〈遊ぶ〉シュルレアリスム (コロナ・ブックス)
シュルレアリスム美術が分かる一冊。ダリの絵画だけじゃない、幅広い芸術運動でした
シュルレアリスムの研究者である巖谷國士さんが、「遊び」という観点からムーブメントを解説した一冊です。私などは、シュルレアリスムと聞くと、まずは「サルバドール・ダリ」が、そして同じくらい好きな「ジョルジュ・デ・キリコ」の名前は思い浮かび、超現実的な絵を描く人たちといったイメージでしたが、もっと幅広い芸術運動だったんですね。その流れがとても分かりやすくまとめられていて、興味深かったです。
説明文:「集団ゲーム、オブジェ、コラージュ、写真、人体、風景、驚異、コレクション…。デュシャン、マン・レイ、エルンスト、マグリット、ダリからコーネル、瀧口修造、シュヴァンクマイエルまで、20世紀最大の芸術運動を、「遊び」の視点からとらえなおす画期的な本。登場作家47人、作品図版250点、人名解説・索引つき。この1冊でシュルレアリスム美術がわかる! 」
シュルレアリスムというと、日本では「超現実」と訳されることが多いのですが、著者によると、「目前の現実と生活に立ち向かい、その中で『真の現実(あるいは超現実)』や『真の人生』に出会おうとする物の見方、生き方」のことなのだとか。20世紀初頭、戦争の影が忍び寄っていたパリを中心に発生した、ちょっとシュールな活動です(※この「シュール」という言葉は日本にしかないのだとか!)。
初期の代表的なものは、内容を考えず高速で記述する「オートマティスム」や、写真などを貼り合わせて別の作品を完成させる「コラージュ」などが挙げられるそうです。いずれも無意識にやったことから芸術作品が生まれることを楽しむイメージですね。
そんな活動から派生していますから、その作品を見ても、すぐには意味が分からないものも少なくありません。しかし、どこか悪夢のような絵画作品などは観ていて面白いですし、ずっと心に残ります。ルネ・マグリットやイヴ・タンギーなどの作品も紹介されていますが、とてもいいですね。
また、本書では、日本でシュルレアリスム運動を展開した瀧口修造さんの作品たちや、一時期だけ活動し、多くの魅力的なコラージュ作品を発表した岡上淑子さんの作品なども紹介されています。日本のアーティストさんのことは意識したことがありませんでしたので、私にとってはちょっとした発見になりました。
なお、本書の内容と連動して、企画展「〈遊ぶ〉シュルレアリスム」が徳島県立近代美術館(2013年6月30日まで)で開催され、その後は東京「損保ジャパン東郷青児美術館」へ巡回するそうです(2013年7月9日~8月25日まで)。その展覧会図録となっているそうですから、観に行く前後にこの本を見ておくのもいいかもしれませんね。
巖谷さんのご著書には、『シュルレアリスムとは何か (ちくま学芸文庫)』という、本書と対をなすようなものもあるそうですから、こちらも探して読んでおきたいと思います。