五重塔入門 (とんぼの本)
国宝の11の五重塔の歴史・工法などを解説。古建築好きにはたまらない良書です!
国宝に指定されている全11の五重塔について、その工法や特徴、歴史などを詳細に解説した一冊。専門的な用語も出てきますから、初心者の方にはやや難しいかもしれませんが、五重塔の魅力をマニアックに解説した良書です。図書館で借りてきましたが、すぐにでも買い直すと思います(笑)
本書で扱われるのは、国宝に指定された五重塔のみ。奈良と周辺からは、法隆寺・海龍王寺・元興寺・室生寺・海住山寺・興福寺が。その他は、醍醐寺・明王院・羽黒山・瑠璃光寺・教王護国寺(東寺)となります。
それぞれ単独で見てもすごいのですが、本書ではその造形的・工法的な特徴を指摘してくれるため比較しやすいんですね。それも創建の年代によっての違いなどにも触れられているため、とても参考になります。軒の組物の特徴や、高欄の有無、逓減率(上の階へ行くほど細くなる比率)の変遷など、良いデータが揃っています。五重塔の内部の写真も比較的豊富ですし、全ての塔の断面図が掲載されているのも嬉しいポイントです。古建築好きな人間にはたまりませんね!
同じ工法のものは一つとして遺っていませんが、中でも面白かったのは、海住山寺の五重塔です。鎌倉時代(1214年)の建立で、見た目からして初層の裳階(もこし。階と階の間につく屋根のようなもの)がテントのような吹きはなちになっている、かなり珍しいものです。さらに、心柱を初重天井の上に立てたり(地面上に届いていない)、組物は全て二手先だったり、初重内部は須弥壇ではなく厨子になっていたりと、かなり特異な存在なのだとか。まだこの塔の内陣公開は拝見したことがありませんので、必ず観に行きたいと思います。
五重塔それぞれを、写真や断面図、境内図、解説文で詳細に紹介しているページもいいですが、最初と最後に掲載されている文章も読み応えがありました。冒頭から「人類はどうして塔を立てずにはいられないのか」「私たちはなぜ五重塔に心ひかれるのか」も興味深かったです。
さらに、巻末の「卒塔婆からスカイツリーまで 五重塔2500年史」が圧巻ですね!時代ごとの五重塔の通史を追っています。例えば、戦後の廃仏毀釈の際、興福寺五重塔がわずか25円で売却されそうになった…という有名なエピソードがありますが、同時期の他の建物の売却価格よりも安すぎる(明治6年、久能山東照宮の塔の売却金額は2,025円だったとか)などの理由から、筆者はこれに疑問を投げかけています。面白いですね。
全くの初心者の方には難解かもしれませんが、読み応えのある素晴らしい内容でした。この方面がお好きな方はぜひ!