2012-06-15

もっと知りたい歌川国芳―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

幕末に活躍した奇想の浮世絵師の作品を分かりやすく解説

幕末の浮世絵師「歌川国芳」の作品を、初心者にも分かりやすく解説した一冊。収録点数は決して多くありませんし、独特の猫の絵や風刺画・戯画なども比較的少なめですが、様々なジャンルの絵を手がけ、いずれも十分な力量を持っていたことが伝わってくる内容になっています。

国芳は、歌川豊国の門下生で、若いころは兄弟弟子の国貞の後塵を拝し続ける不遇の日々を送りました。しかし、「水滸伝」シリーズが大当たりし、一躍人気浮世絵師の仲間入りを果たします。初期の頃のやや拙い印象もあるシンプルな作品も悪くないですし、水滸伝を題材にした、グロテスクなまでの迫力に満ちた作品群もいいですね。本人は「宵越しの銭は持たない」という江戸っ子気質で、多くの弟子を引き連れて飲み歩くような人だったとか。江戸の末期にそんな粋な人間が実在したことを想像するだけでもちょっと楽しくなります。

個人的に好きなのは、やはり大判三枚続(通常の三枚分の紙を使ったもの)の「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」「宮本武蔵と巨鯨」などのダイナミックな作品ですね。三枚の紙を縦に並べた「那智の滝の文覚」なども美しいです。武者絵と怪奇絵の良さがややアンバランスにミックスされていて、見飽きない作品群だと思います。

とにかく、国芳を始めとするこの時代の浮世絵師たちは、ありとあらゆるタイプの作品を手がけていますので、その全体像を把握しづらいのですが、この「アート・ビギナーズ・コレクション」シリーズは分かりやすくて入門書には最適です。ぜひ幕末の鬼才の仕事ぶりに感嘆してみてください!


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