ヘンな日本美術史
「ヘン」から見る日本美術。日本画の面白さと不思議さが楽しく理解できます
現代美術家の山口晃さん(Wikipedia・画像検索結果)による、日本画についての画論。カルチャースクールで「私見 日本の古い絵」というタイトルで語った内容を再編集しているそうです。タイトルに「ヘンな」とあるように、硬いばかりではなく日本画独特のおかしさも充分に伝わって来ました。
説明文:「山口晃、初の書き下ろし「画論」!自分が描いたということにこだわらなかった「鳥獣戯画」の作者たち。絹本に白色を差すまでの絵師の心細さ。「伝源頼朝像」を見たときのがっかり感の理由。終生「こけつまろびつ」の破綻ぶりで疾走した雪舟のすごさ。グーグルマップに負けない「洛中洛外図」の空間性。「彦根屏風」など、デッサンなんかクソくらえと云わんばかりのヘンな絵の数々。そして月岡芳年や川村清雄ら、西洋的写実を知ってしまった時代の日本人絵師たちの苦悩と試行錯誤……。絵描きの視点だからこそ見えてきた、まったく新しい日本美術史!」
「ヘン」の理由は様々ですが、どれも興味深く読めました。私は日本美術史の細かい流れまで把握していませんが、日本画が奥行きのない2次元で構成されてきたということくらいは聞いたことがあります。それが西洋絵画の遠近法が入ってきて、これがやや歪んで取り入れられて…というような過程が面白いです。お茶の世界などで見られるように、早くから「崩し」の良さを取り入れてきた日本人ですから、絵画でも知ってか知らずかそんな思考が見られるようです。
そういった視点から、何パターンも描かれてヘタウマも混ざっている「洛中洛外図」や、ポーズが明らかに歪んで見える「彦根図屏風」、横顔なのに変な角度に見えてしまう雪舟の「慧可断臂図(えかだんぴず)」などを見ると、また不思議な面白さがあります。
また、筆者は現役の画家ですから、アーティストならではの具体的な感想が述べられているのも面白いところです。
画聖とあがめられる雪舟は、絵を描く前にしこたまお酒を飲んでいたと伝わっているのだとか。よくあるようなエピソードですが、筆者が実際にこれを試してみたところ、迷いがなくなりあっという間に絵が描けるのだとか。しかし、迷わない分だけ自分の持っているものを超えられないそうです。「酔った勢いの手癖と云いますか、自分の一番縮こまった部分だけで描いた痩せた絵にしかなりません。」リアルですよね(笑)
カラー図版も多めですし、どなたにも楽しめる内容ですね。日本美術に興味のある方は、ぜひ気軽に手にとってみてください!