速水御舟―日本画を「破壊」する (別冊太陽 日本のこころ 161)
超細密描写な悪写実から、幻想・古典まで。多彩な日本画家の仕事ぶりが分かる作品集
大正時代~昭和初期に活躍した日本画家「速水御舟(はやみぎょしゅう)」(Wikipedia・画像検索)の作品をまとめた一冊。別冊太陽らしい豪華さで、代表作から小品まで大量に収録。作品の特徴と御舟の人となりを丁寧に解説しています。
「細密描写の限界に挑んだ『京の舞妓』、琳派に八重椿の写実が華麗に踊る『名樹散椿』、そして装飾と写実と象徴が豊かに調和する『炎舞』──。決してスタイルに固執せず、絵に真実を求めた画家が残した、近代日本画の大いなる到達」
本書の表紙にはこのような一文がありますが、まさにこの通りですね。挙げられているのはどれも御舟の代表作で、
●着物の柄や背景などを超細密に描きながら、醜いまでの表情をした舞妓を描き、「悪写実」と酷評され、横山大観が激怒したという逸話が伝わる『京の舞妓』
●不動明王などの仏画の光背を参考にしたと思われる炎に、周辺をぼかすことで幻想的に仕上げた『炎舞』。蛾が引き寄せられて炎に飛び込む様を描いた傑作です
●琳派を意識した金屏風ながら、金箔を貼るのではなく、細かく砕いた金の粉を丁寧に振ることで鈍い光を生み出した『名樹散椿』。昭和期の美術作品として最も早く重要文化財に指定されたものです
どれもこれもが素晴らしい作品なんですが、どれもが全く違う画風であり、とても同じ作家の作品とは思えません。本書では時代別に御舟の作品を紹介していますが、初期の新南画風から超細密描写、古典への回帰、ヨーロッパの見聞を生かした作風など、時期ごとに目まぐるしく変化しています。そのどれもが素晴らしく、40歳の若さで亡くなっていなければどんな方向へ進んだのだろうかと想像をかきたてられますね。
御舟の作品たちは、東京・渋谷の山種美術館に100点以上が所蔵されています。次に上京する際には、ここも必ず行きたいと思います!