点から分類・解説した一冊。色んなタイプが混在していて、神社建築はとても分類が難しいものですが、本書では一間社・三間社などの柱間の違い、平入と妻入の違い、庇の違いなどの基本的なことから、流造・神明造・大社造・春日造など、基本的な構造の違いなども詳しく解説されています。
かなり専門的な内容ですので、和建築ウォッチャーの初心者さんには難しすぎるかもしれませんが、このレベルの内容を、図や写真も交えてここまで平易に解説してくれた本は少ないと思いますので、とても興味深く読めました。
説明文:「神社本殿の内部はどうなっているのか、寺院本堂とはどう違うのか。知られざる神社建築の実態を、豊富な意匠の事例から、見取り図を駆使して読み解く。時代による変遷を辿りつつ、神社の見方がくまなく分かる、初めての書。」
神社の本殿には、ひと目でそれと分かるような特徴があります。例外は多数ありますが、床は高床式、壁は主に横板壁を使用して、屋根の材は檜皮葺、その上には千木・鰹木が乗っている。こんなイメージがありますが、高床式と土間式、掘立てと礎石立て、外開きと内開き、切妻造と寄棟造、檜皮葺と瓦葺、白木造と彩色など、仏教建築の影響を受けながら時代ごとに変化していったそうです。
そうしていくうちに、三間社をいくつか連結して横長の本殿にしたり、前後の二棟を連結して巨大にしてみたり、分かりやすいように千鳥破風をつけてみたりと、神様に失礼がない程度のアレンジが加わって、色んな形式が派生していくのが面白いところですね。
ちなみに、私は何となく「建築の見えないところまで手を抜かないのが日本人」と思っていましたが、実際にはその逆なのだとか。神様がおわす本殿内陣は丸く削った円柱を使用するのが正式で、人間が触れる外陣は四角いままの角柱を使用するのが正式なのだそうです。しかし、次第に見えないところで手を抜き始めて、円柱の床下を角のままにしたり、見えない部分の手を抜いて、その分だけ見えるところで頑張るという傾向なのだそうです。それと同様に、人が入らない本来の形の内陣ではほぼ一切の装飾は省き、素っ気ないほどのシンプルさなのだとか。
なお、本書では神社の本殿の建築様式を分類するだけではなく、その起源についても言及しています。仏教伝来前は、聖なる土地をしめ縄を張って禁足地にしていた程度だったものが、最初は小さな、次第に大きな本殿を持つように変化していきました。
一般的には、稲穂を収めた「穂倉(ほくら)」が発展したものが神社本殿になったと解説されていることが多いように思いますが、本書ではその説は明確に否定されています。建築形式から、参入式・非参入式(人が本殿に入るかどうか)に始まり、庇が伸びたり大型化したりと発展していく様子が解説されています。
また、江戸時代中期(明治ではなく)から、神仏分離を伴う復古の動きが広まり、出雲大社や吉備津神社、厳島神社の本殿などで、彩色を剥がして白木に戻したり、組物を排除したり、屋根に千木と鰹木を乗せたりといった動きもあったそうです。この動きをまったく知らなかったので、とても興味深く読みました。
どなたにでもオススメできるような内容ではありませんが、和建築が好きな方であればかなり面白い内容でしょう。あまり詳しくない方は、まずは『神社建築 (文化財探訪クラブ)』という本から読み始めるといいかもしれません。機会があったら読みなおしてみたいと思います!