もっと知りたい禅の美術 (アート・ビギナーズ・コレクション)
禅の美術の世界を分かりやすく。絵画はもちろん、仏像・建築・庭園まで網羅してます
複雑に見える「禅」の美術の世界を、初心者にも分かりやすく総合的に紹介した一冊。簡単な禅の歴史から、絵画(始祖たちの絵画・障壁画・黄檗の絵画など)、頂相(ちんそう。禅僧の肖像のこと)の絵画と彫刻、禅院に祀られる仏像、禅宗建築と庭など、その特徴とそこに込められた思想を解説しています。
説明文:「悟りの証である師の肖像画をはじめ、漢詩文の流行から生まれた詩画軸、日本絵画史上に燦然と輝く巨匠たちの障壁画、ユーモラスな禅画。禅特有の仏像や神像、一直線に立ち並ぶ伽藍建築。枯山水に代表される禅院の庭。禅美術の多彩で豊かな世界をトータルに紹介。」
禅の美術というと、真っ先に達磨大師などを描いた禅画が思い浮かびます。それに関しては大まかな流れを解説したのみですが、より分かりやすい内容の本が多数見つかりますので、簡単に特徴を把握するくらいですね。
個人的に面白かったのは、禅僧の姿を像にした頂相彫刻と、禅寺に祀られる仏像の項目です。禅宗が日本へ伝えられたのは鎌倉時代以降ですから、彫像もその時代のリアリティーあふれる像が残されています。他の宗派では僧形像は次第に作られなくなっていったように思いますが、師から弟子へ直接教えを伝えていく禅宗では、肖像彫刻の作例が多かったのでしょう。
また禅宗寺院に祀られる仏像というと、あまり具体的なイメージが湧きづらいですが、さまざまな種類のものが遺されています。例えば、庫院に韋駄天像を祀るのは禅宗寺院独特のもので、それ以前は日本には像として祀られることはなかったそうです。西浄(せいちん。トイレのこと)には烏枢沙摩明王を、浴室には跋陀婆羅尊者像(ばっだばらそんじゃぞう)を祀り、他では聞いたことのない「伽藍神像」という仏様もおわすとか。独特ですね。
さらに、法衣が両膝の部分から長く垂れ下がった釈迦像、神奈川・東慶寺の水月観音像のように、ややしどけなく座った変化観音たちなど、禅宗とともに一般化していったものと言えるかもしれません。この他、建築や庭園など、独自の世界観が分かりやすく解説されていて、最後まで楽しく読めました。
奈良在住の私にとっては、禅寺は身近にはあまり存在しないため、なかなか拝観する機会も少ないのですが、次に京都の禅寺へ行った際には、その特徴を意識しながら見てみたいと思います。