「豊かな地域」はどこがちがうのか 地域間競争の時代 (ちくま新書)
人口増減を見る「コーホート図」から読み解く「豊かな地域」。残念ながら企画倒れとしか
人口の増減を見る「コーホート図」を使って、豊かな地域とそうでない地域の何が違うのかを読み取ろうとしたもの。とある紹介記事を読んで、面白そうだと手にとってみたのですが、まったく中途半端。お世辞にも読んで良かったとは言えません。
説明文:「人口減少と経済衰退がすすむ今、減り続ける「パイの奪いあい」が大きな問題になっている。駅前や商店街に人が来ない地域、若者がいなくなり限界集落と化した地域、市町村合併で弱まる地域―。しかし、その一方で確実に成長しつづける地域もある。そうした「豊かな地域」は、いったい何がちがうのか?そこではどういうことが実践されているのか?本書は人口分析の手法から、北海道から沖縄県まで11の地域を検証し、シティ・マネジメントのあるべき姿を提唱する。日本全国の地域に、生きるための術を伝える一冊。」
コーホート図とは、あるエリアの人口増減を5年ずらして重ねあわせたもの。例えば、2005年に20歳だった人たちが、その5年後の2005年に増えているか減っているかで、その土地の活力的なものを見ようという試みです。その考え方と使い方が紹介され、ここに長期人口推移などを加味して11の地域を分析していますが、とてもこのデータが上手く活用されているとは思えないレベルです。
地方都市の分析では、エリア外の大学へ就学するため人口は減りますし、40代以降もほぼ自然減します。違いが出るのは、30~40代の「子育て世代」だけ。その理由は「新しい道路ができて通勤が便利になった」などの外的要因ですから、このデータを持ち出さずとも分かるレベルです。もちろん、学術書ではありませんから、あまり詳細な手法は紹介されていないため消化不良になっているのだとは思いますが、何とも中途半端ですね。
ここから分かることは、「子育て世代の流入」=「(税収が増える)豊かな地域」という短絡的な結論だけでしょう。
筆者さんは、老朽化した公共建築物などもご専門のようです。日本全国でこれから建て替えが必要な公共の施設が大量に出てきますから、そういったものが少ないのも「豊かな地域」の一つの判断材料となさっているようです。別にそれに反対するつもりもありませんが、豊かさの定義が曖昧すぎて、タイトルに偽りがあるとしか思えないですね。
豊後高田市の寂れていた商店街を活気づけた「昭和の町」の紹介や、独自のお金のかからないインフラ整備に挑んでいる長野県下條村の例など、興味深い部分も少しはありましたが、その程度です。残念ながら、私が読みたかった内容とはかけ離れていました。