
覚えておきたい順 万葉集の名歌 (中経の文庫)
万葉歌を「覚えておきたい順」で100首収録。切り口がいいですね。初心者さんはぜひ!
万葉集の本は数多く出版されていますが、それを「覚えておきたい順」という、ちょっと斬新な切り口で収録したもの。明日香村の万葉文化館さんで見つけて即購入しましたが、実は2007年に発売されていたようです。
本書の前書きなどにも書かれていますが、有名な歌であっても、意外とスラッと出てこないことは多々ありますので、ある意味では参考書的な触れ方があってもいいですね。覚えておくべき順に前半から並んでいるため、先頭あたりから適当にページをめくっていくと、いつの間にか記憶に残っていくでしょう。
説明文:「日本人の心情の原型、美意識の原点が『万葉集』にはあります。しかし、実際に読むとなるとなかなか大変です。なにしろ全二十巻、約四千五百首もあるからです。そこで、本書では、ぜひ覚えておきたい歌を百首選びました。」
本書の構成は、「ぜひとも覚えておきたい万葉の歌」が20首、「できれば~」が30首、「なるべく~」が50首の計100首が、訳と作者の経歴、簡単な解説とともに掲載されています(巻末にはちょっとしたクイズページも)。覚えておきたい順ですから、歌の時代は前後しますので、初心者の方が体系だって覚えるには不向きですが、名歌と呼ばれるものばかりが登場しますから、最後まで読みやすいでしょう。
また、ちょっとだけ知識がついてきたレベルの私にとっては、「ぜひとも」に収められたベスト20の歌を見て、この歌よりもこっちでしょ…などと考えてみるのも楽しいですね。色んな時代から歴史的な背景も踏まえて選ばれていると思いますが、個人的には納得のいかない(?)ところもあります。
ここでは全ては触れませんが(細かくはまた別のところで書きたいと思います)、ベスト20の歌の中には、当然のことながら有名な秀歌が掲載されています。
●東の 野にかぎろいの 立つ見えて かへり見すれば 月傾きぬ(柿本人麻呂 1-48)
●あをによし 寧楽のみやこは 咲く花の におふがごとく 今盛りなり(小野老 3-328)
●田子の浦ゆ うち出でて見れば 真白にそ ふじの高嶺に 雪は降りける(山部赤人 3-318)
●春過ぎて 夏来たるらし 白栲の 衣ほしたり 天の香具山(持統天皇 1-28)
などは文句なしのセレクションだと思います。しかし、ここにもれた中にも、私ならこんな歌を入れたいというものがたくさん見つかります。
●君が行く 道のながてを 繰り畳ね 焼き亡ぼさむ 天の火もがも (狭野茅上娘子 15-3724)
●二人ゆけど 行き過ぎ難し 秋山を いかにか君が 独り超ゆらむ(大伯皇女 2-106)
●采女の 袖吹きかへす 明日香風 都を遠み いたづらに吹く(志貴皇子 1-51)
●しるしなき 物を思はずは 一杯の 濁れる酒を 飲むべくあるらし(大伴旅人 3-338)
などなど。そんなことを考えてみるだけでも楽しいですね。
万葉集というと、とてもとっつきづらいものというイメージがあるかもしれませんが、難しいことは考えずに、こんな気軽な本をパラパラッとめくるところから始めてみるのもいいかもしれません。お値段もサイズもお手頃な文庫本ですから、興味のある方はぜひ!