
若冲になったアメリカ人 ジョー・D・プライス物語
世界的な江戸絵画コレクターのアメリカ人へのインタビュー。ただただ感動と感謝です!
伊藤若冲・長沢芦雪・酒井抱一など、日本の江戸時代の絵画の膨大なコレクション「プライス・コレクション」を築き上げた、アメリカ人ビジネスマン「ジョー・プライス氏」へのインタビューです。2007年に発売されたもので、インタビュアーは山下裕二教授。打ち解けた雰囲気が伝わってくるようで、プライス氏の穏やかな人柄にはますます好感がもてました。
この2006年には、若冲と江戸絵画を展示した「プライスコレクション展」が日本を巡回。伊藤若冲の名前を全国に知らしめました。その後もプライス氏のコレクションはたびたび日本へ貸し出され、今なお日本人から再発見され続けています。私はこの本が発売された当時は若冲の名前すら知らず、最近になってその魅力に取り憑かれたばかりです。テレビの特集などでは必ずプライス氏が登場しますから、その優しそうな笑顔は記憶に残っていましたが、本書を読んでますます大好きになりました!
紹介文:「若冲コレクター、ジョー・プライス氏の半生。若冲の絵のコレクターとして世界的に有名なジョー・プライス氏のこれまでの半生をインタビュー形式でまとめた一冊。「葡萄図」との出会いで啓示を受け、ついに日本で展覧会が開催されるまでの軌跡を語り尽くす。」
プライス氏は、アメリカの裕福な実業家の次男として生まれました。実業家として世界を飛び回っていたある日、ニューヨークの骨董屋で日本の掛け軸に出会い、作者も分からないまま購入します。それが江戸後期に京都画壇で活躍した伊藤若冲の『葡萄図』でした。その当時は、日本国内でもこの時代の絵画は顧みられておらず、ましてやアメリカに資料などありません。江戸美術に魅入られたプライス氏は、ほとんど情報も無いまま、自分の審美眼だけを信じてコレクションを増やしていきました。
後にこの時代の美術の価値が認められるようになりますが、プライス氏は自分の大好きな絵の価値を分かってくれる人間も少なかったため、ずっと寂しい思いをしてきたのだとか。それらの美術品を広く知ってもらうために、今でも貸出料などは受け取らないまま日本での展示会開催に協力していることも多いのだそうです。
海外の日本美術のコレクターというと、裕福な家に生まれた男が自分の好きなものを収集しまくる…というイメージを持ちますが、その正反対ですね。日本で打ち捨てられたようになっていた作品群を探しだしてコレクションし、私たちに紹介してくれるのですから、まさに恩人といえるでしょう。
本書では、山下教授のリードによって、プライス氏の人生とコレクションに対する愛情がたっぷりと語られています。画像も交え、分かりやすい注釈もつけられていますので、初心者でも分かりやすいでしょう。また、巻末には60ページにわたって、自らのコレクションの中から35作品を選び、プライス氏自身が解説をつけています。愛情がたっぷりと感じられて、思わず涙しそうになりますね。
ちなみに、2013年には東北3県の復興支援を目的とした特別展「若冲が来てくれました―プライスコレクション 江戸絵画の美と生命」が企画されており、3月から仙台・盛岡・福島と巡回します。この企画が実現する陰には、こんな親日家のおじさんがいることをぜひ知ってほしいですね。