もっと知りたい菱田春草―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)
朦朧体を完成させて夭折した天才画家の作品たち。「落葉」「雀に鴉」「黒き猫」など感動的!
明治時代の天才画家・菱田春草の生い立ちと作品を分かりやすく紹介していく、「アート・ビギナーズ・コレクション」シリーズの一冊。岡倉天心の指導のもと、横山大観らとともに、明確な輪郭線を描かない新しい日本画の技術「朦朧体(もうろうたい)」を確立しながらも理解されず、36歳の若さで夭折した方です。
説明文:「■明治時代、日本画の革新をめざし岡倉天心のもと、横山大観・下村観山とともに斬新な技法を駆使し取り組むが、36歳で死去。■天性の色彩感覚・新しい表現法・精神性溢れる表現は同時代の画家の中で突出していた。平山郁夫は「天心のこころを絵で具現化した天才」と言い、大観は晩年、大家とほめられると「春草のほうが、ずっと上手い」と言ったという。画家が認める春草の、生彩豊かな、洋画・日本画の枠を超えた魅力を解明。」
本書では、おいたち・画壇デビュー・日本美術院時代・外遊と五浦時代・代々木時代と、時代ごとに作品を紹介しているため、技術的な移り変わりが把握できて面白いですね。若い頃から技術的に素晴らしいものを持っていたのだと思いますが、そこから少しずつ技術を吸収し、実験的なことにも挑戦しながら変化を続けていきます。
菱田春草というと、岡倉天心のもとで朦朧体を実践したために当時の画壇から酷評され、横山大観らとともに千葉県の五浦へ移り、そこで黙々と制作に没頭したことで知られています。現代になって彼らの評価は不動のものとなりましたから、当時の評論家や画壇に見る目がなかったのですから、善悪がはっきりとした分かりやすいエピソードですね。
私もそんなイメージしかありませんでしたが、その五浦時代の後に発表した作品の方が、圧倒的に優れていることを知りました。目の病に苦しめられていた菱田春草は、新しい日本画ともいえる連作「落葉」や、明治天皇が遺愛した「雀に鴉」、わずか数日で描き上げられたという「黒き猫」など、素晴らしい作品を連続して発表していきます。私のような素人が観ても、時代に先んじていたことが理解できるような素晴らしさです。
このシリーズは、美術の初心者さんにもとても分かりやすいですし、入門編には最適ですから、ぜひ手にとってみてください。