奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)
江戸時代の奇想の絵師の再評価につながった、40年前のエポックメイキングな一冊
本書で取り上げられているのは、岩佐又兵衛・狩野山雪・伊藤若冲・曾我蕭白・長沢芦雪・歌川国芳の6名の江戸時代の絵師。いずれもクセの強い絵を描いており、近代ではその存在が忘れられかけていました。しかし『美術手帖』の1968年の連載記事をもとにした本書が出版されたこともきっかけとなって再評価が始まり、今ではみな前衛的な奇想の絵師として人気を博しています。
今から40年も前の内容ですし、文庫本化されてからも10年以上がたっていますので、内容にやや古い記述も見られますが、美術史のエポックとなった貴重な内容であることは間違いありません。
紹介文:「意表を突く構図、強烈な色、グロテスクなフォルム―近世絵画史において長く傍系とされてきた岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳ら表現主義的傾向の画家たち。本書は、奇矯(エキセントリック)で幻想的(ファンタスティック)なイメージの表出を特徴とする彼らを「奇想」という言葉で定義して、“異端”ではなく“主流”の中での前衛と再評価する。刊行時、絵画史を書き換える画期的著作としてセンセーションを巻き起こし、若冲らの大規模な再評価の火付け役ともなった名著、待望の文庫化。大胆で斬新、度肝を抜かれる奇想画家の世界へようこそ!図版多数。」
正直なところ、今小さな文庫本で読んでみても図版は見づらいですし、私のような初心者にはやや難解なところもあります。ここで取り上げられた絵師たちは今では大人気となっており、それぞれの解説書や画集が気軽に手に入ります。初心者の方にはフルカラーの分かりやすい内容のものから読み始めた方がいいでしょう。
sかし、具体的で興味深いエピソードも多く収録されています。曾我蕭白のところでは、ボストン美術館の某氏が来日してその収蔵品について紹介を受け、「この本の図版に間に合わせることができた」と言っているのが、大作「雲龍図」です。この作品はボストンに渡った後、ニセモノ扱いされて長い間倉庫に眠っていたのを再発見されたばかりだったとか。今では蕭白の代表作とされる作品ですが、わずか40年前にはこんな状況だったんですね。歴史を感じました(笑)