2012-08-03
横尾忠則 Y字路
モチーフは「Y字路」。現場の写真とドロー作品を見比べる不思議な作品群
2006年に発売された大型美術書(お値段5,250円)。どこにでもあるような「Y字路」をモチーフに、現場の写真とそれを元に描いた作品を並べ見比べるようになっています。横尾忠則さんというと、ポスター的な手法を用いたビビッドな作品が好きですが、こうしたドロー作品もすごいですね。
子供の頃に通っていたY字路にたつ模型店を夜に訪ねたところ、すでに取り壊されていたことから、この企画が始まったとか。懐かしいはずの場所なのに、ノスタルジーは消え失せ、普遍的な夜のY路地に変容していたことから、私意識から切り離された普遍的なものとしてY路地を描いたのだそうです。
どこにでもあるような普遍的な夜のY路地でありながら、もとの画像を見る限りでも同じものはひとつとしてありません。それを写実的に描いたり、油絵的に描いたりすることで、無限のバリエーションが生まれています。さらには、そこにはないバラの花、遊ぶ子供の姿、不思議な影などを書き込むことで、より非日常性が際立っています。作者は普遍性を求めながらも、どれひとつとして凡庸な風景に収まっていないのです。とても興味深い作品集でした。
なお、この本が手に入りづらいようであれば、同じテーマを扱った『東京Y字路』を探してみるといいかもしれません。いずれにしても高額本ですから、まずは図書館で探してみてください。