神の島 沖ノ島
玄界灘に浮かぶ神の島「沖ノ島」。ゴツゴツした写真と文章で神域の空気が感じられます
玄界灘に浮かぶ、島全体が神域で、現在も女人禁制を守り続ける「沖ノ島」。古代から奉納されてきた御神宝が近代までそのまま遺され、「海の正倉院」と呼ばれるほど、貴重な宝物が眠っていた島です。現在でも入島できる者は限られています。
そんな神の島に、どちらも福岡県出身である、写真家・藤原新也さん(作家でもあり『印度放浪』が有名)と、作家・安部龍太郎さん(『等伯』で直木賞を受賞なさった方)が渡り、貴重な記録を遺したのが本書です。
説明文:「八万点の国宝を伝える最後の秘境。玄界灘を航行する船は激しく揺れている。ふつうの人なら立って歩くことすら困難な状況の中、船の舳に立つ藤原新也は、足元を支えながら前方に見えてきた島影に挑んだ--。玄界灘の荒海に浮かぶ沖ノ島。島全体が御神体であり、女人禁制。一般の人の入島は厳しく制限され、一木一草一石たりとも持ち出してはいけないという掟を今なお守り続けている。入島の際には一糸まとわぬ姿となって海水で禊をしなければならないこの島は、四世紀から九世紀にかけて国家による祭祀が連綿と続けられてきた。古代人は島内に点在する巨岩巨石を磐座とし、日々祈りを捧げ続けてきた。奉納された御神宝は十数万。昭和になって初めてその全貌を現わした品々は八万点が国宝に指定され、今も多くの御神宝が島に眠っている。自然に対する“祈り”と“敬い”の並々ならぬ強度を目の当たりにした藤原新也(写真家)が幻想的な島内を撮影。直木賞受賞の作家安部龍太郎がこの地を支配した古代宗像一族の謎に迫る。」
世界遺産に登録された「屋久島」
島まるごと近代化遺産の「軍艦島」
野生のうさぎが繁殖している「大久野島(うさぎ島)」
近代アートの聖地となった「直島」
綿津見神社の総本宮がある金印が発見された「志賀島」
琵琶湖に浮かぶ聖なる島「竹生島」
など、全国的に行ってみたいと思っている島はいくつもありますが、その中でももっとも神秘的で、私が心惹かれるのがこの沖ノ島です。本書は素晴らしい記録になっていました、
冒頭には、藤原さんの思い出話と島へ渡る難しさを記した「沖ノ島航海録」という文章があり、これがリアルで面白いんですね。そして、島の様子を撮影した写真が続き、後半は安倍さんのよるエッセイ的な文章と、沖ノ島を舞台にした短編小説(三韓征伐、磐井の反乱、白村江の戦い、壬申の乱)が収められています。
沖ノ島は、宗像大社の神領です。宗像大社は、アマテラスとスサノオの対決「誓約(うけい)」で生まれた宗像三女神を祀っており、沖ノ島の沖津宮では田心姫神(たごりひめがみ)がおわします。島には宗像大社沖津宮のお社があり、現在は交代で神官が駐在していますが、ほぼ上陸が許されていないため(毎年5月27日のみ、200人程度)、島内は簡素な参道と祭祀の痕跡が残るだけです。波が荒れやすい海域にあるため、古くから神域とされ、航海の安全を祈願してきたのでしょうね。こんなエリアは、もう日本にはほぼ遺されていないでしょう。
そんな島の様子を、藤原さんのザラッとした印象の写真で切り取ると、とてつもない神性を感じます。現地で実際に見るよりも神々しさが増しているのか、それとも抑えられているのかは分かりませんが、ものすごい強さですね。遠くに沖ノ島の影が見えてきただけで、漁に出た男たちは手を合わせて祈りを捧げていたと思いますが、そんな光景まで目に浮かぶようです。
余談ですが、古代にこの一帯を支配した宗像氏は、天平時代ごろには隠然たる力を持っていました。一族の尼子姫は天武天皇に嫁ぎ、壬申の乱で活躍し、後に太政大臣へと登りつめる高市皇子(長屋王の父)を産みます。母が皇室出身ではなかったため天皇の位へはつけませんでしたが、地方豪族としては最高の栄達だったに違いありません。大陸との貿易の窓口となっていたため財力もあり、だからこそ沖ノ島への奉納品は豪華だったのでしょう。沖ノ島へ上陸するのはなかなか難しそうですが、せめてここで見つかった御神宝たちを実際に観てみたいですね。
そんな色んなイマジネーションが湧いてくる一冊です。大判の豪華本ですから、お値段もそれなりにしますが(2,940円)、興味のある方はぜひ!