さいごの色街 飛田
古い遊郭の雰囲気を残す大阪・飛田のルポ。色んなことを考えさせられる一冊です
現代に残る「色街」、大坂・飛田について、12年もの取材を続けて描いたノンフィクション。女性ライターによる執念の取材ぶりが伝わってきて、迫力がありました。
古い遊郭街の雰囲気を色濃く残し、お店の上り口に強烈な照明を浴びた女性が座り、その横で呼び込みのおばちゃんが道行く男たちに声をかけていく。今なお大阪の天王寺駅のすぐ近くで、そんなスタイルで営業を続けている不思議な場所です。
この界隈で写真を撮ることも許されませんし、基本的には店主もホームページすら開設していなかったというほど対外的に閉ざされています。そんなところへ女性ライターが入り込もうというのですから、並大抵のことではありません。取材依頼は当然のように断られ続け、上手く進展しない様子もリアリティが感じられ、どんどん引きこまれていきます。
説明文:「遊廓の名残りをとどめる、大阪・飛田。社会のあらゆる矛盾をのみ込む貪欲で多面的なこの街に、人はなぜ引き寄せられるのか!取材拒否の街に挑んだ12年、衝撃のノンフィクション。」
私はこの手の風俗本はほとんど読みませんが、以前は遊郭だったという建物は好きですし、飛田地区の不思議な佇まいには興味がありました。一度だけ足を踏み入れたことがありますが、そのあまりの異質な空気に足がすくんだ記憶があります。外野からおそるおそる眺めている私のような人間にとって、及び腰になりながらも取材を進めていく筆者の姿勢は、とても共感できるものです。言い方は良くありませんが「怖いもの見たさを満たしてくれる」という感じですね。
この本では、飛田を利用した経験のある一般男性の体験談を聞いてみたり、中で営業する店主や女の子たちにアプローチしてみたり、取材希望のビラをまいてみたり、求人に電話してみたり、近場のヤクザさんの事務所へ突撃してみたり…と、とにかくありとあらゆる方法で中へ入ろうと試みています。
もちろん成果もありますが、たいていは肝心な点まで切り込めないことが多く、そういった意味ではモヤモヤします。飛田の特殊性による部分もあるのでしょうが、他のルポと比べればその完成度は低いと言わざるを得ません。
しかし、飛田の成り立ちや他の色街との違いなど、この本で得られる情報は膨大です。他の風俗街とはそもそも違った場所であることが十分に把握できました。「飛田の内情を掘り下げる」のではなく、「飛田へ取材を挑んで跳ね返された体験談」として見ると、それはそれでリアルですね(笑)
なお、Amazonのレビューを見るとかなり評価が割れていますが、どちらの言い分もよく分かります。長い間粘り強く取材したことは称賛に値しますし、情報量もすごいです。しかし、突っ込み不足であり、取材中に時おりウソを交えたりする(そしてそれを本の中で明かす)姿勢に対しては疑問が残ります。
そんなことを踏まえながらも、私個人的にはとても興味深く読めましたし、色々と考えさせられました。
なお、筆者も後書きで書いていますが、飛田という場所は、客として行くならともかく、興味本位で行くような場所ではありません。決して安全な場所とは言えませんのでご注意ください。