京都の古社寺 色彩巡礼: 信仰の色、古典の彩りを求めて
古社寺の「色」に関するエッセイと美しい画像。赤紫青緑黄茶黒白金極彩色。色の宝庫です!
京都の染師であり、日本の伝統色と染織の歴史を研究している筆者さんによる著作。京都の古社寺に見られる「色」に関するエッセイと、美しい画像で構成されています。職人さんのフィルターを通して、その色にまつわるエピソードなどを読んでみると、京都の社寺の風景もまた違った深みが感じられますね。
説明文:「1,200年以上の歴史を有する京都の市街とその周辺にある寺院・神社には所蔵の文化財に、伝承される祭礼や行事に、または山内境内を彩る植栽に古来の色彩の伝統を伝えるものが数多くあります。本書は染色史家、そして古代の色の復元事業や、エッセイストで知られる吉岡氏の文と写真家の中田氏による写真によって、10色の章立てで構成し、京の古寺・古社を取り巻く色彩について語る一冊です。京都・奈良の社寺と関わりが深く、伝統的色彩にこだわりを持つ著者の視点と中田氏の写真によって、京都の古社寺の色彩の秘密・魅力を紹介します。」
京都の色というと、真っ先に思い浮かんだのが、伏見稲荷大社の千本鳥居の朱色でした。その他、苔の緑色、仏像の金色などが連想されますが、祇園祭の絨毯、紺色の紙に金字で描いた教典、掃き清められた庭園の白砂、しめ縄の茶色、金具の錆びた色など、他にもいくらでも見つかります。僧侶の法衣には鮮やかな黒や黄色が使われていますし、建築物ももともとは群青や赤などの貴重な素材を用いて華やかに塗られていたのです。
美しい画像を見ているだけでもため息がでるようですが、さすがにプロの染師の方だけに、古来から日本人が色を生み出してきた苦労や工夫に触れられていて、これがとても面白いんですよね。何点か簡単に書きだしてみます。
●冠位十二階の最上位とされたように、古くからもっとも高貴な色とされた「紫」。紫草の根で染めるが、何度も繰り返し染め続けなければ濃い色にならない。法衣の「黒」なども濃さを感じさせるのは大変な作業になる。
●「群青」は特に貴重とされ、海外ではラピスラズリが用いられ(フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」のターバンなど)、正倉院宝物にいくつか遺っている。日本では同じく貴重なアズライトを使用したが、採取量はごくわずか。徳川家の御用絵師・狩野派でさえ、大きな襖絵を描く際には、群青だけは下賜してほしいと所望したとか。
こんなエピソードがたっぷりと詰まっています。古社寺へ行くと、まずは形などから入りますが、色に注目してみるとまた違った見方ができるようになりますね。最後まで楽しく読了しました!